その①
初めまして!
私は「OU,AT」(オウアット)と申します。
以後、よろしくお願いいたします。
さて、今回は「恋愛もの」を書かせていただきました。かなりぎこちない小説になっているかもしれませんが、ご了承を。
また、この物語には題名がございません。「その①」とはしてありますが、「切り抜き物語」の「その①」であり、この物語そのものには題名をつけておりません。
ですので、この物語の題名は何なのか、この場面の前後には何があったのか。
そのあたりは読む方々のご想像に委ねたいと思います。
どうか、この物語が皆様方の「自由な読書」の一歩になりますように。
ごゆっくりどうぞ。
自動ドアが開いた瞬間、空調のよく効いた暖かい空気とショッピングモールの喧噪が顔全体に向かってくる。いつも来ている場所だったけれど、今回はちょっとわけが違うせいか、空気に緊張感を帯びているような気がした。まぁ、そう感じるのは私が緊張しているからなのかもしれないが。
とりあえず、メッセージを確認しながら伝えられた場所へと歩みを進める。目的地はこのショッピングモールの3階にあるフードコート。普段なら3分ぐらいで着くし、今回もきっとそれぐらいかけて来たと思うが、その時間が10分にも15分にも感じた。自分にもどうしてそう思ってしまうのかよくわからなかったが、とりあえずそれを緊張のせいにしておいた。
「なんでこんなにも空気が違うんだろう。」
そう思わずにはいられなかった。「友達に会う」といういたって普通の出来事なのにも関わらず。
エスカレーターで上まで上り、10分ぐらいかかったような時間も終わった。「中央から右へ3列目の一番窓際の席」。そこが丘ちゃんの指定してきた席だった。相変わらず細かい指定だな、などと思いつつ、丘ちゃんの顔を思い浮かべた。これから最後の「おしゃべり」をするのだと思うとやっぱりそれはそれで悲しかった。しかしそれも謎の緊張によってすぐにかき消されてしまう。
「きっと『今日が最後なんだ』って思ってるから緊張しちゃうんだ。」
心の中で本気でそう思った。
「いつも通りいこうっと。」
少し心が軽くなったような気がした。
フードコートの中はもうそろそろ3時になろうかという時間帯であることもあってか、空席が結構見られた。これならすぐに丘ちゃんも見つかるだろう。
「中央から3列目の・・・」
スマホをちらちらと見ながら、中央席である緑のテーブルから右手の方向へ3列分進む。黄色いテーブルがまっすぐに並べられていた。
「・・・一番窓際。」
奥のほうに目をやると、確かにそこには人が座っていた。しかし、何かがおかしい。
「あれは・・・誰?」
黄色い窓際のテーブルには長い黒髪を後ろで束ねた、女の人が座っていた。丘ちゃんではない。確かめるようにスマホのメッセージを読んでみる。でもやっぱりそこには「3時にフードコートの『中央から右へ3列目の一番窓際の席』に来て。」の文字が書かれていた。緊張なんていつの間にかどこかへ消えていた。その代わりに、私の頭の上にはただただクエスチョンマークが並ぶだけだった。
「と、とりあえず、声をかけてみようかな」
ひとまず、その席へ行ってみることにした。近づいていくごとにその女性の容姿がはっきりしてくる。白のシャツにジーパンを穿き、小ぶりな耳にはイヤホンがはめられていた。その目線の先には文庫本ぐらいのサイズの本が開かれている。話しかけやすそうなのが何より幸いだった。
「す、すみません。」
私は思いきって女の人に声をかけてみた。すると、イヤホンをしていたにも関わらず、すぐに立ち上がって、
「は、はいっ」
と返事を返してくれた。思っていたより声が低い。
「えっと、その…」
何から話を切り出したらよいのか戸惑っていると、
「あ、もしかして内島すみれさんですか?」
私はその一言に驚き、そして耳を疑った。あれ、なんでこの人私の名前を知ってるんだ?初対面のはずなのに。声がうまく出なかった。コクンと首肯だけすると、
「あ~、やっぱり。合ってて良かった~」
と言い、ホッと胸を撫でおろしたような表情をした。
その後、その女性は私に「どうぞ。」と言って席を勧めてきた。この人にはいろいろ聞きたくなったし、とりあえず女性の前に座った。近くでよく見ると、その肌は特別白いわけでもないが、よく手入れがされていて、ポニーテールの形に束ねられた髪も艶やかな色合いを醸し出している。
「私は『ミヤタニ フウカ』って言います。漢字はこうね。」
ミヤタニさんは持っていたメモに「宮谷 風花」と書いた。なるほど、可愛らしくていい名前だ。
