つらみ狂想曲
よろたの
その日は朝から生憎の曇り空だった。あたしの心もちょっとだけ、どんよりとした。もう、せっかくアイツとのデートだっていうのに。い、いや、別にあたしは喜んでるわけじゃないけどっ!
集合場所は遊園地の入場ゲート前。集合時間は開園時間の午前10時だ。
現地に着くと、長身であるアイツは、すぐに見つかった。
「ごめん、待った?」あたしは彼に駆け寄り、言った。
「いや、待ってないよ」彼は自撮りをしながら、答えた。
「じゃあ、行きましょうか」そう言い、入場ゲートへ、向かった。
ゲートをくぐろうとした時、アイツが職員に話しかけられた。
「お客様、申し訳ありません。園内で薔薇を咲かせるのは禁止です」そりゃそうだ。ここは遊園地であり、薔薇園ではないのだ。しかしアイツは、
「すまない、体質なのだ」あくまでも悠然と答えた。
「体質なら仕方ありませんね」職員も納得し、引き下がった。
最初はコーヒーカップに乗った。
「俺が砂糖だとすると、君はミルク。ベストマッチだね」
乗る前はこんな軽口をたたいていてた、アイツだったが――
「おえ・・・、気持ち悪い・・・」乗り終えた後は、すっかりグロッキー状態になっていた。
「ごめん、回しすぎちゃったわ」あたしは舌をぺろりと出した。
「勘弁してくれよ」そう言い、アイツは自撮りをした。
そういえば、さっきもしてたわね・・・。もしやと思い、アイツのインスタグラムを確認した。すると、案の定、先ほどの写真を、「目が回ってつらみ。でもパリピのワイはまだまだ遊んじゃいマーーース!!!最後までお付き合いよろ谷園➚➚ぽんぽーーん(^-^)」という文章とともに、投稿していた。
あたしは少し、腹が立った。
その後もアイツは自撮りを続けた。お化け屋敷、ジェットコースター、メリーゴウランド、お昼ごはん、etc・・・。いつでも、どこでも、インスタのことを考えているように見えた。
シャッター音が聞こえるたびに、あたしのいら立ちは募っていった。
そして時刻は夕方、閉園時間が迫ったころ、積もりに積もった、あたしの怒りは遂に爆発した。
引き金はやはり、彼の自撮りだった。シャッター音が聞こえた時、あたしはベンチで隣に座っていた彼に、力いっぱい掴みかかった。
「あんた!朝からパシャパシャパシャパシャ!あたしとインスタ、どっちが大事なわけ!?」
「ど、どうしたんだ急に」アイツは戸惑った表情。あたしは構わず続ける――
「どうしたも、こうしたも、ないわよ!何が、つらみよ!何が、よろ谷園よ!!何が、ぽんぽーんよ!!!ぶっ飛ばすわよ!?」
「わ、悪かった。何でもするからさ。落ち着いてくれよ」
「何でもですって!?」あたしは目を光らせた。
「何でもだ」
何でも、この機会に、とてつもなくきつい要求をしようと心に決め、怒りに任せて口を開いた。
「一緒に観覧車に乗って頂戴!」
次もよろしく。ぽんぽーーーーん!!




