~18~ 対人戦④
あれから感覚的に15分ほどだろうか。道具の作成もばっちりだし、作戦もしっかり練ってある。
対人殺傷用の道具や、陥れる罠、あとは素人的兵法、といったところだ。
「お嬢さんはグッスリ?」
「もちろんです。一応ポーションを飲ませて切られた足の腱などは治してあります。その上で頂いた睡眠香瓶で眠ってもらってます」
ふぅ、とティリアはため息をつきながら心配そうにしている。
「どうするんです?多分死にますよ。今回のような事件をやらかすということはそこそこに腕には自信があるということでしょうし、中堅クラスのシルバー級程度じゃ手に負えない可能性のが高いです」
「そうなったら僕を置いて逃げていいよ。さっき渡したアレ、セットで持ってなくても影の歩みは使える。今日の使用回数はあと2回のこってんだ。だから手はず通り一回。最悪の場合はもう一回をうまく使って逃げてくれ」
「確かに・・ジドの方法ならうまくやれるでしょうけど、でも二刀流での闘い方がメインなのにどうして一本渡してわざわざ不利になるようなことを・・」
ティリアは心配そうに、深々フードを被った顔をのぞかせてくる。
フードで顔を見ることは出来ないが、彼女の声色は確かに震えていた。
恐ろしいのだろう。眼の前に確かに命の危機が迫っていて、彼女は魔法行使者だ。本来後方から支援を行うタイプなのに前衛は真っ向からの対人戦に不向きな暗殺者だ。
ちょっと戦線が崩れればもれなく死。前衛の僕が死んでも釣られて死。
すこし運が悪ければ即、死。
それにドラグーンと一緒なら、魔法職には逃れられない問題として魔力切れだってある。なんとか生き延びたとして魔力が切れた魔法職など、身体能力がそもそも人間とかけ離れて高いモンスターたちになぶり殺しにされてしまうだろう。
即死できればむしろ幸せだろう。
この世界がドラグーン基準で測ることができるなら、この世界のモンスターは悪辣なダークファンタジー基準で考える必要がある。
人を生きたまま食らう爬虫竜や人喰いのオークなどは当たり前だった。
えげつないのは制作陣の趣味でさすがに映像化はされていないが、設定欄だとRー18、もしくは18G必須の、人の体内に卵を産み付けるイソギンチャクのような虫や、生きたまま人間を鮮肉傀儡に作り変える恐ろしい羽虫などもいる。
そんなモンスターの手にかかるくらいなら死んだほうが幾分マシだろう。
「・・・大丈夫だよ。怖がらないでティリア。君は右も左もわからない僕を助けてくれた人間だ。偶然だったかも知んないけど、僕は感謝してるんだよ。僕だって死にたくはない。かならず犯人はブッ殺して生きて帰るから」
言い終えたジドはそう言い、ニッコリ笑う。
・・・ああ笑顔が引きつっているのが自分でもわかる。口の端が緊張からかピクピクしている。
ああは言ったが自分でもやはり恐ろしい。死ぬのは怖い。
そういえば死ぬ間際に以前の世界の記憶を返してもらえるとのことだったがどんな記憶なんだろうか。どんな人間で何をしていたかすら思い出せない。
自分が誰かすらわからないのは少し不安になる。
ただ・・・
ーそう。どうせならいい人間だったらいいな。みんなから愛されていて、突然世界から消えてみんなが心配してくれるようなそんな人間だったら嬉しい。
「・・・さて、心の準備はいいかい?そろそろ始めよう。改めてさっきの”仄明りの松明”を僕のダガーにお願い。そして武器に明かりがついたら、今頃こっちに向かってるはずの相手さんもこっちに気づくから、そこから、よーいドン!って訳だ」
「はい。わかってます」
「よろしい。じゃあ後は手はず通り行こう。先に強化魔法をかけてね」
「もちろんです・・・強化魔法素早さ強化、強化魔法頑強さ強化、強化魔法膂力強化。そして・・・いいですね?」
こちらを見つめてティリアが聞いてくる。準備はいいか?と。
「あたぼーよ。カモーン!」
わざと少しふざけた反応で返してやる。
クスリとティリアは笑うと、呪文詠唱の構えを取る。
「いきます・・・”仄明りの松明”」
ランタンに火を灯すように、暖かな光がジドのダガーに灯る。
それと同時に静かなダンジョン内に複数の足音が、通路を反響しながら聞こえてくる。
恐らく犯人だろう。ただ自らの命を護るため、襲撃者を迎え撃つのみだ。
遠くに向こうがつけているであろう、魔法かはたまた松明なのか明るいオレンジ色の明かりが見えていた。




