~4~ ティリアとジョン・ドゥ
思ったとおりだ。キャラメイクしたステータスをそのまま使わせてもらえている。
ドラグーンではキャラを作った後、冒険などで経験値を獲得しLVが上がり基礎ステータスが強くなるあたりは他のゲームとさして変わらない。だがLVUPすると、キャラクターの技能獲得やステータスを拡張できるスキルポイントを獲得する。その割振りによってキャラは千差万別になっていく。
そして僕の選択した、そしてこの世界に持ち込んだキャラのスキル振りはAGI極振りだ。
AGIを割り振る時、TGH、つまりスタミナも同時に上げて長距離を素早く移動したり、見切りづらい速さの乗った連撃を繰り出せるなどを考えた、アスリート的身体能力を目指したスキル振りが基本的だ。
だが普通のRPGでは、の話だ。自由度の高いRPGだからこそ戦闘においては肉体的急所が戦闘において存在する。目くらまし、目潰し、喉、心臓、頚椎、そして脳。金的だけは存在してないがそういった人間的どころか生物的急所へのダメージが大きく設定されている。倍率はそれこそ条件に見合って即死級だ。それを守る手段も当たり前に存在するが、逆に言えば対策を取れなければ相手が巨人や半牛魔人だろうとどうしようもないのも事実。
速度全振りの利点は究極の奇襲性と初見殺し性だ。それがこの世界でもどうやら通用するようで安心した
キャラ自体はいくつか作っていた記憶がある。筋力特化、万能魔法取得数型、浮沈要塞型にロマン特化大火力魔法型etc.etc...
しかし結局異世界に移住するに当たりかっこよさを選ぶあたり、この異世界生活を楽しむ気だったのはなんとなくわかる。
(自分のステータスは胸に手をあてるとなんとなくでわかっていた。ただドラグーンのガチステ振りが役に立たないならこの世界でひっそり盗賊でもしようかと思ったが案外いけるな。相手のレベルが低かった可能性はあるが)
・・・いやまて。今僕はあったばかりの人間の腕をいきなり、ためらいなくふっ飛ばしたぞ。人の心、というものがあるのならいきなりそんなことができるのか?いやこの世界に来るにあたってそういう残酷なことをいきなりやってのけられるメンタリティになってるのかもしれない。じゃなければあんな事、普通の感性じゃできないだろ。
「・・・すごい。剣どころか行動の”起こり”すら全く見えなかった・・・」
こっちが困惑して周りが見えなくなっていた。そうだった、彼女を助けたのだった。彼女の声を聞いて怪我などないか確認に歩み寄る。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん」
「はい!助けていただいてありがとうございました。・・・その、お名前をお伺いしても・・・?」
名前か。そういえば名前だ。現実の名前は思い出せない。恐らく例の記憶操作かなにかなんだろう。しかしだ。見知らぬ世界で圧倒的な強さがあっても名前は必要なのは変わらないだろう。
「・・・僕は名無しの男。ってのは・・・・面白くないし、なんて名乗ろう」
「名乗ろう?本名を名乗れない理由でもお有りで?」
「いや、訳あって記憶が無いんだよ。まあ無いだけで別段問題は無いけどね」
「なら名乗る名前、考えませんか?それで決まるまではジョン・ドゥでもいいのでは?」
「それもそっか。なら便宜上そう名乗るよ。ジョンでもドゥでも、縮めてジドでもいいよ。しっかし悪いなあ。ものすご~く個人的な理由で君を助けたのに良くしてもらっちゃ」
そう告げると助けた女の子は何を?と不思議そうな顔をしていた。
「一つ。記憶もないし街にも詳しくない。道案内がほしかったから現地人に恩を売りたかった。」
んん?と女の子は眉をひそめる。
「2つ。ただ戦闘が出来る程度には自分が強いというのがなんとなくはわかっていた。要は腕試しをしたかったのさ。つまり都合がよかっただけなんだ」
女の子の表情がすこし険しくなる。
「そして一番大事な3つ目。こんな可愛い女の子が悪漢に襲われてたら助けない理由が無い、ってなもんだろ?」
いってニヒヒ、っと笑う。それを見て女の子も険しい表情をほぐしてフフっと吹き出した。
「クス、かっこつけてるみたいですけど決まってませんよ。」
「ありゃ、それ本当かい?クッソー!そこそこクールに決まってたと思ってたんだけどなあ!」
笑いながら少しバツが悪そうに頭をかきむしる。
「でも困ってるのも本当なんだ。実は仲間集めに冒険者の酒場を探してるんだけど知らない?」
「でしたらご私がご案内します。助けていただいた恩もありますし・・・あ、自己紹介がまだでした。私はレーティリア・ブラックノックといいます。知り合いは私のことをレティとかティリアって呼んでますし、ぜひそうお呼びください」
「じゃあティリア、案内お願いするね。いざ!冒険者の酒場へ!」




