~21~ 対人戦⑦
「さあ、殺りあおう。|命の殺りあいをしようぜ、スレイプニールのロイドさんよ!」
ジドは大きな声で周囲に聞こえるよう叫びながら一歩、しかし言葉とは逆に後ろへ飛び退く。
「逃がすか!」
すかさず敵前衛2人、盗賊の少女と戦士のリーダーが間を詰めに飛び込んでくる。
それはもう殺意ギラギラで。
「そこでコレよ!そォら!」
ジドは戦闘前に短剣を片手持ちにして空いた左手に隠していた物を盗賊の少女目掛けて、投げる。
投げられたそれは一直線に風のように飛んでいく。
「あまい、よっとぉ」
盗賊の少女は特に苦もなく、その飛翔物をキャッチした。
それは槍の穂先のようなものだった。ダートのようなものに見える。毒なども特段塗ってはいない。あまりにも浅はかな考えで投げた飛び道具だ。
「甘いねぇ。めっっちゃ甘いよシルバー級の後輩クン。それぐらいちゃちゃっと掴んじゃえちゃうよ。アタシそれにこの通り、ミスリル級の大先輩なわけよ。それに厚手のグローブのおかげで毒とかも通んないんだよねぇ。残念でした」
「いえいえ先輩殿。”投擲技能”は本来AGIのボーナスが乗るんですよね。つまり人を小馬鹿にするような態度を取る貴女なら、きっとそうするであろうと思って、貴女が取りやすく、取ってくれるような速度でお投げしたんですよ、僕はね!」
「なんだって?それはどういう」
言い終わる前に盗賊の掌の中でバツン、と音がし、音に合わせて腕がビクン、と跳ねる。
「・・・え?」
敵の飛び道具をキャッチした右手の指が全部なくなっていた。
代わりに掌の上に傘のように爪が開いた、先程キャッチしたそれがあった。
いや、小指はかろうじて繊維や皮がつながっているから全部とは言えないが、右手がもう使いものにならないのだけはわかる。
冷静に自体を把握したら痛みが強烈に襲いかかってくる。熱い。痛い。死ぬほど痛い。
「~~~~~~ッ!ッよくも!ッよくもォ!」
痛みに呻く。叫ばないのはこのくらいの大怪我は幾度かしたことがあるからだ。
コレくらいならポーションでどうとでもなるからだ。まずはあいつらをやっつけてからだ。
「同輩にして先輩様の大事な商売道具、確かにいただきましたぜ!それじゃあね!」
さっき投げた鉤爪ロープは紐につながっている。それをひゅっと手繰り寄せると、踵を返して迷宮奥へ走り出す。
「ざけんな!逃がすか!」
ロイドの怒号。
すかさずロイドは走り出す。
それにつられて残りの2人も走り出す。
「はいティリア!今!」
「なに!?」
掛け声と同時に”影の歩み”で地面の中に潜んだティリアが地面から上半身だけを出した。
「なんだそりゃあ!?」
その手には魔法の杖。魔力が集中しておりいまにも魔法が発動されるだろう。
気づくのが遅いぞ先輩方。普段は狩れるモンスターばかりでメシ食ってるのか知らんが戦闘中の人間の悪意に慣れてないな。勇猛果敢、勇気だけが戦闘じゃない。
すばらしいひらめきと、誰もが唸る知略が勝敗を分けるわけだけでもない。
お互いただの人間なんだ。だったら人間を殺す方法が長けてるほうが勝つに決まってるだろう。
「濃霧|!」
杖の先から冷たい蒸気がブシュー!っと音を立ててあたりに充満していく。
あまりにも濃い霧のようなその蒸気はこの狭い通路をあっという間に包んでいく。
「目くらましか!全員、離れるな!集まって脇をガードしろ!」
声に合わせて三人はすかさず集まり団子になり、背中を預けて三方を見張る。
「アナ!魔法でなんとか霧を晴らせないか!?風系魔法が使え!!絶対離れるな!各個撃破が狙いのはずだ!チームとしてはこっちのほうが強いんだ!」
近距離ですら顔が見えないほどの超濃度の霧。
だが相手は霧の向こうに松明代わりに周囲を照らしているダガーを見てこちらの位置を把握しているはずだ。
スレイプニルの面々は声でコミュニケーションを図っている。
「畳み掛けるに決まってんだろ。」
ジドは道具袋、あらかじめ開いて置いてあったそれから一つのゴーグルを取り出して被る。さらに袋に両腕を突っ込んでありったけのダガーを取り出す。
柄のない刃渡り20cmほどのダガー。そして柄の代わりに金貨ほどの大きさの輪っかが本来の柄の部分にある。
ジドはその輪っかにダガーを一本一本、慣れた手付きですばやく通していく。
「旋風刃、こんどはバッチリ本気で投げる」
両手のそれぞれの指全部にそれぞれ一本ずつ、合計10本の刃がそれぞれの指先で風を切るブーン!という音をさせて回り始める。
「そおォらあ!!」
掛け声とともに投擲。
10のダガーたちが霧を突っ切って飛んでいく。
霧の向こうの様子はさっきかけた霧見の目でよく見えている。




