~13~ クルツ村でからあげを食べよう⑨
ひゅうっ、と息を飲む音が聞こえた。
ただ吐かない。ジドの言い出したあまりにもイカれた冗談を、冗談と流せず受け止めてしまっている。
そしてその内容に驚然としている。
驚愕と緊張でのんだ息を吐くタイミングを逃しているのだ。
ジドは口元は不敵な笑みを浮かべているが、その目は目の前のティリアの眼をじっと見つめていた。
「ぷふふっ」
「は?」
「なーんてね?びっくりした?僕は最低のド畜生の自覚はあるけどそこまではしないよ。冗談だよ、冗談。その話はおいおいするよ。」
「人を食ったような人ですけど、冗談の趣味が悪いですよ本当。」
「いやーごめんね、リリスはそれなりに真面目だからサ。ついからかいたくなるのさ。ゴメンね!」
リリスは返事の代わりに、ため息で返す。
ジドも肩をすくめて舌をぺろりと出す。てへぺろ。
「そういえばですけどあの毒、まだ残ってます?あの麻痺毒かなり便利に使えそうじゃないですか」
「ああ、実はね。あれ全部ハッタリなんだよね。一晩も動けない、とかそのままだと死ぬ。とかもね。」
「へ?」
「僕の道具作成スキルは材料を使って高位の道具を作るのと、材料無しで下位~中位の道具を作ることができる。ただ作り出す道具のレベルが高いほど、次回使うまでの間隔を置かないと再度使えなくなる。だからあんなチンピラにそんな高価な毒つかってやれないよ」
「あきれた。バレたら袋叩きに合うかもなのにハッタリかましたんですか?」
「そうだよ。結果として銀貨一枚と金貨を交換したんだ。銀貨9枚の価値になったわけでな。これで二人分の酒代になる。それだけで十分じゃない?」
「はぁ。しかしよく嘘を信じましたね、向こうのリーダーさん。」
「たぶん、バレてたんじゃない?100%信じてたわけじゃないと思うよ。ただ、当の被害者は痺れてるし、万が一がある以上、信じざるをえない。だから財布を漁るのを許してくれたんだと思う。ま、そこまで計算だけどサ。それに周りでみんなが見てくれてるからどっちが悪いかもはっきりしてるしね」
「はぁ。なんというか、あなたがホント仲間で良かったですよ。」
「この話の流れでー?それ言うー?なんか複雑だなぁ」
けらけらとジドは笑いながらリリスの手を握り、先程までいた酒場へ手を引いて少し早足であるき出す。
「ここのからあげ、きっと美味しいよ。さ、いこいこ!」
「ええ、今行くわ。楽しみね、からあげ。それにハイボールって?」
リリスは言いそびれた言葉をぐっと飲み込む。
敵になることはない。その一点、あなたが味方で本当に良かった。
「ハイボールも美味しいけど、まずはからあげだよ。クルツ村でからあげを食べよう!」




