好きじゃないもんッ!
よろしくお願いいたします。
春、新学期。教室は期待と緊張感で満ち、今にも破裂しそうである。しかし、どうも緊張感が強すぎる気がする。何故だろうか?いや、理由は簡単だ。知っているのに、知らないふりをする。俺はなんと罪な男だろうか。
目前に控えた受験への緊張感?否、俺と宮崎がいるからだ。
俺こと、モスキートと宮崎は学園のプリンス。歩く道には薔薇が咲き、薔薇の花粉に女が群がる。去年、二人でフランス旅行に行った際、パリの美女たち約72万人から求婚を迫られた時は本当に大変だった。気に入った女性を、何人かお持ち帰りしようとしたが、出国ゲートで止められてしまった話は、あまりにも有名である。
俺たちは、控えめに言っても地球の宝、大げさに言って宇宙の宝なのである。
ここまで聞いた諸君は、我々に不快感を抱いたかもしれない。でも、ごめん。事実なんだ。
そう、俺たちは、いや、俺は完璧な存在なのだ。なのに、なのに先刻、俺は耐え難い辱めを受けた。あの事を思い出すと、怒りで全身が引き裂かれそうになる。俺は気を鎮めようと、机に突っ伏した。
「よっ、優雅だな」悶々としていると、後ろから宮崎に話しかけられた。
「からかってるのか?」起き上がり、振り向いた。
「まさか、本気さ」そう言い、宮崎が隣の席に座った。
「それにしても今朝は災難だったな」こいつ、やはりからかってるのか?
「俺を怒らせるな。また思い出したせいで、体が熱くなった」
「体が熱いのか?」宮崎が不思議そうに聞く。
「ああ」
「怒りで?」
「そうだ」語気荒く返した。
「ふうん」宮崎が考え込むように呟いた。そして、何か閃いたような顔をし、俺に耳元で囁いた。
「muscle、それって恋じゃないか?」
「は?」数秒の間、奴の言葉を理解できなかった。そしてやっと理解できたとき――
「はああああああ!?」教室中に響き渡るほどの、大声を上げた。その場の生徒全員が、俺の方を振り向いた。まあ、注目されることには慣れてるから、そこまで気にならないが。今はそんなことより――
「馬鹿か、お前!恋だと?俺が?あの女に?馬鹿馬鹿しい!俺はあの女からゲロまみれにされたんだぞ?これは怒りに決まってる!」思わず、立ち上がり反論した。勢いで薔薇を踏んでしまい、薔薇はぐしゃりと潰れた。
「そう青筋を立てなさんな。お前はこういう時、冷静にあしらう男だろ?それに俺は、エーナーエノウェーちゃんだなんて、一言も言ってないぞ。『恋じゃないのか?』って聞いただけだ。」宮崎がにやにやしながら言った。そして一言、
「もしかして図星?」こう付け加えた。これに対し俺の怒りは、更にこみ上げた。
何を言ってるんだ、こいつは。さっきの会話の流れからエーナーエノウェーの話に決まってるじゃないか。人の揚げ足を取りやがって。しかし――
確かに俺は、この程度のからかいに、こうまで興奮し、反論するような性分ではないはずだ。一体、どうしたというのか。まさかこれは、恋の仕業というのか?その可能性を検討しようとしたが、すぐにやめた。恋ではなく、怒りに決まっていると、すぐに気付いたからだ。
俺の怒声により、静まり返っていた教室の、ドアがゆっくり開いた。床の沈む音が、やけに響いた。
現れたのは、一人の女子生徒だった。悪くない見た目だ。
「おい、宮崎。あの子なんて名前だ?」俺は宮崎に尋ねた。
「え、あれは確か・・・サダコ、とか言う名前だった気がする」彼は自信なさげに答えた。
「サダコ?冗談だろ」私は、ふんと鼻を鳴らした。
よく見ると、サダコ(?)の後ろにもう一つ、人影があった。俺は何気なく、その人物を眺めた。そして、その正体を確認したとき、血液が逆流するのを感じた。
あいつだ。あの女。憎むべき相手。エーナーエノウェー!
いざ奴を目にすると、腹の底から、怒りがマグマのごとく、こみ上げてきた。俺の体は、発火しそうなほど熱くなった。脳天からつま先までが、怒りで紅潮する。まさに怒髪衝天。
全身が真っ赤になった俺を見て、宮崎が何を勘違いしたか、ピュウ、と口笛を吹いた。よっぽど殴ってやろうかと思った。
気付くと、サダコが俺と宮崎の正面に、立っていた。エーナーエノウェーに目を奪われていたせいで気が付かなかった。いや、訂正しよう。断じて、目を奪われてなどいない。
「ちょっと、いいですか?」サダコが言った。
「おいおいmuscle、どうやらサダコちゃんから、お指名らしいぜ」宮崎が言った。それを聞いたサダコは、後ろを振り返り、
「エーナーエノウェー!あんた貞子なんて呼ばれてるわよ。ひどい嫌われようねぇ」と言っていた。やはり名前は間違っているようだ。
サダコ(仮)は最後にこう一言付け加えた。
「エーナーエノウェーから言いなさい」と。
「うん・・・」エーナーエノウェーは相槌を打ち、我々の方へ歩み寄った。
彼女が近づくにつれ、俺の鼓動は速まった。目の前に来た時には、体の火照りは最高潮に達した。
「ほら、言いな」サダコがエーナーエノウェーの言葉を促した。エーナーエノウェーは、決心したように口を結んだ。それから宮崎の方を向き、こう口を開いた。
「宮崎君。少し用があるの」
血の気が引くのを感じた。
あざ




