~27~ ティリアの戦い
冗談じゃない。
いきなり目の前で、私のボディーガードをやるといった盗賊職がまっぷたつになった。
守ってくれるといった。あの言葉に私は安心した。
私、ティリア・ブラックノックは人のコミュニティの中にはいられない。そういう性、というよりそういう特性を持って生まれてしまった。生まれながらに根無し草という運命だ。
だから人を避けて生きてきた。単純な善意を向けられることはなんどもあった。だが冒険者というならずもの手前の私に、ああいう彼のような明るい善意を向けられることはそうなかった。
それ自体は嬉しかった。しかし、しかしだ。今死なれると私が困るのだ
彼から渡された魔法のダガーの効果で影の中に潜んではいるがこの効果はどこまでもつのだろう。
1時間?30分?10分?それとも3分も無いのだろうか。
最低最悪のパターンとして、今にも効果が切れてしまうことだ。そうなった場合どうしようもない。完全に詰む。後衛職として逃げ場のない地下迷宮でそこそこの使い手の盗賊職を、文字通り叩き切るような相手だ。更にいうならば殺意全開。向こうのパーティーは魔法使いが欠けたばかりだ。最悪そのあたりで交渉したいところだがうまくはいかないだろう。
(この手段を取る以上、私の正体が彼に露見する。ならば目の前のこの男を殺すしか無い!ならば彼を殺せるほどの魔法をぶつけなければいけない。だがそのためには詠唱の時間がたりない。)
ならば時間をかせぐ必要と稼ぐ手段、つまり壁がいる。
しかし、この手段は自分に善意を向けて接してくれた相手には少々良心が痛むものがある。
だが、そんなことを言っている場合ではない。正直この手段は正体が露見するのもあり最後の手段だがやるしかない。
利き手である右手から左手に、魔術の発動の触媒である杖を持ち替える。
影の中では魔法の発動や補助詠唱などはできないが装備の持ち替えなどは問題ないようだ。ならば覚悟もできた。やるしかない。
ティリアは影から姿をあらわす。
深呼吸をして深々と被っていたフードを脱ぐ。
「その顔・・・まさかお前」
「スキル発動。禁忌の縫合糸。」
スキルの発動。
それと同時に彼女の指先から黒い蜘蛛糸のような糸が飛んでいく。
飛んでいく先は目の前で両断されたジドにめがけて。
黒い糸はものすごい速さで、あざやかに両断された骨、繊維、、神経を縫い合わせていく。
スキル、禁忌の縫合糸。
日に使用制限のある、死体に対して発動できるスキル。
死体に対して使えば、死体に対応する下位のアンデットの作成ができる。
これで短時間ではあるがたしかに時間をかせげる。
「そのスキルといい、顔のそれといいお前人間じゃなかったのか」
脱いだフードのその下。
ティリアの顔には大きな”縫い跡”があり、その縫い跡は顔半分を横切るものだった。
そしてその半分は皮膚や肉が壊死しているのか薄黒く変色している。
そんな人間がいるはずない。しかしアンデットがこうもはっきり意識を持っているのもおかしい。
そしてさっきのスキルもそうだ。ならばあれは。
「鮮肉人形か。お前。」




