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~19~ ふたりの森行きさんぽ道②

「ここの飯は質素だがきちっとうまいんだ。だからよく食いに来るんだよ」


こちらがきまずい雰囲気でしぶい顔したいのに構わず向こうは持ってたトレー机の上に置く。まあそれなりに広い机だ。狭いとかはない。ないがやはり相手が相手だからどうしても気にはなる。本当はどっか行ってほしいくらいだ。


「…どうぞ。」


前後はどうあれ、僕は冒険者としては後輩であり、彼は先輩にあたる。

僕は本性が限りなく社会不適合だ。だから人当たりはよくして世間様に波風たてないように生きる必要がある。ならば目の前の先輩にも普通の対応をしなくちゃいけない。


「ありがとう、失礼するよ。」


彼は軽く愛想笑いして席に座る。

彼は早速、朝飯に手を付け始める。


「ところで、聞きたいことがあるんだけど、あれから大事ないかい?怪我とかしてない?」


やっぱりだ。なにか聞きたいこととか用があった来たんだ。


「いんや?なーんにも問題ないですぜ。あの決闘にしたって僕が勝って終わったじゃないですか」


「あ、いや質問が悪かったね。質問し直すよ。あの決闘の後、怪我とかしなかったかい?」


どういうことだ?よく意味がわからない。


「面倒くさい腹の探り合いはイヤです。なにが聞きたいんです、アレックスさん」


「ガルシアは昨晩、君のもとにお礼参りに行った。そしてそのまま帰っていない。詳しい話を聞きたいんだ。」


ギョッとする。

そう言っている彼の手元で、魔法か奇跡か、なにかの魔力行使の準備かでぽぅっと明かりが淡く光っている。それが固まって、まるで光の水晶玉のような形になった。

そして質問の内容も内容だ。要は僕が昨日の晩に倒した男を、あの後始末したのでは?と疑っているんだ。冗談じゃない。

それにあの魔力球。まさかここでおっ始める気か。


「安心していい。オレは一応奇跡をある程度修めた神官戦士だ。これは奇跡、真実の言葉(トゥルー・トゥルース)。つまり嘘をつくと僕にはわかるというだけさ」


嘘かどうかわかる奇跡か。

ドラグーンでは実際はNPCのイベントに若干左右する程度のスキルだった。

プレイヤーにはそもそも使用できないそういう類のロールプレイを楽しむためのスキルだった。それがいまこうして使われると恐ろしく面倒くさい。

嘘かどうかを判別するというなら、うまく嘘でもホントでもないことで自分の正体だけは隠して誤魔化さないといけない。


「じゃあ早速いくつか聞いてくな。まず、君は剣を握った事はある?」


「いいえ」


ボボボ、と手元の光が強くなったり弱くなったりを繰り返し点滅する。


「ノリがよくて助かる。とまぁこの通り嘘をつくとこんなふうに光る。じゃあ次行くな。昨晩、あの決闘の後、ガルシアに会ったかい?」


「いいえ。あってないよ」


アレックスの手元を見る。

光の玉はうんともすんとも言わない。


「よかった。もし知ってたらどうしようかと思ったよ。じゃあ次だ」


「ちょっと待ってくれ、会ってないってなっただろ?」


「だまって聞いてくれ。彼を殺したか?」


「…いいえ」


手元の玉は反応しない。

これで反応なんてされちゃたまらん。

殺すこと自体はどうだって構わんが、事を荒だてる気は無いのだ。なるべくなら穏便に済ませたい。

「よかった、間接的に殺した、とかでもないみたいだ。安心したよ」


「当たり前でしょう。言っちゃあ悪いが殺すまでもない、ってのが彼に対する評価ですぜこっちは。正面からやったら勝てないでしょうが、なら正面からやらないだけで勝てるんですから」


「うん、玉は反応しない。言葉に偽りはないみたいだ。ごめんね、試すような真似して」


彼の手元の珠がぱっ、と霧散して消えていく。


「いいんだよ、センパイ。仲間がいなくなった、そいつが心配なんだろ?」


「ああ。アイツはもともと結構強い。もう少し剣にしっかり打ち込んでいれば金級、いや白金級は狙えると思うんだけどね。話がそれたけどあいつには帰る理由があるんだ。だからアイツは強かった。なのにそんなあいつが帰ってこない。」


「…差し支えなければ、その理由を聞いても?」


「あいつには17になる妹がいる。いいとこの学校通わせてやるんだってあいつは滅茶苦茶に気張ってた。それがこんな失踪するなんてありえないんだよ。だからアイツの事を知ってそうなやつのとこ来たのさ。おかしいだろ?」


「うん。生きていく理由が明確にある。そんな人がそういう失踪するのはおかしい。なにかわかったら連絡するよ。アレックスさん」


「アレックスでいい。正直、昨日のお前を見たら銅級だと侮ったりはできないよ。ごちそうさま。じゃあ俺はまた探しに出るから」


「じゃあ、またねアレックス。」


彼はさっさとトレーを片付けて、店を出ていった。

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