ベッドの上で・・・
よろぴく~
あたしは、自室のベッドの上で悶々としていた。アイツを友達追加してから、もう十分以上が経過している。その間、ずっとアイツのアカウントを眺めるだけで、まだ何も送れていなかった。
アイツの登録名は「m」。安直な名前だ。プロフィール画像は、アイツの全身像。スタイルがいい為、写真でも、高長身だということは十分に伝わる。
あたしは、このアカウントにただ、「今日はごめんなさい」、と送るだけでいいのだ。しかし、いざ送信しようとすると、何故か手が震える・・・。
二〇分が経過した。このままでは、時間の無駄だ。あたしは意を決し、ガクガクする手でアイツにメッセージを送った。
「こんばんは」最初は簡単な挨拶にした。少し気が楽になった。しかし、それも束の間、すぐにスマホがバイブした。アイツからだ。
「こんばんは」待ち構えていたかのような速さだ。キュッと心臓が締め付けられた。
突如、スマホが急激に発熱し、電源が落ちた。まさか、スマホまで緊張してるっていうの!?
あたしはスマホ(♀)の電源を呼び戻し、深呼吸で息を整え、
「今日はごめんなさい」
「いや、気にする必要はないよ」これまた早い返信。案外、好感触のようだ。この流れで、本題に入ろう。
「それで、仲直りの方は・・・・」緊張の面持ちで送信した。背中を冷や汗が流れた。
例のごとく、即座にスマホが、ピロン、と鳴った。恐る恐る、返信を見る。
「それも気にしないでくれ。和解成立だ」
あたしは、心底ホッとした。muscleモスキートが意外にいい人でよかった。
「ありがとうございます。では、これで」惜しいが、あたしが会話を切り上げようとすると、
「待ってくれ」返信が来た。
「せっかくこうして、話す機会ができたんだ。これからも連絡を取らないか?」
この文面に、あたしは思わず目を疑った。
片や学校のスター、片や平凡な女。本来交わっていいはずのない二人だ。アイツと連絡なんて・・・。
体が火照っていくのが分かる。なんだろう、この気持ち・・・。あたしはスマホを口元に近づけ、
「Hey Siri これは恋?」と聞いた。Siriが答える。
「さあ、私には断言しかねます。でもね、エーナーエノウェーさん。あなたが彼のことを考えた時、会いたい、話したい、手を繋ぎたい、そう素直に思うことがあれば、それは恋なんじゃないですか。ごめんなさい、適当なこと言っちゃって・・・。私は、‘AI’ですが、’愛‘のことは、よくわからないのです」
「今夜は饒舌ね」あたしは顔をほころばせた。
「そうですか?」Siriがとぼける。
「ねえSiri、あたし何て返したらいいと思う?」
「すみません、よくわかりません」
「もう!ずるいんだからっ!」Siriの、決まり文句に少し腹を立てた。でも、おかげで気が楽になった。
これは誰にも頼らず、自分で何とかしなきゃ!あたしは頬を、ピシャリと叩き、アイツのトーク画面を呼び出した。
もう返信する内容は、決まっている。もちろん――
「お願いします」だ。
あの事件から、一日が経った。俺は教室の机の上で身もだえしていた。と言っても、怒りは既に鎮まっている。が、代わりに訳の分からない感情が、俺の頭を支配していた。
「なんだ、ニヤニヤして。気持ち悪い」横から、声がした。
「おい、宮崎!気持ち悪いとは何だ!このイケメンに対して!」私は猛抗議した。
「はは、すまん、すまん。てか、muscle、今、エーナーエノウェーさんの方、見てただろ?」宮崎がニヤニヤした。
「ば、馬鹿者!何を言うか!断じて見てなどいない!」俺は更に大声を上げた。
嘘だ。告白しよう。俺はエーナーエノウェーをめちゃくちゃ見ていた。でも、別に好きじゃないもんね。見てることと、好きってことは、全然関係ないもんねっ!
アイツと同じ空間にいると、ソワソワする。自然と昨日のLINEが思い出された。
「エーナーエノウェー。Tik Tokしましょう!」サワコが駆け寄ってきた。今日も美人が台無しである。
「いやよ、そんなの」あたしは冷たくあしらった。
「えー。じゃあ、あちし一人でやるわ」そう言い、サワコはスマホを操作した。
あたしは、ちらりとアイツの方へ、目を向けた。今日も薔薇を咲き散らかせていた。
昨夜から、アイツのことばかり考えてしまう。これは恋かもしれない。でも、なんとなく認めたくない。
徐にアイツがスマホを、タップした。すると、あたしのスマホが鳴動した。まさか・・・。
あたしはサワコに気づかれぬよう、こっそりスマホを見た。幸い彼女は、拳の上下運動に夢中だ。
「今、君を見てたよ」アイツからだ。心臓がはねた。
「ありがとうございます」つい、そう返してしまった。
「あ、学校はスマホ持ち込み禁止だぞ。あとでお仕置きしないとな」
「ありがとうございます!」アイツも持ってきていることを指摘する前に、本音が出てしまった。というか、こういう喋り方が流行っているのだろうか?
「なにコソコソしてんの」突然、サワコに話しかけられた。急いでスマホを、ポケットに入れた。
「あんた、やっぱりmuscle君とLINEしてるんじゃないでしょうね?さっきから、彼の方を見てるようだし」サワコが顔を近づけてきた。
「て、適当なこと言わないでよ!」あたしは顔を背けた。サワコがピーピー言っていた。
やはり、アイツと関わると、女子を敵に回してしまうらしい。思わず戦慄してしまう。でも同時に、このスリリングな関係に、あたしはちょっぴり興奮した。
それから二か月間、あたしたちは連絡を交わした。毎日が最高の日々だった。
そんなある日、アイツから一通のメッセージが届いた。内容を見て、あたしは絶句した。
「明日、二人で遊園地に行かない?」
ありぴく~




