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〜51〜 エンジョイ!スクリーム&マサカーパーティー 〜セェレーン騎士団長⑦〜

いや、なにかおかしい。

この深く広い森の中に、このような広けた場所があるのも地理調査を怠っていたという結果そのものだろうが問題はこの空間に「たまたま」たどり着いたという事だ。

私達は罠を見破り、罠を避けながら森の外へ向かって進んでいた。だがしかし、もしもこの場所に誘い出されていたとしたら?


「ゴーシュ殿、ここを進む前に約束してくれますか?お前らもだ。聞け」


「なんだ、隊長」


「貴方は元々、所帯持ちだ。ここで危険を犯す必要はすでにないはずだ。本当に危険に陥ったら私を見捨てて逃げてもらえますか?」


「まァな。確かにそうなったらケツまくって逃げるさ。ただなここまであんたを面倒見てた理由だけどな?俺とお前の親父とは古馴染みだ。あいつには世話になったことも貸しもある。だからしばらくは世話見てやろうと思ったのサ。そんだけよ。それにそんな事をいきなり言い出すってことは」


「ええ、ゴーシュ殿の言う嫌な匂いがします。ここはこれだけ開けているのになにかやばい、そんな気がします」


「ああ、なにかわからんがココはやばい気がする。だがな先に言っておくが俺がお前に付き合ってる一番の理由だがな、お前の親父とは長い付き合いでお前とも長い付き合いだ。親戚の娘みたいなもんなのさ。それくらいには思ってるぜ」


「ゴーシュ殿。それでも約束してください。貴方はこういうとき優しすぎる」


「…わかったよ。いざって時はそうする。妻にも娘にもまだ未練があるからな。なんにせよ」


「いんやァその必要はないよ。ココには罠のたぐいは仕掛けてないし、ココを進むぶんには安全だぜ」


どこからともなく声が聞こえてきた。さっき聞いた忘れもしない声だ。

あの襲撃者の声だ。気付くと向かいの木陰から声の主が出てきていた。

すかさず手で合図を出し部下たちに弓を構えさせて展開し、逃げられないようにする。


「貴様…よくも顔を出すことが出来たな。貴様の言うことがホントだとしてこの場所は開けた空間だ。数で囲んで叩かれる、それを嫌って森の獣を使い我々を襲わせ、隠れて弩で狙い撃ちをしてきたのだろう。それがどうして急に出てきた?」


「部屋の四隅に向けて、箒をかけてたんだよ」


「何?」


「キシシ、シンプルさ。掃除するとき箒をかけるだろ?でもって、ちりとりで纏める前に四角にまとめてからだろ?ゴミを片付けるときは誰だってそうする。だからこの森に罠や獣という箒で、君たち標的(ゴミ)を追い込んだのさ」


言われてハッとする。

そうだ、違和感の正体はこれか。罠を気取らせず気づいたときには即死、なんて罠を作れる人間がわざわざ抜け道を用意する、なんてのもそもそもおかしな話だったのだ。

ここに誘導して我々を殲滅するのが目的か。


「ここまで慌てて逃げてきただろうから言っておくけど道中に落とし物や忘れ物があったとしても戻るのはオススメしないぜ。戻る時はもっと罠がわかりにくくなるように仕込んである。串に刺した果物みたいになるのが夢ってんなら止めはしねぇけどよ。キシシ」


目の前の男はただ意地悪に笑っている。

馬鹿め、状況を見ろ。後ろは確かに退路がないかもしれんが多勢に無勢だ。騎士としては恥ずべきかもしれんがすでに何十人と犠牲になっている以上手も抜けない。

単純明快、囲んで叩く。


「囲んで叩く、なんて思ってるんだろ?」


ドキリ、胸が跳ねる。見透かされている。


「…逃げまわると言うことは、正面きっての戦闘をしたくないという気持ちの裏返しのはずだ。実際貴様は銅級程度の冒険者だ。金と道具で罠と火薬を用意し、時と場を整えて我々にココまでの被害を及ぼした。卑怯と罵ることは簡単だがここまでしてやられた。称賛せねばなるまい。だがここで貴様を打倒し朝を待ってから明るい視界で確実に森を出ればいいだけの話だ。」


「金と道具か。まあ確かに。でも本当に打倒できるかな?」


パチン、と目に前のいけ好かない男が不気味な鳥の嘴のようなマスクをかぶってはいるが薄ら笑いを感じるような言い方をしながら指をならした。

すると森の闇の中から黒いシルエットが3つ走り出してきた。


「おいで、アン、ツヴァイ、サラス。」


声と同時にそのシルエットが男のそばで止まり、そばで主人を守るように座り込んだ。

それはそれぞれ大人より気持ち大きいくらいの狼、豹、そしてクロスボウを手に持ち矢筒を背負った猿だった。


「君たちが野生の獣とおもった襲撃者もどこから撃たれるか予測のつかなかった射手の襲撃も全部だ。僕の道具で作り、使役した使い捨ての使い魔だ。彼らも君等の相手をする。それでも僕を殺せるかい?」


「…ッなめるな。我々は生きる!ここで死んでなどやるものか!!」


だが、吠えたものの本当にいけるか?

簡易な使い魔を作り出し、使役するような道具の存在は父から聞いたことある。同時に恐ろしく高価なもので目玉が飛び出るような値段とも聞いている。

あらためて向こうはこっちを殺すのにかなり本気だというのが伺える。我々の討伐の向こうに何かを見据えてなければここまで出来ないだろう。


「だろうねぇ。じゃあここでチャンスをやろうかな。15秒だ。15秒だけチャンスをあげる。まともにやりあってあげるよ。使えるものを動員するけど15秒耐えることができれば見逃してあげる」


「なに?」


「15秒だ。大体そこで整うし、それまでは付き合って上げるよ。ただしこっちはこっちで全力で殺しに行くけどね」


男が腰から、するりと短刀のようなものを抜くのが見えた。


黒い刀身の短刀(ダガー)、いやあれは暗殺用短刀(アサシンダガー)だ。闇に潜め、振り抜いても闇の中では目前まで見えないような気取らせず殺すような卑怯者の武器だ。

やはり暗殺者としての道具をしっかり揃えている。なら囲んで叩くというのが本来の対策になる。

突っ込んでくるなら即座に囲んで、倒す。様子を見て遠距離戦でどうにかするつもりなら弓で倒す。

こういう場合において頭数は単純に力だ。来い、暗殺者め。

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