表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

第二話

「噂だって? どんな噂だよ?」

「ああ、人が殺されたんだろ? よくあるよな!」

「いや、遊園地が廃園になる理由なんて、利用者数の減少ぐらいだ。あとは、運営会社の方で不祥事があって倒産したという可能性も…」

「固本、真面目な顔してボケなくていいから」


 怪談話をしているというのに、何故、廃園した理由が運営会社の不祥事になるのだ。固本の推理は的外れに過ぎる。

 現実的な推理に苦笑しつつ、余裕の笑みを浮かべている名親の話に、耳を傾ける。


「そんじゃさ、アトラクションにまつわる噂から、ドリームランドにまつわる噂まで、盛り沢山な噂、聞いてくれよ!」

「へいへい、分かった分かった。どうでもいいから、とっとと言えよ」

「まあ焦るな野間君。ほんで、婆ちゃんが言うにはさ…」


 一つ、開園してから廃園になるまで、何人かの子どもがドリームランド内で行方不明になった。

 二つ、ジェットコースターで、大きな事故が何度も起きた。なのに、なんの事故かは誰も知らない。

 三つ、アクアツアーで、不気味な生き物の影が頻繁に目撃された。

 四つ………


「なんだその……それ」

「らしい、っちゃあ…らしいか?」

「なるほど、そういう噂か」


 どこからか取り出したメモを見つつ、時折口篭りながら。

 名親は裏野ドリームランドとやらが廃園になった原因である『噂』を挙げていく。

 全て言い切ると、個性的な字が並んだメモをパンフレットの横へ置き、何かを企んでいるようにしか見えない笑顔を浮かべて、私たちを順繰りに見やる。


「つうわけで! 七つあるこの噂さ、誰か確認して来てくんね?」

「…………は? はあっ?」

「おい待ちやがれ! なんでそうなるんだよ!」

「だって俺…金ないし…っておうふっ?」


 それで、この噂を確かめに行ったんだけど……という感じの続きを期待した瞬間、こちらへ全力で放り投げてきた名親。

 すかさず、左右にいた適藤と野間から言葉だけじゃなく、物理的にも鋭い突っ込みが入る。

 …少なくとも、裏野ドリームランドが実在するのかぐらいは確認してから、話をして欲しい所だ。


「そもそも、まだその遊園地があるのか分からないんだろう? 無駄足だった場合はどうするんだ?」

「ふふっ、裏木君よ、心配するでない! 婆ちゃんがこうしてパンフレット持ってたし、あるということは自明であり…」

「遊園地が、無かった、場合は?」


 一気に場が白けたのも仕方ないだろう。適藤なんかは、まだ名親に蹴りを入れている。

 仕方ないと、私が疑問を口に出せば、名親は目を彷徨わせ、両手を持ち上げ、下げる、ということを繰り返す。

 逃げさせはしまいと追い討ちをかければ、明らかに動揺したご様子で、更に挙動が怪しくなる。


 ……まさか、確認もせず、ドリームランドが実在してることを前提に話していたのだろうか、この男は。


「そんときはソレ……そう! あれだ、裏木! アレさ!」

「名親、当然、噂の確認にかかった諸費用は、お前が負担するんだろう?」

「いやいやいや! 固本君、馬鹿なことを言わないでくれたまえ! 俺金欠ってさっきも…そ、それじゃ、じゃあやっぱこの話なしに…」

「分かった、自分が行くよ」

「よっし、俺が行ってやるぜ!」


 突然の丸投げ体制に溜息もでるが、私が手を上げれば、横にいた野間も勢い良く身を乗り出していた。

 まさか野間が名乗りを上げるとは思わず見れば、向こうも同じ気持ちだったのか、意外そうな目を向けてくる。


「珍しいな、野間が手を上げるなんて」

「お前こそ。いっつも俺らが怪談話してても、興味ないぜえ、みたいな詰まらねえ顔してたくせによ」

「…悪かったな、詰まらない顔で」

「つうわけでよ! 名親、そのパンフレット借りるぜ!」

「お、おう…」


 失敬なことをのたまいつつも、既に乗り気になってるらしい野間。

 一方的に宣言すると、机の上に置かれたパンフレットをかっさらい、行き方を確認し始める。


「電車だと駅からの送迎バス……つうことは、普通にバス使うしかねえてことか……ふうん……」

「なあ、お前ら本当に行く気のか?」

「そもそも、裏野ドリームランド、か。存在するのか分からないだろう?」


 行く気がない二人組、適藤と固本が私たちを心配するように問いかけてくる。

 それに頷きつつ、確かに不発だった場合を考える必要もあるかと、思考すること数秒。名案を閃いたので、言っておく。


「裏野ドリームランドが存在しなかった、もしくは、存在したが噂が嘘だったその時は、名親が交通費の返還と、適藤たち含めた四人分の昼飯を奢る、ということで」

「はいい?」

「お、いいねえ!」

「裏木、野間、気をつけて行って来い」

「うおおおい! 裏木君っ? 待った待ったま…うおっ?」


 この話に対して半信半疑、というよりも完全に信じていない二人組が、私の提案を聞いた途端、一転して快く送り出してくれる。

 逆に、名親は慌ててパンフレットを取り戻そうとするも、意地悪い笑みを浮かべた野間が、くるりと背を向け、パンフレットを素早く服の中へ隠す。


「じゃ名親クン、そういうことな?」

「くっそ! こんなことなら、言わなきゃ良かった!」

「まあ落ち着け。実際にドリームランドがあれば、交通費の請求はしないさ」

「ああそりゃ良かっ…てそれ! どっちにしろ、俺、飯奢らされるってことじゃん!」

「だって名親、言いだしっぺじゃん? それぐらい覚悟の上じゃん?」

「ごっそさん」


 財布の危機に対して嘆く名親に、野間と固本はその肩を叩き、適藤は手を合わせて礼を言う。


 そうして、私と野間の二人は、数々の噂によって廃園に追い込まれたらしい、裏野ドリームランドへ向かうことになったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