いざ、十柱戯部!
とある平日の昼下がり、私 武闘咲希は図書室で借りた本を読んでいた。
もちろん部活には入っておらず、毎日こうして学校の校庭で本を読んでいる。
「お~い!!咲希ィ!!」
「ちょ、勇利!! いきなり大きな声出さないで!! あたしそういうの厳しいから。」
振り返るまでもない、そこには幼馴染の 諸星勇利がいた。
「よっ、学食行こうぜ! 気になってるデリシャス弁当があるんだ。」
「これ今日返却日だから読まないと…」
「学食でも読めちゃうんですね~、それ。」
勇利はそういうと眼鏡をクイっと上げた。
紹介が遅れていた。この男、非常に不細工である。
「あのねぇ、その為だけに食事に誘うってどうなの? あたし許せないんですけど。」
「まぁまぁそういわず…」
と、勇利が言い終わる前に一人の美少女が視界に入った。
「きれい…」
同じ学年の綾部夢実さんだ。
容姿端麗、成績抜群のみんなが振り向く振りむき美人だ。
部活は何部に所属してるんだろう...。私はほぼ衝動的に足を動かしていた。
「お、おい咲希!! どこ行くんだよ!! 俺のデリシャス弁t」
「うるさいわねぇ… 死ね!! ドン」
進路を塞いできたブサイクソシャゲオタクの勇利を腹パンし、先を急いだ。
勇利は動かなくなっていた。
後を追うとそこには最近建てられたジョンナム専門学校新校舎の教室、通称「上田クラス」があった。
ここってまさか…あの十柱戯部!?
彼女はそこで足をぴたりと止め、こちらに気が付いたのか突如として振り向いた。
「あなた…もしかしてうちの「十柱戯部」に入部したいのかしら?」
「わ、わわわたしはただ…あなたを」
「あなたを?」
言えない。ついてきたなんて言えないわよ...!
そう思っていると彼女が口を開いた。
「フフフ…。まぁいいわ。 入りなさい。」
「え、いいんですか…! ヨシッ!!」
私は小さくガッツポーズをすると、夢実は少々怪訝そうな顔でこちらを凝視し部室のドアを開いた。
「みなさま、ごきげんよう。 今日も楽しんでいるかしら?」
「こ、ここが十柱戯部!?」
中はそう、まるでボーリングをするためだけに作られた貴族の遊び場のようだった。
今まで学校に行ってた同じジョンナム専門学校とは思えないわ。
「すごいにょ! 部長がまた新人つれてきたにょ!」
「あらあら田方るいなさん、この子は新人じゃなくってよ」
突如として突撃してきた少女は田方るいなというそうだ。
アバンギャルドな服装をした小さな女の子だ。
「学食で炎のから揚げのミミ買ってきたにぇー。」
「オチャ…イレマスネ…」
「あら、恨エリナさんいらしてたんですね。 ではお茶お願いしますわ。」
隅っこから現れたのは、恨エリナと呼ばれる物静かな女の子だ。
満員電車とかで一人はいそうなよくある顔つきをしている。
「夢実ちゃんはすごいんだにぇ。全国優勝経験在り。つまり最強のプロボウラーなんだにぇ。」
「まぁ、それほどのことでもなくってよ。 当然のことですわ。」
少々得意げに語る夢実を尻目に、エリナが口を開いた。
「ドウセナンダカラ…コノヒトモフクメテ…ボーリングデモシマショウヨ…」
「いいにぇー。自己紹介も聞きたいにぃー。」
「そうね…折角ですし、少々楽しむのも悪くないわね。 咲希さん、いかがかしら?」
あの十柱戯部とボーリングが出来るなんて夢のようだ。もちろん、と返事をしたかったが、私には一つ"気になる事"があった。
「もしかして…ここってあの"ヨーロピアンスタイル"ですか!?」
「え…ここは普通のブラジリアンスタイルですわよ。」
「えー、私ヨーロピアンが良かったぁ。」
「エ…フツウブラジリアンカチャイニーズジャナインデスカ…」
夢実含め3人が顔をしかめる。どうやら"ヨーロピアンスタイル"を理解しているのは私だけのようだった。
「まぁ、でもたまにはブラジリアンをやりたかったから参加しようかな。」
「え、えぇ…そうね。 たまには違うスタイルで実施するのがよろしくてよ。」
微妙な空気になりつつもそそくさと3人はボウリングの準備を始める。
この時の3人はまだ、咲希の正体を知る由もなかったのである…。