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~7~ 出発前、メシでも食おう

「・・・聞いたかい?ティリア。すっごいんだねぇ、余裕が違うみたいだ。とりあえず僕らは相応の依頼でも請けようか」


「そうですね。それがいいと思います。」


答えながらティリアはニコリと微笑んでいる。


「なんていうか大分砕けてきたね、印象もだいぶ優しくなってきたし、そっちのが好感もてていいと思うよ」


釣られて僕まで笑ってしまう。なんていうかこういう柔らかい雰囲気でする会話ってのはいいなあ。

なんというかこの世界(ココ)に来てからまだ2時間もしてないがこういう会話自体が久々な気がする。


「とりあえず何か請けてきますよ。相応なのを請けてきて、で余裕があれば例の貴族のご令嬢も探す。これでいいですか?」


「バッチリ!それでいこう。ただ僕、さっきの話の組合の定義だとシルバーはおろか、ブロンズもない新人なんだけどシルバークラスの依頼を請けてもいいのかい」


「まずは私がシルバー相当の依頼を受けますよ。それの手伝い、との事ならば参加の許可も降りるでしょうし実績からブロンズ級としては十分な実績となるんじゃないでしょうか。それとジドの冒険者登録だけはあちらで済ませておきますから」


そう言いながらティリアは席を立って、カウンターのマスターの元へ行ってしまった。


(適当な討伐系だといいなあ。やっぱ体を動かすのがいいし)


なんて考えていたら腹が鳴った。大きな音で。当たり前だが異世界だろうと腹は減るのだ。


「まずはメシか。これから出発だし腹ごしらえか。すンませーんマスター!コレとコレ!それと…コレもおねがいしまーす!」


壁に立てかけられた品書きを見て、特にボリュームがありそうなやつを指さしながら色々と注文していく。


「はいかしこまりました。それだと全部で1銀貨になります」


「はいよ!とびきり美味しく頼みますよ!」


店主はニッコリと笑顔を作って会釈をすると奥のキッチンの方へと入っていった。


「さーて、どんな依頼になるのかな。ちょっと楽しみだ」


しかし、待つだけってのも退屈だ。

ふと視線をぐるりと回して店内を見てみる。

甲冑をきた顔に傷のある男や、パット見格闘家のような風情の男たちなんかが視線の先に居た。

きっと同業者だろう。

それと店主がいたカウンター脇には大きなコルクボードがありいくつもの書類の類が張り出されていた。

いわゆる依頼掲示板(クエストボード)ってやつだろう。書類にかかれている文字はゲームの世界で使われていた文字とは違うようだった。

だが不思議と読める。内容が理解できる。頭の中に自動翻訳システムでもぶっこまれてるようで不思議な気分になる。

しかしてどれどれ、内容は・・・遠目で細かいトコは見えないがゴブリン複数討伐、オーガ撃退、羽兎狩猟、死霊魔女捜索etc.etc...まあいろいろ目移りするがティリアが探してくる依頼を待つとする。


彼女はまだこないし、今度は転生時にもらった贈り物、「困ったときに開ける革箱」の中身でも確認することにする。まあ開けた瞬間効果を発揮するアイテムの可能性も考慮できるが確認しておくのはいいかもしれない。

意外にもすこし細めな以外、割と普通なロープが入ってた。束を持ち上げてみると意外とずっしり来た。この重さの感じだとワイヤーみたいな金属の繊維が混じってるのかもしれない。あとは分銅、というか槍の矛先のようなものがついてる。ような物という表現はギミック内蔵に見えるからだ。


これはどういうギミックで動くんだろう、といろいろ弄り回してみるけどウンともスンともいわない。引いたり捻ったりするけどやっぱり動かない。今度は試しにコンコン、と穂先をノックしてみる。

ジャキン、と逆向きの爪がに飛び出すようにひらいた。開く際の押し出す勢いがわりととんでもなく、うっかり矛先を握っていたら()()()()()()()()()()()


(ほほう、こいつは便利だ。鉤爪ロープか。意外と困ったら使えってのもわかるな、それに開く、ってのがかなり面白いコトが出来そうだ)


