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咲希 ―Saku―  作者: エンシェント守岡
2/11

はじめての試合!

3人が準備を進めて約30秒、ボールとピカピカになったレーンが設置されていた。


「準備できましたわ。 さぁ咲希さん、あなたの使うボールは10番でよろしくて?」


「え、私もう準備できてるよ。 私そういうの厳しいから。」


そういうと私は引きずってきた薄汚いカバンからマイボールを2つほど取り出した。


「ま、まさかあなた、毎日それを引きずってらっしゃるの!?」


「えーあたし的には普通なんだけど…。 もしかして、持ってきたボールの数が少なすぎって意味!?」 


「オオスギッテイミデスヨ…」


「ま、まぁボールもあるみたいだし…そろそろやろうにぃ。」


また私は何かやっちゃったんだろうか。

3人は怪訝な顔を浮かべながら各自マイボールをそろえていく。


「ア…ソウイエバナマエハナンテイウンデスカ…。」


「あたし? あたしは武闘咲希(ぶとうさく) お母さんってよく呼ばれてるから気軽に呼んでね。」


「え…なぜそのようなお名前で呼ばれていらっしゃるのかしら。」


夢実が紅茶をすすりながらあたしに質問した。

るいなも続いて「あたしも気になるにぃ」と身を乗り出してきた。

どうやら興味津々のようである。


「えー、なんだろ… 気づいたら呼ばれるようになってたしなぁ… もしかしてやっぱりあたし家庭的って意味?」


「カテイテキナヒトハ…フツウボーリングノタマガッコウニモッテキマセンヨ…」


「そうかなぁ。 あたし的には普通なんだけど」


妙に納得いかないが、この3人はごもっともと言いたげな表情をしている。

しばしの沈黙、「ま、立ち話は何ですし。」と部長の夢実が口を開いた。


「では、1番手はわたくしから始めさせていただくわ。」


「お、トップバッターお願いするにぃ!」


夢実はピンクのマイボールを掴むとレーンの真ん中に立ち、勢いよくスローした。


「行きますわよっ!! そぉれ!!」


緩くカーブを描いたピンクの流星はみるみる真ん中のピンへと"音色"を立てて吸い込まれていった。

この音は、地面を超回転でこする音…。いや、これは…。


「これは…。 歌…ッ!?」


そうこうしているうちにボールはすべてのピンをなぎ倒し、

振り向き美人、夢美が席へとついた。


「フフフ…。まぁ当然ですわね。 わたくしの天と悪魔の召使ビハインド・ドリームヴォイスには美しい歌声がつきましてよ。」


「す、すごい…これがプロボウラーの技なの!?」


「イツミテモスゴイデスネコレ…」


いつもの3人はこんな高レベルの戦いをしているのだろうか。

思わず身震いした。だが、自分のプレーを披露するのが楽しみだった。


「じゃあ次は咲希ちゃんにお願いするにぃ。」


「えー、あたし? すごい緊張する…!」


「まぁ… 咲希さん、そう言いながら早くスローしたくて本当はたまらないのでは?」


「アトヲツケテキタッテコトハ…カナリノジツリョクシャナンジャナイデスカ…。」


などと後ろで話している声が聞こえた。

あたしはレーンの真ん中に立つとマイボールを真ん中に構え、スローイングした。


「アタシノセカイッ!!」


「えっ…。 今なんて…。」


夢実が私に質問する頃にはすでに、マイボール(アタシの球)は手を離れていた。

いつも通りガーターギリギリをストレートラインで走り抜け、美しいカーブ線を描きストライクを放っていた。


「ヨシッ」


「咲希さん…まさかあなたスローするたびに『アタシノセカイッ!!』って叫んでらっしゃるの…?」


「い、意味はあるのかにぃ…。」


「えー、やっぱ洗練されたセリフのほうが気合入るでしょ?」


「センレン…」


皆どうやらあたしの美しい技に翻弄されているようだ。

まさに「【衝撃】アタシの放った投球に一同驚愕。涙が止まらない…。」って感じね。


その後、続いてエリナとるいながスローイングし、あたしたちは1ゲームが終わるまで私たちはボールを投げ続けた。

どうやら、圧倒的点数差で勝ったのは部長の夢美、次にエリナ、るいな、あたしの順番だった。


「すごーい!! やっぱり部長はいつもすごいですにぃ。」


「まぁ、るいなさん。 褒めても何も出ませんわよ。フフフ…。」


「えー、あたし"ヨーロピアン"だったら勝ってたのにぃ」


「ココハブラジリアンスタイルシカ…アリマセンヨ…」


などと他愛のない話を続けること約10分、時刻はすでに16時を回っていた。


「あ、あたしもう帰らないと。」


「あら、もうお帰りになるのかしら。」


そういうと夢美は腕時計を確認した。

その後、ふぅ、と小さなため息をつくとあたし達にこう言い放った。


「最近は暗いですし…。 もう私たちも帰りましょうか。 "大会"も近いですし。」


大会…? あたしの耳は聞き逃さなかった。


「大会って何ですか?」


「な、何もないにぃ! 聞き間違いだにぃ!」


「ソ、ソウデスヨキキマチガイデス…」


夢実はハッとした表情をすると小さく咳ばらいをし、

「なんでもありませんわ、さぁ咲希さん、そろそろ支度を。」と言い、自分も帰り支度を始めた。

どうやら教えてもらえそうになさそうである。

まぁ、ちょうど帰ってからパチンコの王子様(激アツ・DA・デヤ)を見ようと思っていたし。


「はぁ…。 じゃああたしも帰るわ。 それじゃあまた。」


と、挨拶すると私は部室を後にするのだった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーその後の部室ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「やっと帰りましたわね…。」


「アヤウク…タイカイシュツジョウガ…バレルトコデシタネ…。」


「大会に出たいって言われたら困るからにぃ…。 可哀そうだけど仕方ないにょ。」


そう、私たちは今年の秋、全国専門学生十柱戯大会 TMA杯 通称"テメェ杯"に出場するのだ。

残念だが、ここで素人をレクチャーする暇はないのだ。


「でもあの子…素質はありましたわね。 光るものがあるばかりか、何か黒ずんでたよくわからない部分もありましたけど。」


私はふと、印刷した本日のスコア表を見た。

ここには何一つ変わらない、私たちのスコアが並んでいる。


「何一つ変わらない…??」


「ブチョウ…ドウシタンデスカ…」


何かおかしい。私は咲希のスコアを見ていた。

平凡だが得意げにふるまっていた彼女、なぜかスコアが低いのが気になる。

下手なのに、どうして堂々と「アタシノセカイッ!!」と言いながらスローしていたのか。


全体を見通した時、私は一つの"異変"に気付く。


「あっ!! 皆様ごらんなさって!! 咲希さんのスコアに、一切のガーターがないわ!!

 スコア60点ギリギリの初心者がこのような技術…ありえませんわ!!」


「ア…ホントジャナイデスカァ!」


「…ってことはつまりぃ、咲希ちゃん手加減してたってことかにぃ!?」



私たちはお互い目を合わせ、コクリとうなずくと彼女のあとを追いかけていた。


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