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遺灰の苦みで覚えてる

作者: 秋助

過去の作品です

至らない点は多々ありますが、どうかご容赦下さい

「××ちゃん。今年もお墓参りに来てくれてありがとう」

「……いえ」

 彼氏が亡くなってから、もう五年が経つ。

 飲酒運転で暴走していたトラックが歩道に勢い良く乗り上げ、彼氏と衝突したらしい。即死だそうだ。体はバラバラになって道中に散乱したと聞いた。人から聞いた話である。

 彼氏とのデート中、その事故は起きた。

 無残な姿となった彼氏の光景が目に焼き付いてしまった私は、その場で気を失って一時的な記憶喪失になった。

 意識が戻った頃にはすでに葬儀は済まされていた。

『これ、迷惑だと思うけど貰ってほしいの』

 言われて、おばさんから渡されたのは彼氏の遺灰だった。

 小さめの透明なビンに詰まれたそれは、灰というより砂と言い表した方が的確であった。私は遺灰の詰まったビンの蓋にヒモをくくり付けてペンダントの代わりとする。

 お墓の前でビンを撫でる。今では癖になってしまった。

「もう××ちゃんの方は平気なの?」

「……まぁ、五年も経ってますし。少しは」

 彼氏と一緒に撮った写真や交換日記、他にもプレゼントされたものやデートした場所、彼氏との思い出に触れると決まってPTSDを発症し、睡眠障害や無気力感に襲われることが何度もあった。

 しかしなぜだか、このペンダントだけは安心を覚える。

 毎年、彼氏の命日にはお墓に訪れる。あの事故以来、私は彼氏の顔や表情、仕草などを忘れしまった。思い出そうとすると無意識にブレーキをかけてしまうのだ。

 せめて一年に一度、こうして彼氏と私を繋ぐ儀式を行わないと、彼氏の存在さえも忘れて失いそうになる。

「あら? 遺灰の量が少なくなってるけど?」

「ごめんなさい。ヒモを取り替える際にこぼしてしまって」

「そう……」

 それが××ちゃんを縛っていなければいいんだけど。

 誰に届けるでもなくおばさんが呟く。

 とんでもない。むしろその逆だ。この遺灰だけが、今の私を生へと繋ぎ止めている。枷でもあり、救いなのだ。

 おばさんがお墓を見つめている隙に、ビンの蓋を開けて中身を少し手に乗せる。左手の人差し指と親指で軽く摘んで、口の中に遺灰を微量、含ませる。舌が少しだけザラつく。

 その時だけだ。どうしてか彼氏の全てを思い出せた。

 思い出も、記憶も、感情さえも。

 誰かはそれを「不謹慎だ」と笑うだろうか。

 それでもいい。

 彼氏のことを忘れないで済むのなら。

 私が大切な人のことを思い出せなくても、

 遺灰の苦みで覚えているのなら。

最後までお読みいただきありがとうございます

感想やご指摘などがありましたら宜しくお願い致します

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