~12~ クルツ村でからあげを食べよう ⑧
「なにやらかしたんです?ジド」
人混みを掻き分けて、フードをかぶったリリスが出てきた。
どことなく不機嫌そうだ。
「いやね?せっかく注文した僕のからあげに、事もあろうに!できたてのハイボールとセットの唐揚げにエールをぶちまけたんだ!許せる?僕は絶対に許せない。だから正面からプライドをへし折ってやったのサ」
「あきれた。それで決闘騒ぎですか?」
「おっと、食べ物を粗末にするな、ってのは僕の生まれた国の唯一にして絶対の宗教なんだ。飯を粗末にしたら普段温厚なやつらが激を飛ばしてくる。僕も怒るけどもね?それにリリスだって、君の体を形作る肉は大事だろ?」
形作る肉。
即ち、彼女の体のパーツを構成する何人かの死体の四肢だ。彼女は朽ちていく体を維持するために死肉を継ぎ接ぎしている。
狩り殺したにしろ、死体を拾うにしろその大変さは身にしみているはずだ。
「そうね。たしかに身に染みているわね。ただ私のことを思ってくれるなら目立たないようにしてくれてても良かったでしょう?」
「ありゃ。そいつはうっかりだ。それに関しちゃごめんね。ただ目立ちに目立った。今やこの村では僕の話題で持ちきりになってるはずさ。凄腕の早投げ決闘士ってね。なら聞き込みだってスムーズにいくんじゃないかな?」
「つまり狙ってやったと?」
「あったりまえでしょー?僕が誇れるのはこの手癖の悪い、素早い腕だけさ。けど速いだけじゃ勝てない相手もいる。というかそもそも、人間ってモンスターに勝てる要素の方が実際少ないじゃん?」
「ええ、まあそうですね。武器を使うモンスターはいますけど」
「あれはそれだけだと獣の牙と変わらない。人間がモンスターの硬い外皮や剣のような牙や角に勝つためにはそれ相応の武器を持つべきなんだ。」
リリスが眉間に皺をよせる。
「でもそれだと今度は俊敏性や筋力でまだ負けてません?」
「そうだね。まだ負けてる。単純な筋力での殴り合いや徒競走なら勝てないね。じゃあどうする?ティリアならどうする?」
ティリアは少し考え込む素振りをして答える。
「魔法や、戦士の技術、剣術とかを会得していくとかですか?」
チッチッチ、とジドは指を振る。
顔は意地悪に笑っている。
「半分、正解かな。モンスター相手ならそれでもいいけど人間相手だと話が別だよね。だって向こうも同じ技術を会得している可能性もあるし、なにより会得してないにしろ対策がばっちりの可能性がある。そういう相手にどうやったら勝てるのか?それはシンプルさ。始まる前に勝負を仕掛けてしまうのさ。最初はグーでパーを出せばいい」
「…は?」
「僕は正々堂々って言葉が嫌いでね。あれこそ、勝てると踏んだやつが自分の土俵で戦うつもりの奴のセリフだ。試合ならそれでいいけど、冒険者は違う。負けないで、最後まで立ってればいいのサ」
「なんというか、全体的に卑怯者って感じの言い方ですね」
「辛辣ぅ。そうだよ。格下が格上にどうやって勝つか?ってな話さ。格上に勝つとなるなら何でもやらにゃならん、ってことなのさ。」
「楽しそうですね、ジド。」
「楽しいさ。武器を選び、状況を整え、獲物を獲る。これ即ち料理と猟なんだ。楽しくないわけがない。僕の大好きな分野なのさ」
それを聞いてリリスが眉をひそめる。
不安そうにおずおずと聞いてくる。
「その、そういえばこの話で思い出したんですがジドは以前、私と同類といっていました。死体を漁り継ぎ接ぎして生きながらえる私と同じような事をしてると。この際です。詳しく聞いても?」
「フフン、なら答えよう。耳打ちするからちょっと寄ってよ」
リリスはフードを脱ぎ、耳をジドに差し出す。
そこにジドは手で覆いを作って囲み音がもれないようにする。
「人を、殺して食べたんだ。何人もね」




