〜5〜 クルツ村でからあげを食べよう
さて、着きましたるはここクルツ村。
村自体は、休憩地点としては意外に広く、なにより賑わいがあるようだ。
日は完全に落ちてるにも関わらず、少しの街灯と店々の中から溢れる灯りが辺りを明るくしていた。
それなりに賑わっているようでもある。
あたりを見回しながら歩いているとふと、賑やかな声が聞こえてくる。
「へい、エールお待ち!」
どうやらたまたま通りがかった通りの店が酒場だったらしい。
店内からなにかのソースだろうか、美味しそうな匂いが香ってくる。
ふらっ、と足がそちらに向きかけた時リリスがくいっ、とマントを引っ張った。
「ここ、料理は美味しいですけどやな人達が溜まってるんですよ。他の店にしましょう」
「はっはっは!ここがうまい店なら入らにゃ勿体無いじゃないか。それに、自衛だったら問題ないし、リリスもまとめて守っちゃる。それにさ互いに合意だったら決闘とかそんな感じでケリつくでしょ。ちょっと血が出る喧嘩で済ますよ」
「ちょっと!もう!本当に入るんですか!宿も取ってないんですよ!本当にもう!」
「なら宿の方はお願い。こっちは、うまそうなの注文しとくよ。」
ぷりぷり怒っているリリスを尻目にウェスタン映画で見たような戸構えの店へ入っていく。
店内をざっと見回して、空いてる席を確認するが空いてる席は店主の真ん前、カウンター席が2席程空いてるだけだった。
のこりのテーブルを埋める客たちはいかにも冒険者、というか腕っぷしはありますというような堅気の人間には見えないいかつい面構えをしており、それぞれ会話に花を咲かせている。
そういった連中が新たな入店客、というより新顔である僕をジロッと睨むのも気にせず、1席開けて椅子に座る。
疲れだろうか、ちょっと乱暴に座ってしまったかもしれない。
まぁ、まずは飲み物だ。半日も歩いて喉もカラッカラってなもんだ。
「ウィスキー、ストレート、ノーチェイサーで」
決まった。これをやってみたかった。
昔西部映画でみたこのセリフが大好きだったのだ。
「この道をまっすぐ、追随者は無し。」
西部の荒くれガンマンが、アルコール度数のやたら高い酒を水などで割らず駆けつけ一杯カーッと一気でやるシーンでの注文口上だが、こうやって訳した人間は天才だと思う。
「…あ、グラス別でくれない?氷と割もの別に用意してあるんで」
「まちなよ、兄ちゃん。せこい酒の飲み方しやがって。俺はお前みたいな女々しいやつが大ェ嫌いなんだよ」
と、声がしたと思ったらいきなり胸ぐらを掴まれた。となりに座っていた、おそらく冒険者で、マントを肩から腰のあたりまで覆った男だった。僕より体もでかい。しかも僕の胸ぐらをつかむ腕もかなり太い。
あ、これ筋力じゃ勝てないな。
「あ、マスター困らせたならごめんね!?ちゃんと割ものと本来セットの料金払った方がいい?」
初老のマスターは落ち着いた様子でグラスを磨いていた。別段怒るでも無く。
「別に結構ですよ。ウチはそこまでケチな商売はしとらんでしてね。そんな事より店内で暴れんでくださいよ?そっちの方が困るんですよ、私は」
ギロッ、とまるで猛禽類のような鋭い視線がナイフのように突き刺さる。
びくっ、と思わず身をすくめる。
「てなわけだよ。な、大人しく飲んでようぜ。こんなとこでつまらん事で気を悪くせんでさ?な、おっさん。」
「そうだぜ、ガルシア。賭けに負けて機嫌が悪いのはわかるけどよ、いくらなんでも当たり散らすのはちげーだろ?なぁ。なんなら一杯くらい奢るぜ?」
隣のおっさんは、ガルシアというらしい。その仲間が仲間内特有だろうか、そういう煽りで冷やかす。
彼らはこいつの顔色が見えてないから呑気なもんだ。多少酔ってるのもあるだろうが余程カチンときたのか激憤顔だ。
いかにも噴火しそうな顔をして、胸ぐらをつかむ手がプルプル震えている。
「…店内では!」
僕達二人に聞こえるよう、マスターは低い声でただ恫喝するような声色で静かに言った。
「荒事はおやめくださいね。私ももう歳です。暴れて腰をやりたくありませんでね。」
この静かな恫喝に男も僕もすっかり意気消沈。
となりの男も頭が多少冷えたのか、舌打ちをして、ぬるくなっているエールをぐいっ、と煽った。
丸く収まってよかった、というところか。さて、改めて何を注文するかとお品書き、メニューが壁の張り紙にずらっと並んで書かれている。
獅子心臓鶏の唐揚げ。
こいつだ。これからウィスキーがくる。
たまたま目に入った品だがピンときた。
これしかない。
「へいマスター!ライオンハートチキンの唐揚げを2人前。あとなにか適当に軽いの貰えます?」
「おつまみをご所望でしょう?でしたらさっぱりした野菜とかいかがでしょう?」
「オッケイ!中身はおまかせで頼むよ、サラダは二人半前でお願いします。」
ペロッと舌なめずりして商品と酒を待つことにする。




