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第十六話

「い、いや、待て待て待て!」


 何故勝手に扉が閉まってる? 扉が閉まる音なんて聞こえやしなかった。


「冗談じゃないぞ!」


 慌てて扉に手をかけて手前に引っ張るも、木製の扉はびくともしない。おかしい、この扉には鍵などついてない。

 焦りつつも懐中電灯で手元を確認してみたが、やはり鍵穴らしき穴などない。


 では、何故扉は閉まり……開かないのだ。


「くそっ!」


 額に、手に、背中に、汗が滲んでくる。嫌な予感に両手を強く握り締め、ふと硬い感触に気付く。

 ああそうだ、最初の黒い扉についていた閂を持っていたんだ。忘れていた。


「………」


 目の前にあるのは木製の扉。私が持っているのは、金属の棒と化した閂。これならば、打ち破ることも容易い。


「おい! そこに誰かいるのか!」


 懐中電灯を床へ置き、一応外へと声をかけてみるも、物音一つ聞こえてこない。扉が分厚いために音が遮断されているのか、扉の外に誰もいないのか。

 …前者でしか有り得ない、あって欲しい。だが、ここでぐだぐだ考えても仕方ない。

 何もないとはいえ、意味も分からずこんな部屋に閉じ込められて平静でいられるほど、図太い神経はしていない。


「扉をぶち破るからな! そこをどけ!」


 閂を両手で持ち直し、振り上げ、叫ぶ。


「いいな! 忠告したぞ!」


 最後に声を張り上げ、数秒待ってから、勢い良くそれを振り下ろす。


「こんの……っ?」


 木にしては鈍い手ごたえだと思ったのと同時、部屋が闇に包まれる。

 一片の躊躇いもなく振り下ろした閂は、木とは思えない弾力をもってして弾かれ、両手からすっぱ抜ける。閂が落下する激しい音が続き、部屋が無音に戻る。


 それら全てが、ほぼ一瞬で起きた出来事だった。


「なんだ……一体……どうなってる…」


 閂から伝わってきた感触も十分不気味ではあったが、それ以上に、まるで誰かが電源を切ったかのように、突然明かりが消えたことで、心臓が跳ね上がる。

 早くなる鼓動と、噴き出す汗。


 不穏な空気に、まさかという思いを抑え、殊更ゆっくりしゃがむと、暗くなった部屋の床へ手を這わす。

 すぐさま、近くで固い感触がしたので、掴みあげる。拾い上げた懐中電灯の電源を入れてみるが、一切反応しない。

 電池切れだとしては、いやにタイミングが良すぎる。電池切れ前に見える、光量の不安定さもなかった。


 では何故?


「…………誰か、いるのか…?」


 それはないだろうと思いつつ、しかし声をかける。

 この部屋はさほど広くなく、無人であることは確かに確認した。それも、一度ではない。

 ならば。ならば何故、外へつながる扉は閉まり、懐中電灯の光は消えたのか。


「………」


 周囲に目を向けるも、完全な暗闇の中では無意味に過ぎる行動。だが、そうするしかない。

 何かが、ナニかがいるのなら、その姿を確認し、対処する必要が、ある。


 手を伸ばし、湿った壁を確認。その木の壁を背にして、右へ左へ右へ…視線を飛ばす。

 何も見えないが、何かが動いた時に起きる空気の揺れもない。


 そう、だ。何の音も聞こえない、だから、何かがいるはずなど…


『……ム……むかシ……ラ……むラ…』

「なっ?」

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