危険で便利な道具を手にして不敵に笑っていた。

うんうん、と唸っていたらテーブルに、ドカドカと頼んだ料理が並べられていく。

厚切りステーキに付け合せの野菜がアッツアツの鉄板に乗っけられた「イグアナドンの上テールステーキ」「新鮮野菜のサラダ」、「卵のスープ」に大きめのパン。ついでに果実水。香りはぶどうだ。我ながら大量に頼んだもんだ。


早速厚切りのでっかいステーキをナイフで薄く切り落とし野菜と一緒にパンに挟み込んで雑で大雑把にサンドイッチを作って頬張っていく。

これがしたくて注文したまである。一回やってみたかったんだ。ファンタジー世界の大型爬虫類系(リザード)の尻尾とかそういう肉を食うのはある種の夢だった。

しかし存外に美味い。

イグアナドンといえばドラグーンの設定だと吐息(ブレス)を持たない竜種(ドラゴン)である大型爬虫類系(リザード)らしく肉体能力が基本的にアホみたいに高い。

まして「巨人の一薙」とも言われるその強靭な尾は多くのPLを葬り去ったとんでもない武器だ。そんな強靭な尾もテールステーキにしてみるとアホみたい美味い。たんぱくな味の肉ながら肉自体がほのかに甘い。だが胡椒と塩がガッツリ効いたパワフルな味付けにサンドイッチがモリモリと胃袋へと消えていく。

やはり肉はいい。どんな肉でも食っているだけで幸せになる。それが上物であり、ましてや夢にまでみたドラゴンステーキなら最高も最高ってもんだ。


「めちゃくちゃ食べてますね。少し頂いても?」


ティリアが戻ってきた。果実水でグイィっと口の中のものを押し込む。口の中ででブドウの香りがした。


「そう言うと思ったから少し多めに500g、沢山肉を切ってもらってるよ。ほれほれ、もってけもってけ~」


前もって切り分けたステーキを取り皿に取り分けながら、そこにサラダを脇に盛りつけて渡してやる。


「ありがとうございます。すみません、こっちに果実水もう一杯いただけますか?」


ティリアはなれた手付きで切り分けられたステーキを更に一口大に刻んで口に運んでいく。


「で、依頼はどんな感じなのさ。」


「今回はシンプルな依頼です。ダンジョン内ではアンデッドがよく発生するのですが、それの討伐です。いつも湧くのは骸骨(スケルトン)です。しかし今回は少しランクが上の骸骨剣士(スケルトンフェンサー)が複数体発生してるようです。大したことないモンスターではありますが、数がそれなりにいるそうで討伐指針はシルバークラスのモンスターですが油断は出来ないかと。しかし上の階級の冒険者が手を下すほどでもないので我々にちょうどよい、という風で仕事を回していただきました」


「いいじゃん。ちゃちゃっとブッ殺して僕の階級を上げる肥やしにしてやろう」


「もう死んでますけどね」


「揚げ足とんないでよーティリア。よし、じゃあ食べたら行こうか!骸骨剣士(スケルトンフェンサー)討伐にさ!」


そういってさっさとステーキを口にガツガツ放り込んでいく。


「満腹にして動けない、とかやめてくださいよジド」


はふぁってふ!(分かってる!)はいひょうふ!(ダイジョーブ!)


「何言ってるかわかんないですよ、それ」


ふう、とティリアもため息をつくと、クスリと笑いジドとは対象的に落ち着いてもくもくとステーキを食べ勧め始める。


さて、ゲーム的に言うならなんでもない只の1クエストだが今回のクエストはそうじゃない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これだけは二度と訪れないのだ。実際命の危機だってあるだろうし、もしかしたら死ぬかもしれない。ワクワクする。それに本来の目的だった仲間を集めるために酒場に来たのだが以外や以外。なんやかんやでティリアが仲間として加わってくれたのは本当に意外だったがものすごく嬉しい誤算だった。仲間とダンジョン探索、なんてまるでゲームみたいじゃないか。

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