第三話
数日後。
古びてはいるものの、保管状態は良好であるパンフレット片手に、その他軽く装備を整え。
話を持ってきた名親すら、誰が言い出したのか知らない『噂』を確かめるべく、野間と二人、裏野ドリームランドへ向かったわけだが…
「な、なあ裏木よ」
「言いたいことは分かる。自分も今、そう思ってるところだ」
「お、おう」
二人でバスに乗り、他の乗客がいないのをいいことに、運転手へドリームランドのことを聞いてみれば、苦笑しながらであったが、最寄のバス停を教えてくれた。
どうやら、裏野ドリームランドは実在し、廃園になっている、という話自体は事実のようで、一部の廃墟マニアが時折訪れるらしい。
とはいえ頻度は低く、一年に一人か二人。だが、この田舎の中でそんな変わった人間がいれば、ほぼ毎日バスを動かしている運転手なら、印象に残る。
…まあ、何せ田舎で運行しているバスだ。
大体が顔見知りで、山はあるものの、大した観光名所もない。生活の足以外で乗るような客がいれば、記憶にも残るだろう。
裏野ドリームランドについて軽く教えてくれた運転手に礼を言い、最寄のバス停から降りて、歩くこと十数分。
そこら中、草が生い茂ってはいるものの、道路らしい道があったので、それを辿りつつ、所々で立ってる案内の看板を目印に、到着したのは昼を大分過ぎた頃。
「あの野郎、ドリームランドは廃園したって言ったよな?」
「自分もそう聞いた。バスの運転手もそう言った。間違いない」
何事も無く、裏野ドリームランドに到着したのはいいが、二人で入り口に立ち尽くすこと数分。
さっさと中に入ればいいだろうに、こうしているのには、理由がある。
「でもよ、俺の空耳じゃなけりゃ…」
「ああ……」
私たちの目の前には、錆付いた看板と、四箇所に分かれた、ドリームランドへの入り口がある。
左手には雑草に覆われているものの、所々に白線が長方形になるように引かれているのが確認できることから、恐らく駐車場だったのだろう。
その双方の前に、立ち入り禁止と書かれた看板と共に、垂れ下がった鎖がある。
それらが、確かにこの場所、裏野ドリームランドが、廃園した遊園地であることを示している、のだが…
「なんか音が聞こえて、こねえ?」
「聞こえる。それ以前に、照明が普通に点いてる」
確信に満ちた問いかけに頷き、野間と顔を見合わせても、現実は変わらない。
暑く湿った空気と共に、賑やかな、それこそ遊園地らしい軽快な音楽が聞こえてくる。
入り口に掲げられている錆びた看板では、いくつもの電球が点滅しているし、遠くに見える円状の建物、観覧車はゆっくりと、けども確実に動いているのが分かる。
「おいおい! 裏木、こりゃどういうことだよ!」
「聞かれても困る。とりあえず行って、確認するしかないだろう」
「……なんつうか、お前、冷めてんなあ」
「十分驚いてる」
どこからか聞こえてくる音楽に、明滅を繰り返す照明。
それらを前に、いつまでも突っ立っているわけにもいかない。
再び頷くと、錆びた鎖をまたいで、野間と二人、廃園となったはずの裏野ドリームランドへと足を踏み入れた。