勧誘!?
―――ついにこの時が来た。
全国専門学校十柱戯大会TMA杯、通称"テメェ"杯初戦の日だ。
「はぁ、やっぱりあたし緊張するわ…。」
「咲希さん、肩の力を抜いていつも通りプレイすれば、余裕ですわよ。」
「そうだにょ~。 初戦から大会相手はあの大川さんだけど、咲希なら余裕で勝てるにょ!」
「ワタシハ…カテルッテシンジテマス…。」
テメェ杯初戦の相手はあの強豪校出身の、大川さんだ。
チガウデショ、チガウデショ、と投球の練習をしている。
私は小さく深呼吸をした。 …落ち着けば勝てる。
…今視界に小さく勇利が移ったような気がしたが、見なかったことにする。
今までの特訓の成果を思い出すんだ…。
そう、あの出来事から始まったちょうど2週間前だ。――――――――――
――――2週間前――――
あたしは彼女たちとボーリングを楽しんだ後いつもの街路樹に照らされた帰り道を通っていた。
「早く帰ってパチンコの王子様見なきゃ…。
今日はゲストで負けた後の後ろ姿がかっこいい鈴木さんが出るのに。」
時刻はすでに17時を回っていた。
…放送開始まであと30分しかない。
そう思い、ちょうど足を早めた時だった。
聞き覚えのある、カタコトの声が聞こえた。
「ブトウサン…マッテクダサイ」
「あ… あなたは確か恨エリナさん。 それに皆も…。」
振り向くとそこには息を切らしながら走ってきた十柱戯部の皆だった。
呼吸を整えながら、部長の夢美は口を開いた。
「咲希さん…、あなた本当はボーリング経験者ですわね。」
「え、どうしてそれを…!」
「初回のストライクのキレ、ガーターなし、フォームの完成度…。
よく考えたら初心者じゃないってわかったにぃ!」
「ソウデスヨ…」
う…。ばれていたのか。
そう、私はこのボーリング部を初めて見たとき、彼女らを考え手加減していたのだ。
「ご、ごめんなさい。 あたしったらつい…。」
「いいのですわよ、そんなことお気になさらないで。」
「ソンナコトヨリブチョウ…。タイカイノハナシヲ…。」
失念してましたわ、と口元を小さく抑え夢実はつづけた。
「咲希さん、2週間後に開催される世界規模の大会、通称"テメェ"杯に出てくださらないかしら。」
「副部長のるいなからもお願いしますにぃ」
「え…!さっき話してた大会って、あのアメリカ出身の『オーガーラ・カイン』や
奇声の女帝『大川 多久実』さんが参加する、あのテメェ杯!?」
「ええ、そうですわよ。 今年こそ、わたくし達は絶対に優勝しなければなりませんの。」
というと、部長はうつむいてしまった。
どうしたのだろうか。
あたしの様子に気が付いたのだろうか、エリナがあたしに補足した。
「ジツハ…ウチノボーリングブ…コトシカタナイト"ハイブ"にナッチャウンデス。」
ハイブ…?
廃部のことだろうか。
「つまり、今年優勝しなければ廃部になるってことね。
それであたしに力を貸してほしい、と。」
「その通りだにぃ…」
るいなは申し訳なさそうにこちらを見ている。
「テメェ杯は1試合ごとにチームの一人を選抜し、1対1の戦いを行う。
その試合に出場した選手は、もうそのトーナメントに出場できない…そうだったよね。」
「その通りですわ。 つまりわたくしが初戦から出場すれば、あとはエリナさん、るいなさんしか残らない。
うちは人数が少ないからその分手札が少ないのですわ。」
「ドウカ…オナガイシヤス…」
エリナの口調が若干変わっていたのが気になるが、私は決断した。
「いいわ、あたしちょうど部活に入ろうと思ってたし。 むしろあたしもテメェ杯に出場したかったの。」
「え…。一度追い返しちゃったのに、いいのかにぃ?」
「全然気にしてないわよ! それにあたし達はもう十柱戯部の仲間でしょ?」
「サスガ…ブトウサンデスネ…ココロガヒロイ…」
「まぁ!よいのですか! ではこれから部内のミーティングを…」
「あ、いっけなーい!! デヤプリが始まっちゃう!! また明日ねーー!!!」
ポカン、と口を開けた部員たちを背にあたしは走り出した。
あと10分でデヤプリが始まっちゃう!!
こうしてあたしたちは2週間後に控えてる大会、テメェ杯に向けて
特訓を始めるのであった。
ただ一つ、あたしの弱点を隠して。