ライバル登場!?
私は正式に入部届を提出し、この十柱戯部に入部した。
メンバーはもちろん夢実部長、エリナ、るいな、そしてあたし咲希の4人だった。
「では、あらためまして咲希さん、よろしくお願いいたしますわ。」
「咲希ちゃんがいれば優勝間違いなしだにぃ!」
「コレハモウ…カッタモドウゼンデスネ」
「えー? あたし期待されてる?? やだー、あたしそういうの苦手だから!」
恥ずかしさのあまり、私は小汚い鞄からマイボールを取り出すと、
投球練習を始めた。
「アタシノセカイッ!! アタシノセk…」
「咲希さん、お待ちなさって。 本日は投球練習じゃなくってよ。」
「ソウデスヨ…キョウハビデオカンショウノヒデスヨ…」
「ビデオ鑑賞??」
思わず私は聞いてしまった。
「そうだにぃ。今日は強豪校達がそろう試合のテープを極秘でもらったから、それを研究するのらぁ。」
そういうと、るいなはビデオテープを古い機材にぶち込むと電源を入れた。
ちょうどテレビの画面が付いたころだろうか。夢実部長が口を開いた。
「ではるいなさん、"例"の試合を再生してくださるかしら。」
「例の試合…?」
私は夢美部長に問いかける。
「ええ、前年度の"キグウの世代"が集結した、通称ジュッキー・メシイコ杯ですわ。」
キグウの世代。
そう、いわゆるボーリングの天才たちの総称である。
皆さんもご存じであろうあの岡崎・ヤーバイッスネや八条空子達が参加したといわれる、
あのジュッキー・メシイコ杯の試合だ。
「う、嘘…そんな貴重映像が見れるなんて…あたし信じられない。」
「ホラ…モウドウガハジマリマスヨ…」
冴えない顔つきでエリナが画面に指を刺す。
そこには2人のプロボウラーの姿があった。
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…
「決勝戦!! 『カネコ・メシ=クイスギー』対『ナガリョー・ウォントマネー』の試合を始める!!
審判を務めるのは、この私、オガー・ホラナユッタロだ!二人とも正々堂々勝負するように!! 」
決勝戦の掛け声を上げているオガー審判は、黒服でサングラスをかけているイカツイ審判だ。
だが、そのサングラスの奥のつぶらな瞳には僅かに涙を含ませている。
歴史を変えるかもしれない、そんな試合を見れて感動しているのだろう。
「両者前へ出て握手せれ!!」
そういうと、決勝戦出場であろう2人の影が登壇した。
恐らく右にいるのがカネコ・メシ=クイスギーで左にいるのがナガリョー・ウォントマネーだろう。
二人から異常なほどのオーラを感じる…これが世界級プロボウラーの勝負なの…!?
カネコとナガリョーはお互いに握手し、
試合の行われるレーンへと向かった。
1打目はカネコ・メシ=クイスギーだ。
「決勝戦だけど余裕でしょ。 早く終わらせて中華食べに行こ!」
といいカネコは手からボールを放った。
やけにフラフラしたその球はやたらと左にそれた後に3本のピンが倒れた。
「…!! 今のでかくない!?」
「…えっ!?」
驚きのあまり声を出してしまった。
ここまでのプロボウラーが3本のピンで「今のでかくない!?」とはどういうこと!?
ここで夢美部長はビデオを一時停止した。
「フフフ…驚くのも無理ないわね。 次の投球を見ればきっと意味が分かるはずよ。」
そういうと再度ビデオを再生した。
状況は3本のピンが倒れた為、残り7本だ。
「んじゃいっきまーす。」
先ほどと同じ手順でボールを投球するカネコ。
異様にフラフラした球は先ほどとは逆に右にそれていた。
これじゃ倒れても2,3本…ん?
画面のはじを見るともう一つの誰もいないレーンにボールが流れている。
いや、見渡す限りのレーン全部だ!
こ、これってまさか…。
「そう、前年度優勝者のカネコ・メシ=クイスギーは審判の目を盗んで全部のレーンにボールを投球するのですわよ。」
「え! でもそれって反則じゃ…」
「ブトウサン…シンパンヲ…ヨクミテクダサイ…」
一時停止して審判を見る。
オガー審判は『キグウの世代』の試合が見れて感動しているあまり、涙を拭いている。
どうやらナミダポロポロで前が見えていない…!?
「…つまり、審判の目を盗んで全部のレーンにボールを投球、それを全部自分の得点にしているってワケ!?」
「そういうことだにぃ! 卑怯な奴だにぃ!」
一時停止していた動画を再生する。
この時点でのカネコ・メシ=クイスギーの点数は大規模なボーリング場の為、既に500点を超えていた。
対戦相手のナガリョー・ウォントマネーも絶望のあまり泣き崩れている。
「どおじでだよお゛お゛お゛!!」
「ん? どしたの?お腹痛いの?」
圧勝のため余裕をこいているカネコ・メシ=クイスギーを見てられなくなったのか、
夢実部長は動画を完全に停止した。
「…実は来週のテメェ杯、カネコ・メシ=クイスギーが参加するという情報が少なからずあるのですわ。」
「ソレマデニ…ツカマッテイレバイイデスネ…ケイサツトカニ…」
来週のテメェ杯にこんな奴が混ざっている可能性があるっていうの…?
いや、考えすぎか。
「ふつうはこんなことしている奴が大会に出られるわけないよねー。 あたしそういうの許せないから。」
「だ、大丈夫だにぃ! きっと誰かが取り締まってくれるにぃ!」
「デ、デスヨネ…アハハアハハ」
笑いが起きる部内。
…だがどうも胸騒ぎがする。 このテメェ杯、何かが起きる気がする…。
大会まで残り1週間を切っていた。