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~8~ クルツ村でからあげを食べよう④

「ああ、えっと申し訳ない。お嬢さん。実はこのあと連れが来る予定なんだ。この席は空けといてもらえないかな」


「でしたら、一杯だけ飲んで帰るから。そしたらお邪魔じゃないでしょ?」


こちらの返答を聞く前に女性は席に座ってしまった。

すこし強引だが、何分美人だ。無理にどかすのもはばかられる。


「それで、なに飲んでたの?詳しく聞いても?」


「ああ、これはねハイボールって言っ」


「おい綺麗な姉ちゃん!こっちで飲めよ、こんなケチな酒飲みより俺の飲もうぜ。一等うまい酒奢るからよ!あんたみたいな美人を肴に酒が飲みたいんだよ」


僕の隣の厳つい冒険者、ガルシアが僕の言葉を遮って会話に割り込んでくる。

ムカつくやつだとは思ったがここまでとは。


「あら、私は高いお酒じゃなくて、あくまでこの方のお酒か気になったから座ったのよ。残念だけど」


彼女はまるで取り合わない。

少し目線をガルシアにくれてやっただけで後は僕のハイボールに目を奪われている。


「よく冷えたグラスに、水滴がついたりしてとても美味しそう。それになんだかしゅわしゅわしてるのね?不思議なお酒」


「一杯、やってみる?」 


その一言を待ってましたと、顔がぱあっ、と明るくなる。やはリ女性は美醜で隔てることなく笑顔なのがいい。とびっきりの美人なら尚更だ。


「いいよ。あ、その前にからあげも一つあげよう。一つ食ってからそのしゅわしゅわ、飲んでみなよ」


「ではお言葉に甘えて、いただきます。」


彼女は、僕のために出されたフォークを受け取って、それでからあげを持ち上げて口の中へと運んでいく。

あつあつなのだろう、口の中の唐揚げをほふほふ言いながらもぐもぐしている。


「ああ、ここの唐揚げはとても美味しいですね。お肉の質がとてもいいのもそうですが揚げ方が絶妙です。カリカリも揚がった外とは打って変わって、中からはじゅわぁっと肉汁が出て…たまらないです…たまらない」


「だが、揚げ物は揚げ物。からあげを食べた後は口の中が油でベトベトになる。だから酒で流し込んでああ、美味いっ!ってなもんだが、そこでこのしゅわしゅわさ、のんでみてよ」


「それでは」


グラスを手に、ぐいっと景気よく酒を煽る。

グラスの底が天井を向く勢いでグラスを、一気で開ける。

見ていて気持ちのいい飲み方だ。

そしてグラスを一気に開けたからだろうか、ほんのり彼女の顔がアルコールで赤くなっている。


「っはぁ。これいいですね…!最高の飲み方です、こんなの初めて知りました…!」


当たり前だけど中世風ファンタジーの世界にこんな食い合わせがないのも当然だろう。あぁ、ずっと未来の世界に生まれてて良かった。


「だろ?僕も昔、グルメなんて言われちゃいたんだけど、なんてこたぁない普通の貧乏舌でね。なんだって美味しければそれ以上ないんだよ」


「ええ、食事に関してはそれ以上はないです。楽しく美味しく、それこそ最高です。生きていいる、っていうのを更に実感させられます。からあげとお酒ごちそうさま。なにかの縁ですし、お名前を聞いても?」


「僕はジド・クロウ。ただの銅級冒険者さ。仕事でこの村に来たんだ。」


そういって、肩のワッペンを見せてやる。


「へぇ。私はジェーン。ジェーン・ラフレイン。なにかあればよろしくね冒険者さん。お連れさんも来るんでしょうし、お代はいかほど?頂いた分はお返しするわ。」


「結構。君の飲みっぷりが最高でね。お代はしっかり頂いたよ。それで十分さ」


「お上手ね。じゃあなにかのご縁でお返しするわ。またねジド」


「またね、か。うんなにか縁があれば。またねジェーン」


そう言って彼女は店を後にした。

辺りをみると周りのむさ苦しい冒険者共の恨みがましい視線が突き刺さる。まってくれ、彼女から来たんだ。僕も割とノリノリだったがそれは許してほしい。

…さて、気を取り直してまだ飲んでも食べてもいない。さっさと美味しいからあげを食べて、ぐいっ、とやりたいのだ。さっそく箸をからあげに伸ばす。


びちゃびちゃびちゃ、と何かが僕の唐揚げにかけられた。

一瞬思考が停止する。

なにが起きたのかわからなかった。

から揚げにぶちまけられたそれが容器の小鉢をひたひたにしてしまっている。

唐揚げが台無しになっている。


「おっと、悪いな酒、こぼしちまったよ」


隣から声が聞こえた。

意地悪そうに笑う、ガルシアだった。手には逆さになったグラスがあった。

こいつが悪意をもって酒をぶちまけたのだ。


「…表へ出ろ、三下。」


「あ!?やんのかオイ、チビ助!」


「僕は他の事では怒らないけど、飯と酒だけは怒る。徹底的に怒る。そのつもりで吹っかけたんだろ、さっさと表へ出ろデクの棒」

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