~37~ 悪魔⑤
「しかし、あの人は親のいないアタシにとって、姉であり母のような人だ・・・!それを!」
「でも貴方なら分かるはずですよ。貴方が僕たちの部下になることを拒むなら貴方も殺す。それならどちらがプラスなのか分かるはずですぜ?」
「分かるが!理解できても納得できない!」
「なら貴方だけでも生き延びて、蘇生の手段を探す、というのはどうですか?」
蘇生魔法。
確証はある。ドラグーンの魔法やアイテム、武具がある程度共通の世界であるならば、蘇生系の奇跡や魔法、そういった蘇生手段がこの世界にもきっとある。
あの世界での大体の蘇生魔法の設定は”命の抜けた体に、魂を呼び戻す”というもの。
神官職系の魔法である”奇跡”は命や生命力、死者の魂の浄化や呼び戻すなど、条件付きではあるものの可能だ。
ただ上位の蘇生系ならともかく、下位の蘇生系奇跡はデメリットが強い。生命力を大量に喪失させる。
ただドラグーン自体がデスのデメリットが他のアクションRPGと比べて重いのもあり蘇生はそれなり以上にデメリットが重い。大量に生命力を消費するゆえ村娘や町娘みたいな一般モブなんかに使ってもチリになって消滅してしまうのがオチだ。
そしてそんな魔法を僕の大先輩、ミスリル級の冒険者の彼女が知らないわけがない。
「・・・死体がきちんと残っている保証もない。それまで死体を残せるのか?」
彼女の心はグラついている。畳み掛けて心を折る。
「そこはもちろん。僕には道具職人系のスキルがいくつかあり、その中で不死者の黒棺ってのがある。この棺の中の遺体はモンスター、人間、亜人問わずに腐敗、損壊を完全に停止させることができるものがあるんだ。そこは完璧ですぜ」
「しかし・・・」
「もう選択肢はない。例の大事な人を本当に救いたいならアナ。貴方は協力するしか無い」
アナがぐっ、と顔をしかめる。
理性でわかっていても応えかねる、といった顔だった。
「・・・わかった。承服したよ。でもまだはらわたが沸繰り返そうだ。お前の手下になることがじゃない。彼女を交渉の材料にしたことだ。いつかやり返す。覚えてろ」
返事を聞くやジドはニッコリと笑って、嬉しそうに両の掌をすりすりとすり合わせた。
「キヒヒ、それでいいよ。心の折れていない方が僕としても嬉しい。これからよろしくねアナ」
フンッ、とアナはそっぽを向いて答えない。
まあそうだろう。憎い相手に愛想を良くする道理もないのは当たり前、といったところだろう。
「ただ、これから探偵や斥候、情報収集なんかもお願いすることがあると思うんだ。そっちには手を抜かないでよ?」
「舐めるなよ。アタシはこれでもミスリル級の斥候兼盗賊やってんだ。プライドがある。そこはかっちりやる。だからお前らも約束を守れよ」
「モッチのロンてやつっすよ先輩。仕事にはきちんと報酬だって乗せるつもりなんだ。僕は貴方を脅迫してコキ使いますが仕事をこなす上では対等であるつもりです。仲良くやりましょうや先輩。さてさて、それじゃ仕事の報告にいきましょう。ではその前に」
腰からすらりと一対の短刀の片割れを抜きだす。
刀身が仄明かりの松明の明かりでギラリと輝いている。
「彼女を殺して、棺に入れておきます。見るのが嫌なら先に言っててください」
アナは静かに頷いて、アナが来た方、入り口へとあるき出した。
「・・・まだ息があるのはわかってるだろ。苦しませずにやってくれ」
「心得ているよ。苦しませず殺す。それが狩り殺したものとしての食材に対する命への敬意だよ」
ティリアも、アナと一緒に入り口へ向かって歩いていった。




