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気になるアイツ  作者: muscleモスキート
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春、怒りの季節

怒りというものは厄介な感情である。一度火が点くと、最早理性での制御は不可能になる。あたしが今、その状態だ。

 「あなた、あたしの戻したものを、汚いといったかしら?」muscleモスキートに尋ねた。

「そりゃそうだろ」彼は大儀そうに答えた。

「・・・さいよ」

「え?」

「レディのゲロを汚いといったことを、取り消しなさいよ!」金切り声でそう言った。

「は?何言ってんだお前。ゲロなんだから汚いに決まって・・・ぐっ!」muscleモスキートが言葉を言い終える前に、あたしは彼の頭を鷲掴みにしていた。そして、吐瀉物の上に彼の整った顔を叩きつけた。枷が外れるような感覚がした。

「ぎっ!」彼は虫けらの断末魔のような、声を上げた。当然だ。あたしのゲロを汚いと言った報いだ。あたしは手を緩めることなく、5回、10回、100回と、何度も何度も彼の顔をゲロに叩きつけた。

突然体が引き離された。宮崎があたしを、羽交い絞めにしたのだ。

「君、落ち着けよ!」

「離せ!」

「もう十分だろ」

「え?」

「muscleはとっくに気絶してるよ」あたしはmuscleモスキートの方へ目を向けた。彼は白目をむき、ぐったりしていた。まったく気付かなかった。

「嘘・・・あたしがやったの?」自分で自分が恐ろしくなった。

「ああ」宮崎が答える。

「いくらなんでもやり過ぎたわね・・・」あたしはちょっぴり反省した。

「そうだ。確かにmuscleの「汚い」という言い方は、直接的だったかもしれないが、やり過ぎだ」

「でも、レディは傷つけた罪は重いわ」

「そういうなよ。実際ゲロは汚い」

「なんですって?」宮崎をにらみつけた。

「よせよ。君じゃ俺には勝てない」悔しいが宮崎の言うとおりだ。あたしはこの男に羽交い絞めにされており、身動き一つとれない。

 それを見た女生徒たちは、ここぞとばかりに

「宮崎様、やっちゃってー!」

「そんな女殺してちょうだい!」

「muscle様の仇よー!」などと、声を上げた。

「あんたとは絶好するわ!」と、サワコが言っていた。

 どうやら、女全体を敵に回してしまったらしい。もしかしたら本当に殺されるかもしれない。あたしは恐怖を感じた。正門前は、女たちの怒号であふれかえっている。

 と、その時あたしの体は自由を取り戻した。宮崎が手を離したのだ。あたしは彼の方を振り向いた。彼の口が開く。

「黙れ」恐ろしく低い声でそう言った。場が一気に静まり返った。

「なんで・・・」女生徒たちの顔は疑念と恐れで歪んだ。あたしとしても、訳が分からない。

「muscleの言い方にも確かに問題があった。彼女だけを責めてやるな」宮崎の口調は、先ほどと打って変わり、穏やかであった。

「でも、そいつはmuscle様を気絶させたのよ!万死に値するわ!」サワコが納得のいかない様子で言った。そうだそうだ、という声がほかの女生徒たちから漏れる。

「もしも彼女を、無闇に傷つければ、俺は君たちを嫌いになるよ」宮崎が彼女たちの言葉を制すように言った。これには、たまらず女生徒達も黙り込んだ。当然だろう。この女どもは全員、あわよくば宮崎の子供を産もうとしているのだから、嫌われていいはずがない。

 しかし・・・

「なんで、あたしを庇うの?」素朴な疑問であった。

彼はmuscleモスキートをわきに抱えながら、こう答えた。

「争いごとが嫌いなだけさ」そしてあたしにウインクをし、校舎の方へ、薔薇を咲かせながら、歩き出した。ウインクをされても、吐き気は感じなかった。

 宮崎の姿が校舎に消えた時、誰かに肩を叩かれた。

「エーナーエノウェー、あんたやるわねー」サワコだった。

「あらサワコ、絶交したんじゃないのかしら」あたしは、ぷいとそっぽを向いた。

「ノリよ、ノリ。あそこであんたの味方をしてたら、あちしの命も危なかったわ」

「どうだか」あたしは冷たく返した。

「ひどいわねぇ」サワコが下品な笑みを浮かべた。でも確かに、サワコの言うことには一理ある。宮崎の言葉がなければ、今頃あたしは三途の川の前で、命乞いをしているに違いない。

その証拠に、今もあたしは、女生徒達から、憎悪の視線を向けられている。

「ねえ、あんたこのままでいいの?」サワコが尋ねる。

「いいのよ」あたしは強がった。

「強がってるんじゃないの?」なかなか鋭い女だ。

「muscle君はあんたのことを恨んでると思うわよ」おそらくそうであろう。今はまだいいが、muscleモスキートが目を覚まし、女たちにあたしを懲らしめるよう、命令をするかもしれない。そうなったら、今度こそ命はない。

「でも、どうしようもないじゃない」そう、防ぎようがないのだ。

「いや一つだけあるわ」サワコが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「muscleモスキート君と、仲直りするのよ」


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