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第十三話

『オめデ…トウ……う……ウ……』


 馬鹿な。半ば確信してはいたが、確かに外れた鍵を前に、信じられない気持ちで一杯になる。

 何故、この無骨な扉の鍵が、肖像画たちの中にあったのか。何故、それを客に取らせるのだ。

 やはり、この扉はアトラクションの一部……なのだろうか?

 分からない。合理的な理由が見つからない。


「…………」


 しばらく考えていたが、答えが出てくるはずもない。予想は出来るが、それが正解か判断してくれるモノはないのだから。

 思考を切り替えるために、首を振る。

 そして、鍵が刺さったままの南京錠をそのままに、閂に手をかけ、左へと動かしていく。見た目通り金属製らしく、重く動かすのに手間取る。

 しかも、長年動かされてこなかったからか、相当力を入れて小刻みに揺らしていかなければ、少しも動こうとしない。


「くっ……そ…っ」


 それでも歯を食いしばり作業をしていけば、冷たく重い閂が、徐々に、徐々にだが動いていく。耳障りな音が、やけに響く。

 片開きの扉で、閂を数センチ動かすだけだというのに、時間がかかる。


「………よ…しっ!」


 ようやく閂を動かし終えれば、額や背中に冷たい汗をかき、肩で息をしていた。

 達成感などはない。あったのは、何故先に進めるようにしたのか、という後悔、矛盾めいた感情だけである。


『サ…さ…ザ…サア………』

「…………」


 鍵と閂は外れた。


 では、この先に行くのか?


 何故、行く必要があるのだ?


「………」


 今更になって、そんな疑問がふつふつと浮かんでくる。

 その数分、数秒前までは、何があるのか確かめてやろうという気であったというのに、この黒く重厚な扉を開ける状態となった途端、決意が萎み、枯れていく。

 それほどまでに、扉から異様な圧力を感じるのだ。

 

 全てを阻むような、この扉から。


「ただの、噂だ、噂」


 口に出して、何度も頷く。

 そう、そうだ、拷問部屋など、ただの噂だ。何をそんなに怖がることがあるのか。

 大体、全て私の想像ではないか。この扉も、ドリームランドが廃園になったから、何らかの理由で取り付けたのかも知れない。


「………」


 そう言い聞かせても、目の前の扉からの、なんともいえない空気は払拭されることはない。

 …いや、きっと、これも私の勝手な思い込みだ。

 能天気な野間がいれば、何とも思わないだろうに、一人だから余計なことを考えて、勝手に怖がり怯えるのだ。


「は、ははっ」


 そこまで考えて、自嘲する。

 笑うしかない。根拠のない推測で、自分自身を追い込んでいく、馬鹿ばかしさに。


 そもそも、このドリームキャッスルにまつわる噂は『隠された地下室があり、しかも拷問部屋である』それだけだ。

 そこに殺人鬼がいるわけでも、死体があるわけでもない。

 ただ、そんな用途で使用された部屋がある、かもしれない。そういう噂だ。


「…馬鹿馬鹿しい」


 万一、それこそ万が一、殺人鬼や死体があったとしても、廃園になってから最低十数年は経過している。部屋に残っているのは、骨だけだろう。

 あるかどうかも分からないモノに怯えるなど、本当に馬鹿馬鹿しい。

 現金なことで、こう考えた途端、扉を開くことに躊躇いを感じなくなっていた。


「よっ、と」


 余裕が出てくれば、自然口元もつり上がる。

 すっきりとした気分で黒い扉に手をかけ、押していけば、重い音が続く。

 半分程度開いたところで、地階特有の、湿った埃っぽい空気が流れ込み、纏わりついてくる。

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