「わ、私は『内島 すみれ』って言います。…ってもう知ってるんでしたよね。」
「う、うん。そうだね。」
ここで一番疑問に思っていたことを宮谷さんにぶつけてみる。
「ところで、なんで私の名前を知ってたんですか?」
「実はね…私、丘町さんのいわゆる『お手伝いさん』なの。」
「『お手伝いさん』、ですか?」
「そう。…あんまりこういう事言っちゃうのはダメなのかもしれないけど、実はお母さんが入院しちゃってね。しばらくの間私が家事を担当することになってるの。」
そう声を潜めながら宮谷さんは言うと、少し微笑んで見せた。
いろいろ初耳だった。丘ちゃんにお手伝いさん―メイドさんのようなものか―がついていること。お母さんが入院してしまっていること。さっきから驚かされてばかりで次の話にしっかりついていけるか少しだけ不安になった。
そんな不安を振り払うように、別の話題をふった。
「そういえば、丘ちゃ…鷹規くんはどこですか?今日は鷹規くんに呼ばれてここに来たんですけど…宮谷さんならなにかわかりますよね?」
「うん…」
宮谷さんは静かに頷くと、佇まいを正した。私もそれに倣って椅子に座りなおした。
「じ、実はね、鷹規くんはあのメッセージを送った後に風邪をひいちゃって…『すみれにうつしたくはないから代わりに行ってくれないか』って頼まれたんです。」
「そんな…じゃあ、『話し』っていうのはどうなっちゃうんですか?」
半ば、興奮気味になっていたのかもしれない。「とりあえず最後まで聞いて。」と言われ、ハッとして俯きながら座った。なんだか体温が下がるような心地がした。
「でね、鷹規くんは鷹規くんなりに手紙を書いたみたいで…読んでくれないかな?」
そう言って宮谷さんは一通の白い封筒を渡してきた。開けてみると確かに紙が何枚か入っている。
「あの…これ、ここで読んでいいですか?」
「もちろん。むしろ、『その場で読ませてくれ』って言ってたかな。」
心なしか、そう言った宮谷さんの表情はどこか強張っていたような気がした。
ひとまず、これを読まなきゃ始まらない。私は宮谷さんの目の前でその手紙を読んでみることにした。
3月31日
こんにちは。今日はそっちに行けなくてごめんね。
ホントはすみれと最後に話しておきたかったんだけど…こうして手紙を書くことにしました。
理由は…聞かないで。
それで、俺が最後にすみれに話しておきたかったこと。それは「あの気になってる人の事」。
最後の話題にしてはバカバカしいでしょ?
でも前から約束してたし、この約束だけは守ろう、って思って。
3年生になってから、少しずつ「ヒント」は出してきたよね。
去年2組だったこと。
元吹奏楽部だったこと。
その答えを、ホントは直接言いたかった。
直接言って、驚いて、それから「じゃあ、お互い高校でも頑張ろうね」って言いたかった。
でも、俺にとっては今日が最後のチャンス。ほかの日には移せないの。俺なりに割り切って、
それからこの手紙を書いたつもりです。
ホントはもっといろんなことを「直接」話したかったんだけど、
そろそろ締めくくらないと長くなっちゃうし、
ここらへんでこの手紙も締めようと思います。
2年間ありがとうございました!
「俺が気になってた人」。それは…
目の前に。
ガバッと顔を上げた。まさか、と思った。まさかこの人が…と思った。
しかし、目の前にあったのは宮谷さんの顔ではなかった。
私。
私の顔があった。
もう、パニックになった。え?どういうこと?
ふと我に返ると、目の前にあるのは手鏡であることに気が付いた。宮谷さんが両手で手鏡を差し出している。その表情は微笑みとも緊張ともとれる、複雑な表情をしていた。
「これは…?」
何が何だか分からなくなって、宮谷さんに聞いてみた。すると宮谷さんは
「そう。鷹規が気になってたのは、すみれのことだったんだよ。」
と静かに言った。その声には聞き覚えがあった。
まさか…
宮谷さんはカバンから白いマスクを取り出し、自分の耳にかけると、今度は自分の頭に手を添えた。
まさか…
次の瞬間、宮谷さんの髪の毛が「浮いた」。いや、「取れた」のほうが正確だろう。その髪の毛をカバンにしまうと目を見開いて私のほうに向きなおった。
いかがでしたでしょうか。
私自身、この小説は初(恋愛)小説&初投稿であるゆえに、いろいろと拙いところがあったかもしれません。
それでも、最後まで読んでいただいた読者の方々には感謝の一言に尽きます。
ありがとうございました。
次は、SFあたりが書ければいいかな~、と思っております。
次回もお楽しみに!