あたしの弱点!?
エリナと模擬戦をすることになった咲希。
今日は特段と調子のいい咲希だったが…!?
あたしはエリナと向い合せの席に座り、ボウリングのスコアボードを見つめた。
どうやら先行はあたしでエリナが後攻のようだ。
「ブトウサン…センコウデスヨ…。」
「ふふ、初回からストライク行っちゃうわよ。」
今日は腕の調子もよい、あたしは自信満々にレールに立ち、勢いよく投球した。
ゴロゴロと流れ、右、左へとカーブをしながらピンを一本ずつ倒していく。
「ヨシッ」
「ブトウサン…キョウモチョウシイイデスネ。」
ふふふ、エリナったら今日のあたしの実力に勝てるかしら。
絶好調の時は負ける気がしないのだ。
「次、エリナの番よ。」
「モウ…ナゲマシタ…。」
「えっ!?」
レールを見るとすでにピンは一本になっており、妙にまっすぐな角度でボールが転がっていく。
そして、最後のピンをコンッと倒した。
「え…嘘ッいつのまに!?」
「フフフ…スペアデシタネ…」
ありえない、あたしが目を離したのはたった1秒かそこら、
その一瞬で2球も投げるなんて、どういうことなの!?
「混乱しているようね、咲希さん。」
「ゆ、夢美部長、エリナは一体。」
あたしは恐る恐る夢美に問う。
すると、夢見はうーん、と少し悩むふりをすると口を開いた。
「咲希さん、あなた電車や街角でエリナさんによく似た人を見かけたことはないかしら?」
「あっ…確かにあります。昨日も街角のパン屋さんで見かけました。でも、それって何の関係が?」
「エリナさんは一人のはずなのに、よく似てる人を見かける。おかしいですわよね。」
どういうことだ。エリナは一人のはずだ。
双子でも、三つ子でもない。
やれやれ、といった顔を浮かべると夢美は答えた。
「簡潔に申し上げますわ。彼女が今ボールを投げたのは、分身ですわよ。」
「ぶ、分身ッ!?」
「ええ、そのとおり。分身ですわ。」
広い部室にただ並べられたボールやピンを眺めながら、夢美はつづける。
「彼女はあの”カネコ・メシ=クイスギー”と同じ幻術使い。確かに存在はするのにそこにはいない。わたくし達は彼女の分身を夢幻存在と呼んでいますわ。」
「なるほど…ね。」
あたしは深呼吸し、こんがらがる頭を整理した。
ボウリングでなぜ分身を出すのか。まったく意味がわからないが、彼女に一切のスキがないことが分かった。
きっと緊張していたり、ヤジを飛ばされたりしていても無駄だろう。
彼女の分身、夢幻存在がいる限りはメンタル面などで強いはずだ。
このスポーツ、ボーリングでは精神の統一こそ勝利の秘訣なのだ。
そこには卓球やテニス、野球とはまた違った集中が必要。その点においてエリナは最強だろう。
「アレ、ブトウサン…。テガトマッテマスヨ…。」
「えっ、あっそうか、次、あたしの番か。」
まずい、完全にペースを崩されている。
次もストライクを取って「もいっこストライク」というつもりだったのに、これでは集中力が乱れてしまう。
もう一度、あたしは深呼吸をするとレーンに立った。
「そんな攻撃効かないわよっ!」
あたしは先ほどよりも大きな勢いと声で投球した。
「アタシノセトゥ!!」
「ああっ!?あまりの緊張で咲希ちゃんが噛んだにぃ!?」
まずいっ!?あたしは”発声型”のボウラーだ。
そう、あたしの弱点は『言葉を噛むと集中が乱れる。』という点があった。
案の定、あたしのボールは”満員電車でヨボヨボの70代老人があまりの人ごみに耐えられず、途中駅で降りるとき”のような軌道を見せるとガーターゾーンへと落ちていった。
「そ、そんな。あたしがガ、ガーターなんて…!!」
「(あの咲希さんが、ガーター。相当メンタル攻撃にやられたのですわね。これでは、幻術使いカネコ・メシ=クイスギーに当たった場合、対処できませんわ。さぁこの勝負、見ものですわね。)」
――――――――どおじでだよお゛お゛お゛!!
…何故だ。この前見たナガリョー・ウォントマネーの映像を思い出す。
あ、あたしもあんなふうに幻術に魅せられて…? い、いやっ!!
「ブトウサン、ドウシタンデスカ。」
エリナは席にずっと座ったまま、ラムネ菓子をほおばっている。
あたしは、どうすればいいの…!!