ふたなりになっちゃった百合・アフター
推しカプは結婚後や将来のことまで深く考えていく学派です。
使用した妊娠検査薬、どこがどう薬かわかんないけど、確かに判定サークルのところに赤紫の線が入っていた。
説明書きの通りだとこれは陽性というやつだ。陽性であってたっけ? とにかく大命中、だ。
そそくさと部屋に戻って待たせている理沙に、見せつける。
「私、できちゃったみたい」
「ごめん……」
「……、これは、ごめんじゃ、済まないよねぇ……」
私、鹿波真帆は同級生で、同性のはずの敷島理沙とお付き合いしている。恋人である。
ところがこの間、なんと理沙に男性器が生えたとのご相談を受け、そのままベッドインしたのだ。
何を言っているか分からないと思うけど、私もよく分かっていない。理沙のが優等生に見えてムッツリスケベだということは分かった。
つまりこれはそれでできた赤ん坊ということになる。
「………………」
「………………」
流石に私もかける言葉が見つからないなぁ。そもそも理沙は性器がついたことをまだ家族にも誰にも、私以外には秘密にしているはずだ。
だから私が妊娠したなんて話をしたら、相手は誰だ、となる。理沙が彼女になったことを家族が奇跡的な認め方したのに男と付き合いよってけしからん、いやむしろその方がマシか……。と色々なるだろう。
妊娠したことないからどうしたらいいか分からないけど、まず産むかどうか、だよね。
理沙の子ども、産みたいな。
でも高校を辞めるとかそういう話になるよね。十月十日だっけ。妊娠しながら受験勉強とか、子育てしながら大学は無理だよねぇ。
「あ! 責任とってよね?」
「う…………うん………………」
理沙は暗い顔で、どんより頷いた。冗談のつもりだったけど、かえって気を重くしたみたいだ。失敗。
少しだけ、建設的な話をしようか。
「まず理沙のそれだけど、暴露する?」
「……え?」
「たぶん一番のハッピーな感じだと、理沙の子供を妊娠しました、理沙にはそれがありました。なんだそうだったのか未成年でエッチなことしてけしからんなぁ仕方ない仕方ない、ってのでしょ」
「それは……無理でしょ」
「だよね。一番現実的なのは、美濃部に協力してもらうことじゃないかな」
美濃部次郎、同級生のタラシワカメ。私に強く出られない男。
「美濃部と過ちをしてできちゃった、なら、私はめちゃめちゃ糾弾されるけど理沙にそういう被害は……」
「なんでいつもそうなの?」
理沙は怒ったような震え声を――いや目には涙が浮かんでいた。
「真帆はいつもいつも! 自分だけが責められるようなやり方ばっかりで……、私にも背負わせてよ! もう真帆だけが辛い目に遭ってるのは嫌だよ……」
そういうものなのかな。私は理沙に嫌な目に遭ってほしくないだけだけど。
高校生が同級生と子供作って退学とか、たかが知れてる話だよ。どこかにあって、珍しがられたり飽きられたり、私はそういうの慣れてる。
でも理沙は違う。私のそれと理沙のそれは、全然違う。
同じ誹りでも、理沙の方が傷つく。
「……まあ、でもいっか。うん、分かったよ」
つらくなったら、私が理沙を支えてあげよう。怒られ慣れてるなりに。
「じゃあ……言う?」
「……うん」
かくして私達は、更なるカミングアウトを試みることにした。
我が家で罵詈雑言の嵐を浴びた後、敷島家では私は待たされて、しっとりした理沙へのお説教を廊下から聞いていた。
やっぱり親というのは自分の子供には遠慮しないんだなぁ。私はお父さん帰ってきたらまたなんか言われるらしい。私ほぼ被害者なのに。あれほぼレイプだったと思うんだけど。恋人同士でも越えてはいけない一線を合意なしでされたんだけど。
それでも許すのは、はぁ、惚れた弱みというやつなんだろうね。
結局のところ、私はしばらく通った後、高校を辞めることにした。
すぐに辞めたらみんなと会えないし、その分理沙にもいらぬ気苦労を負わせそうだから、辞める旨は先生とか友達にも教えつつ、そういう質問とかを理沙が一心に受けないように。
「マジ?」
「マジ?」
と美守も望美の真似をしてそんなことを最初に言ってきたのを覚えている。私はどっこいこれがマジ、なんて同じようにふざけて言った。
めちゃくちゃ喜んでいたのは佐倉ちゃんで、もうその様子を表現することも憚られる。
たぶん、お腹が膨らんできたら理沙の次くらいに私のお腹に耳当てると思う。あの子はそういう子だ。
家に帰ったら、料理とか家事を母親に叩きこまれている。真希姉にも。
もう私が嫁入りすることは確定的らしくて、そりゃめちゃくちゃ怒られたけど、両親的には孫ができることは少し嬉しいらしい。
私はもう忌み子みたいな扱いされるのかと少し心配したくらいだけど、生まれてくる子供に罪はないと、そう言ってくれたのは少しだけ救いだった。
あと勉強しなくてもいいのは最高だね。受験も考えずに済むし、いわゆる花嫁修業で済むのは良かった。
その分、理沙は大変そうだけど。
「意外となんとかなるもんだねぇ」
「なんとか、なったのかな?」
理沙は少し不安そうに思案顔をこちらに向ける。思えば理沙はいつも心配事ばかりで、心が安らいだことがない気がする。
我が家でくらいは落ち着いてほしい。
「最悪の場合は理沙も私も実験生物として研究所送りじゃない?」
「いや、それはありえないでしょ」
ありえない……かなぁ。政府の闇を垣間見てしまう可能性もなくはない。
「他にもいきなり包丁で刺されるとか」
「誰に?」
「さぁ?」
はぁ、と溜息を吐かれた。でも理沙はそうなった方が落ち着きが出て良い。
「もっとさ……赤ちゃんを育てることになるんだから、金銭的な問題とか……」
「そこはお父さんがしっかり働いてくれなきゃ」
「私、お父さんじゃ……」
「じゃあ頼むよおっかさん」
「おっか……はー」
いつもこうして呆れて。
あぁ。
怒られ慣れてるのは、理沙に怒られるからか。
「うちは亭主関白になりそうだ」
「そう? 私、尻に敷かれそうだけど」
「敷いてあげようか?」
なんていうと、理沙はまじまじと私の下半身を見ているみたいだった。
「……あとで♡」
「うわ、バカだ」
「真帆には言われたくないよ」
笑いあいながら、少しお互いに落ち着いた。
お金は、敷島家からも鹿波家からもちょいちょい出る。
実家住みだと家賃や生活費は大丈夫だろうけど、お父さんが定年になったりしたら色々考えなきゃいけないね。今の時代女性も働くんだから、それまでに理沙が良い仕事できるかどうか。
私も子供を保育園に預けたり、とかすべきなんだろうか? まだ全然分からないけれど、しばらくはお母さんに手伝ってもらいながら育てることになる。
お腹の子供は、私と理沙の子供だから遺伝的に女の子で確定らしい。名前は真理、って一分もかからず考えた。理沙も同じ考えだったから、たぶんこれで大丈夫。
この子にも苦労させるだろう。
どうして親が二人とも女性なのか、とか。苛められたりしたらどうしよう。
私みたいにどこか気が抜けてたら大丈夫なんだろうけど、理沙みたいに思いつめてたら困るな。
でも、理沙と一緒に、精一杯幸せにしてあげるからね、真理。
幸せな家庭築いてほしい(渾身)