~17~ 葬送のワルツ ~④
なんだあれは。
なんなんだ、あれは。
どういう意図の質問かは分からないが、それ以上に目の前の人の姿をしたなにかはただフードを被り、顔には革か鉄かは知らないがなにか、顔の上半分を隠す、纏う服のように漆黒のマスクを被り、答えを待つように沈黙している。
(やばい。アレは、アレは絶対にやばい。)
人の姿をしているだけのそれは異様な殺気を放っている。
森で素早くしなやかで狡猾な猫獣を捉えたこともある。あの種の獣は殺気を消す事に長けている。
だがそんな獣も習性を知ればなんとかなるし、なにより気配を消している独特の気配がある。
他には見物だけだったが、武闘大会で前年そして今回も優勝した達人級の剣士の殺気にも似た闘志を感じた事がある。
だが、目の前の殺気は違う。そのどれとも違う。
こんな殺気はお目見えしたことがない。ひどく冷たい印象で、そして恐ろしく無慈悲なそれを感じる。感情のこもらない殺気を感じる。
だが、感情のこもらない殺気ってのはなんだ?一体、目の前のあれはなんなのだ。どうしてそんな殺気を俺に向けているのだ。
「あなたは、いまですか」
その声は淡々と聞いてくる。
頭はパニックだ。なんなんだ。あれは一体、あの恐ろしい殺気を放つそれは一体なんなんだ。
気を紛らわしたい。武器を確認する。リストクロスボウ、よし。
背の剣は朝手入れをした。問題ない。
確認しなければ恐ろしいのだ。目の前の恐怖が打破できるものだと思わないと恐ろしいのだ。
ふと視線を黒フードに向ける。
ぎょっとする。いつの間にかなにか長柄の武器を手にしている。長柄の尖端の方へ視線を流していく。すらり、と冷たく薄い刃が長柄の先で輝いていた。
大鎌だ。長柄の上下両尖端に大きな刃がついているどこから出したのかそんな物騒すぎる得物を出していた。さらにあの怪物のような殺気だ。
武器を構えなければならない。
さっきは剣を抜かず、不意をついてどうこうしようとした。そんなことは言ってられない。
直ぐに抜かなければ、殺される。
カキン、と何かの音がした。
月を見上げていた。
薄暗い空に月明かりが確かにしっかり見えていた。綺麗な月だ。だが、何故か見ていた。
どうして?
そして視界が縦方向、内側にぐるりと回る。
いや、内側に回りすぎている。
あ、そうか。視界で見えて気づいた。視界が、見えないはずの首の付け根を捉えていた。
いや、付け根の奥の断面が見えている。首の断面が見えていた。
ころ、された、のだ。
ツイてない。ほんとにツイてない。
まさか、命まで、おとすと、は。
ぽとっと大鎌で切断、宙を待っていたガルシアの首が落ちた。
「あなたは、いまでしたね。御霊をお送りします、神よ」




