第四話
「失礼します、と」
「うっわ! マジで…動いてんじゃねえか!」
「そうだな…マジだな…」
驚きつつも嬉しそうな野間に、頷き、首を右へ、左へ向ける。
入り口を越えた先には円状の花壇があり、ウサギのようなハムスターのような動物の顔が、でかでかと中央に置かれている。恐らく、ドリームランドのマスコットだろう。その奥に、蔦が這っている荒んだ城が見える。
右には、遠目でも分かるほど茶色く汚れている、元は白色だっただろう馬たちが円状に配置されたメリーゴーラウンド、その手前に、ドリームレストランと書かれた看板が貼り付けられている、お菓子の家を模したと思しき建物。
左には、所々塗装が剥げたレーンがあり、何故かその上で停止しているジェットコースターがある。左奥は軽く密林となっており、川らしき存在は確認できないが、アクアツアーを行っていた場所だろう。
そして、中央に目を戻す。
廃城、ドリームキャッスルの奥は一段嵩上げされているようで、ここからでも観覧車を土台から見ることができる。当たり前のように動いているが、ここからでは流石に人がいるのかを確認することはできない。
バスの運転手の話から、今日は他に誰も来ていないはずなのだが、まさか、車か徒歩で来たとでもいうのだろうか?
疑問はさて置き、私と同じくアトラクションを確認している野間の手元、パンフレットを覗き込むと、メリーゴーラウンドの奥にミラーハウスがあるらしい。メリーゴーラウンドに隠れて見えない。
「見た限り、動いてるのは観覧車だけだな」
「だな、って、お前! 当たり前のように言うなよ! 普通突っ込むところだろ!」
「突っ込んだって仕方ないだろう。業者らしき車もないし、誤作動とかだろう」
「誤作動だあ? ホントかよ」
「さあ」
何故か突っかかってくる野間へは肩をすくめてみせ、雑音が混じった軽快な音楽が流れ続けるドリームランドに目を戻す。
通路らしき道に沿って明かりが点灯しているが、やはり廃園となっているだけあり、電燈は明滅しているものや、点灯していないものがほとんど。
足元にはレンガの道が薄っすら見えるが、雑草に覆われている。
ここまで廃墟と化していれば、野生の動物が住み着いていても、飛び出してきても、驚きはしない。
「…どうすんだよ」
「どうするって、名親が言ってた噂を、確かめるに決まってるだろう」
返し、パンフレットと、野間が面倒そうに取り出したもう一枚の紙、個性的な字が並んだ紙へ交互に目を向ける。
「子どもが行方不明、ジェットコースターで事故った、アクアツアーで正体不明の生き物が見つかった、ミラーハウスで入れ替わり…」
「ドリームキャッスルにある拷問部屋、勝手に廻るメリーゴーラウンド、観覧車から変な声が聞こえる」
バスに揺られている間、二人で馬鹿話をしながら検討し、今も口に出して確認してみたものの、やはり、調べることが出来る噂は限られる。
「……廃園したとはいえ、この広大な敷地で消えた子どもの痕跡を探すのは無謀だし、ジェットコースターを調査するにしても、あの錆びたレールは流石に危険だろう。万一、突然稼動したら危険どころじゃない」
「んで、アクアツアーってあれだろ、係員が船漕いで、それに乗っかるアトラクションだろ? 俺、船の動かし方なんか知らねえから無理無理」
お前動かせんの? など聞いてきたから、当然無理だと返しておく。
「やっぱりミラーハウスか、ドリームキャッスルの噂か」
「だな。両方とも見てくりゃいいだけだしな」
今見たところ、メリーゴーラウンドは停止したままで、動いているのは観覧車。
これが逆なら、廻るメリーゴーラウンドと、観覧車のゴンドラから聞こえてくる謎の声、双方の噂を調べることも出来ただろうが…
建物が無事ならば、ミラーハウスかドリームキャッスル、それらの噂を調べるのが最もお手軽だろう、という結論は先に出ていたから、まあ、これは想定内だ。
「野間、どっちにする? 別に、分かれて調べても構わないけど」
ただ、まさか廃園となった遊園地が稼動してるとは予想もしてなかった。
賑やかではあるが虚しい廃園。
だが、野間はこの微妙な雰囲気を気にした様子もなく、逆に嬉しそうな顔で、一際巨大な建物を指し示す。
「とりあえずよ、近えし城に行ってみようぜ!」
「了解。それから、城じゃなくて、ドリームキャッスル」
「どっちでも一緒だっての!」
こうして、長年放置されていた、けども稼動している遊園地を散策することとなった。