第一話
主な登場人物の読み方は以下の通りです。
但し、今回における名前とは記号であり、それ以上でもなく、それ以下でもありません。
裏木:うらき
野間:のま
名親:なおや
適藤:てきどう
固本:こもと
よって、特に人物の描写不足が目立つと思われますが、よろしくお願いします。
「裏野ドリームランド?」
なんだそりゃ、と疑問符を浮かべたのは、隣に座っていた、野間だ。
この裏野に長く住んでいる友人は、心当たりがない、といったような顔をしている。
そんな野間を観察していた私も、恐らく、同じような表情をしていたのは間違いない。
「知らねえ? 俺もだけどさ、野間とか裏木もさ、ずっと裏野に住んでるだろ? 知ってると思ったんだけどなあ。昔あったって話なんだけどさ」
「名親、そのドリームランドって何だ? 公園か? それとも遊園地?」
「遊園地遊園地! ほら、向こうに山あるじゃん、裏野山! その中に、ぽっかり平地があってさ、そこ!」
一方、聞いたこともない施設の名前を口にしたお調子者の友人、名親は、当てが外れたような顔をして、けども食い下がる。
野間だけでなく、耳を傾けていた、適藤と固本も首を振り、聞き覚えがないと主張している。
私を含めた五人は今、普段から閑散としている集会所の一室に集まっている。
夏だから、と安易な理由で、地元の怪談話を持ち寄っては、適当な間隔で発表している、単なる暇つぶし。
そして、この裏野地区は、田舎に分類される場所であり、探せばそれなりに怪談らしい話が出てくる。
とはいえ、そこはそれ。
怪談じゃないだろうという下らない話から、それっぽい作り話、そして、実話。
各々が様々な場所から探してきた話に耳を傾け、怖い怖いと言い、笑いあう。そんな集まりだ。
さて、今回は実話系らしいな、と当たりをつけ、ひらひらと、どこからか取り出したパンフレットを見せびらかす名親へ目を向ける…パンフレット、あるのか。
「婆ちゃんに、何か面白怖い話ないかって聞いたらさ、コレ取り出して延々、裏野ドリームランドが裏野ドリームランドがって! 四回も五回も同じ話されてさ、参ったねえ」
「それだけ印象深い遊園地だったってことだろ? 別にいいじゃん」
「それにしちゃ、綺麗なパンフレットじゃねえか。お前の婆ちゃんの話っつうことはよ、その…ナントカナントカって、昔のことだろ?」
「野間! 裏野ドリームランド! ナントカナントカじゃねえよ!」
「悪ぃ悪ぃ」
怒られつつも反省していない野間を皆で笑いつつ、名親は祖母から借りてきたらしいパンフレットを、机の上に広げだす。
馬鹿にしつつも、私を含め、皆それなりに興味を持ったようで、各々身を乗り出して覗き込む。
「この完成度、どうよ!」
「へええ、意外とアトラクションあるじゃん! 普通に遊べるんじゃね?」
「ジェットコースターに観覧車……アクアツアー?」
「ミラー、ハウスってなんだ? 鏡家?」
「簡単に言えば、鏡で出来た迷路だな、野間。しかし、どこぞのテーマパークと同じようなラインナップだな」
パンフレットを指差し、口々に感想を言い合う。
いつ頃存在していたのかは分からないが、パンフレットには、裏野ドリームランドとやらの案内図が載っていた。
ジェットコースターにアクアツアー、観覧車、ドリームキャッスル、ミラーハウス、メリーゴーラウンド……レストランに土産売り場、と様々なアトラクションと設備がある。
アトラクションの規模からして、かなりの敷地面積ではあるが、そんなものが取り潰されたり廃園になっているのなら、この中の、誰も知らないということは考えにくい。
「んでもよ、お前ら、このドリームナントカあんの、知らねえんだろ?」
「ああ」
「そだな」
私と同じことを思ったらしく、野間が問いかければ、話を持ってきた名親含めて全員が頷く。
そう、やはり裏野ドリームランドのことを知ってる人間はいない。
「お前の婆ちゃんが、別の所と間違って話してるわけじゃ、ないんだよな?」
「ないない。ほれ、このパンフレットの裏さ、見てみ」
「裏? ああ…交通アクセスか」
「うら…浦野線? から送迎バス………裏野交通からは…って」
「おいおいおい! これマジかよ!」
アトラクションが書かれた地図を裏返せば、ドリームランドまでの交通機関が書かれている。
そこには、私たちにも馴染みがある、バスや電車の名前がはっきりと書かれていた。
「最寄のバス停は…ドリームランド前? 聞いたことあるか?」
「いんや。そもそも、家近くのバス停と、その手前以外覚えてねえし」
「俺も俺も」
「…そのバス停、今もあるのか分からないな」
あまりにもローカル過ぎて、ホームページなど存在しない浦野交通。バス停にしか、停車場所が書かれてない気がする。
一部のマニアなら覚えていそうだが、残念ながらそのような趣味を持った友人はいないようだ。
「つまりよ、近くに閉園した遊園地がある、つうことだな」
「そうそう、その通りだ野間君! ほんで、こっから本題」
色々面倒臭くなったらしく、適当にまとめた野間へ頷き、名親は得意げに胸を張ってから、顔を突っ込んでくる。
「この」
と、机の上に置かれたパンフレットを指で叩き、私たちの顔を見回してくる。
「裏野ドリームランド、廃園になったんだけどさ。その原因に…色んな噂が関わってるんだと!」