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第五話


 外観は、薄汚れた小さい城、といったところか。入り口からでは廃園による損壊状況を知ることはできなかったが、近づいてみれば良く分かる。

所々、屋根にあたる部分が欠けていたり落下して、延び放題となっている雑草の上に塊となって放置されている。廃園となっているから当然ではあるものの、廃墟特有の哀愁や不気味さを感じる前に、崩壊するのでは、という現実的な恐怖がやってくる。

「うへっ、すげえヤベえ感じすんだけど」


 聞こえてくるはずのない声が聞こえる、幽霊が現れる、変な生き物がいる、というのは、別に怖くもなんともない。それは野間も同じだろう。


 だが、これは話が別だ。


 外観は、薄汚れた小さい城、といったところか。

 入り口からでは長年放置されていたことによる、損壊状況を知ることはできなかったが、近づいてみれば良く分かる。

 所々、屋根にあたる部分が欠けていたり落下して、延び放題となっている雑草の上に転がっている。

 加えて、この巨大なアトラクション、何故か、全体的に傾いているような気がするのだ。目の錯覚…と簡単に片付けては駄目だろう。


 廃園となっているから当然ではあるものの、廃墟特有の哀愁や不気味さを感じる前に、崩壊するのでは…という現実的な恐怖が襲ってくる仕上がりとなっていた。


「ドリームはドリームでも、悪夢見そうだな。それはそれで楽しみだが…」

「地震でも起きりゃ、すぐ潰れそうじゃね? 裏木、どうすんよ」


 右側の留め具が外れたか何かで傾き、朽ちかけ地の金属が露出していた『夢の国へようこそ! ドリームキャッスル』という看板を前に、野間と顔を見合わせる。

 傾いた看板が直撃し、支えとなっている、ピンク色の太ったウサギのようなハムスターのような、謎の生物…パンフレットにもちゃっかり書いてあった、このドリームランドのマスコットが、また哀愁を誘う。


「パンフレットには、ドリームランドのお姫様、リーノ姫に会いに行こう! としか書いてないな。どうする野間、向こうのミラーハウスに変更するか? でも酔いそうだよな…」

「ミラーハウスにしとこうぜ。これ、探索してる途中で崩落すんだろ」

「それはない…とは言い切れないな。けどお前、バスの中で、あれほど城だ城にするぜ! って乗り気だったじゃないか」


 城に何か憧れでもあるのか、それとも拷問部屋に興味があるのか。兎に角、バスの中で野間は城という言葉をやかましいほど連呼していたのだ。

 だが、この現実を前にした野間は手を振ると、あっさりドリームキャッスルに背を向ける。


「やめだ、やめ! とっととミラーハウス見て、別の自分見つけて帰ろうぜ!」

「見つけるというか、入れ替わる…」

「細けえこと気にすんなって!」


 よっしゃ行くか! と気合を入れる野間との間に、生暖かい風が吹き、立て付けが緩んだ看板が揺れて、耳障りな甲高い音を立てる。

 夕日に照らされた城は、かなり探索心をくすぐられるが、それなりの規模の建物が傾いている姿を前にすると、どうしても躊躇する。

 とはいえ、人間の一人や二人が入城した程度で崩壊するわけも…いやいや待て待て、内部がどうなっているかも分からないのに、安易な判断はよろしくない。

 そうだ、どちらにしろ危険なことに変わりは…


「うっし決めた! 俺ミラーハウス担当で、裏木、お前この城担当な!」

「………は?」


 未練がましく悩む自分の横で、突然叫んだ野間。

 一体なにを…と理解する間もなく、気色悪い笑みを浮かべた野間は、私の肩に両手を置いてから、逃げるように背を向け…って。


「っておい! お前それはないだろ! どう考えてもこの城崩壊するだろ!」

「ちゃんと中入って噂の確認すんだぞ、裏木!」

「待てって! それなら二人でミラーハウス行くか別のアトラクショ……っておい…野間…」


 当然の提案にも、聞く耳持たず。人様を置いて、全力で走り去っていく。


「………おい」


 まあ確かに、帰りのバスの時刻もあるから、ここで延々意見を出し合ってても仕方ない、という部分はあるが…


「まあ………いいか」


 先程、ドリームキャッスルへ行く前に、どうせ前を通るから、とミラーハウスの確認もしていた。

 外観は家、というよりも欧米にある木造平屋といった感じで、予想以上に広そうではあった。

 そして、ミラーハウスといえば、中は迷路構造となっているはずだから、出口に抜けるのも時間がかかる、はずだ。


「…貧乏くじのような気もするが」


 野間がミラーハウスを楽しんでいる間、自分は、このドリームキャッスルの調査でもすればいい。

 自分にしろ野間にしろ、万一、なにかあれば連絡手段もあるから、大丈夫だろう。


 それに。


 それに…この崩壊しかけた城に、なんというか、ひどく惹きつけられるのだ。

 長くこの辺りに住んでいるが、業者が内部を撤去した、という話も聞かない。つまり。

 中はさぞかし荒れ果てているだろう。埃まみれになっているだろう。兎に角、冒険心を満たせる仕上がりになっていることだろう。


 そう考えると、いてもたってもいられない。


「さあ、行くか」


 一人気合を入れなおし、ドリームキャッスルの看板を通り抜け、傾いた夢の城へと足を踏み入れた。

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