春、出会いの季節
よろ。
不意にけたたましい音が、空を支配した。たまらずあたしは耳をふさいだ。一同は上を見上げる。一台のヘリコプターが飛んでいた。ヘリコプターは、正門の真上で停止した。皆の顔に、不安と好奇の色が浮かんだ。ヘリなんかが何の用だろう。あたしもじっと目を凝らした。
ヘリコプターのドアが開いた。次の瞬間、中から二つの物体が落下した。あれはなんだ。
「人間だ!」誰かが叫んだ。見ると物体は、確かに人間のシルエットをしていた。ぶつかったら、死ぬ。その場にいる誰もが直感した。生徒たちは、慌てふためき逃げ回る。てんやわんやの大騒動。
あたしたちの心配をよそに、二つの物体は、ぐんぐん速度を上げる。地面との距離がどんどん近づく。ああ、神様、どうかあたしにはぶつかりませんように。心の中で呟いた。サワコは口に出していた。
祈りを込め、目を閉じた時、頭上でカチリという音がした。同時に布がこすれる音がした。
何事?あたしは目を開け、上を見上げた。二つの物体、いや、二人の人間がパラシュートを開き、優雅に降りてくるところだった。いったい誰よ。こんなことする奴は!文句を言ってやろうかしら。あたしは拳を握った。
しかし、その決意もサワコの、きゃーーー、という歓声によって乱された。
「み、見て!エーナーエノウェー!あの二人・・・!」サワコが指さしたほうを向くと、二人が、ちょうど大地に降り立つところだった。背丈から察するにどうやら男性のようだ。パラシュートが影になり、彼らの顔がよく見えない。しかし影は徐々に、太陽の光に押しのけられる。あたしは彼らの顔を注視する。影が完全に晴れた。そしてあたしは、ハッとした。
「あの二人!muscleモスキート様!と宮崎様よーーーー!」サワコが雄たけびを上げた。いや、サワコだけではない。その場にいた女子の誰もが、獣のように歓声を上げた。なお、あたしは除く。
「宮崎、どうやら遅刻しなかった」
「まつ毛のセットに時間がかかったけど、間に合ってよかった」
「まったく、お前のまつげは長すぎるんだよ」そんなことを話しながら、彼らはクラス名簿の掲示板へと歩み寄った。驚いた。本当に彼らが歩いた道一面に、薔薇が咲いた。
「あたしの薔薇よ!」
「ばか!あたしのよ!」
「触らないで、このブス!」女どもが皆、醜く薔薇を奪い合った。もちろんサワコも。なお、あたしは除く。
そんな女どもの姿を見て、muscleモスキートと宮崎は彼女たちに近寄った。muscleモスキートが薔薇を一本摘み取り、一人の女子生徒に手渡した。
「お嬢さんたち、奪い合わなくたって薔薇は無くならないよ?」そう言い、彼はウインクをした。
宮崎が負けじと口を開く。
「ほーら、ポンポンタイムの始まりだ!」ポンポンタイム?なんのことだろう?耳慣れない言葉がひっかかり、あたしは宮崎の行動に注目した。すると宮崎は、一人の女子の前に立ち、左手をおもむろに掲げた。その女性徒は、顔を赤らめながら目を閉じる。宮崎は、左手で女性徒の頭を、二回ソフトタッチした。いわゆる‘’ポンポン‘というやつだ。そして宮崎は、彼女の耳元で囁く。
「魔法、かけておいたよ」女生徒は気絶した。
あたしは悪寒がした。思わずその場に嘔吐した。しかし、あたしの反応と正反対に、周囲にいた、女どもは皆、嫉妬に狂った悲鳴を上げた。サワコは気絶した女生徒を蹴たぐっていた。そんな彼女たちを黙らせるように、宮崎は女子全員に、ポンポンをしてまわった。なお、あたしは除く。
あざ。




