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出会い

「ソフィア様!」

「ソフィア様、お待ちください」

とある昼下がり、私はお城の回廊を走っていた。

目的地は城の東にあるイーストガーデン。私の唯一、一人になれる場所。

「ソフィア様、お待ちください!」

「やーよ!」

私はドレスの裾を持つと、イーストガーデンへ急ぐ。

追いかけてくるのは私付きのメイド、セリーナとマリーナ。

「国王様に言いつけますよ!」

「いいわよ!」

「またそんな事を言って、姫様は…」

あともうちょっと!

私は数メートル先の扉に手をかけると呪文を唱え、扉を開ける。

「ひ~め~さ~ま~!!」

セリーナがすごい形相でスピードを上げてきた。

「宮殿で走るのは、はしたないんじゃなかったっけ?」

「なっ」

怒りをあおるような私の言葉に顔を真っ赤にしているセリーナにウインクすると、私はするりとガーデンに入って扉を閉めた。

「ソフィア様!」

「姫様! 国王様に言いつけますからね!」

言いつければいいじゃない?

父であるパラディール国王が末っ子の私に甘い事は計算済みなんだから。

扉の外からドンドンと叩く音がしたけれど、しばらくしたらその音も聞こえなくなったわ。

「ふわ~っ」

私は満開の花畑に寝転がると空を仰いだ。

「ふ~、気持ちいい…」

イーストガーデンは一面にいろいろな花が咲き乱れている。

赤、黄色、白、ピンク…

この場所は、祝福の花束を生み出すことができる私しか入れない。

「ん…」

やばい、眠くなってきたわ。

花たちが寝てもいいよと言うようにそよそよと揺れている。

「疲れたし…ね…」

私はそのまま花の中で眠りについた。


ふっと違和感を感じて目が覚めると、時間がだいぶ過ぎていて日が傾いていた。

「ん…」

私はむくっとその場で起き上がる。

「えっ!?」

私に膝枕をするように、男が倒れていた。

「えええええっ?」

ここは、私しか入ることができない場所。

それは扉があるからとかではなく、この花畑の領域に入ろうとするとはじかれてしまうのだ。王である父以外は。

「誰?」

端正な顔立ちに黒髪。服は見たことがないもので、引き締まった体躯が見てとれるものだった。

「きれいな黒」

私は思わず黒髪に手を伸ばそうとする。

「…っ、誰だ?」

反射的に男は飛びのくと、私ののど元にナイフを突きつけた。

「あ」

後ろからぐっと顎をあげられ、金縛りにあったように動けなくなる。

(何、これ?)

意識が一瞬遠のくと私の中に何かが流れ込んできた。

(やばい…)

一瞬にしてガーデンの花が枯れる。

私の中のまるで血のような赤黒い何かが沈黙を破って飛び出してきた。


パタパタ…

独特の気怠さの中から目を覚ますと、マリーナが私を扇いでいた。

「ソフィア様?」

マリーナは扇ぐのをとめて、私を覗き込んでいる。

「マリーナ…?」

見慣れた天井、見慣れたベッド。

ここはまぎれもなく私の部屋。

「ソフィア様、痛い所などありませんか?」

マリーナが心配そうにしている。

「私…」

いつの間に寝ちゃってたのだろう。

ていうか、私、ガーデンに行ってたはずなのに。

そう、ガーデン!

私はのど元に手をあてる。

「…」

傷つけられた様子はない。

あの男はいったいどうなったのかしら。

「ねぇ、マリーナ。私、ガーデンにいたわよね?」

「そうですよ。日没が過ぎても出てこないので、国王にお願いして連れ出してきていただいたのです」

「私…寝てたの?」

「ガーデンで寝てらしたそうですよ。覚えてないんですか?」

父様がガーデンに入った? っていう事は…

がばっと起きると、頭に痛みが走る。

「いてて…」

「ソフィア様、横になった方が」

マリーナが私を横にしようと起きるのを止められる。

「父様の所へ行ってくる!」

私はマリーナを制して、部屋から外へ向かおうとした。

「ソフィア様、その恰好では!」

ネグリジェだったけれど、そんな事どうでもよかった。

父様にあの男の事を聞かないと。

心の中がざわざわする。

嫌な予感がよぎって、父様の部屋へと走り出した。


「父様!」

ノックもなしに、バンッと父様の部屋の扉を開ける。

「ソフィア」

父様がたしなめるような口調で私に視線を送ってくる。

「父様、ガーデンでっ」

父様は片手をあげて私を制止する。

「人払いを」

使用人たちが部屋から出て行ったのを確認して、私は口を開いた。

「父様、ガーデンで何か見なかった?」

「あれはロザリーに見させている」

「ロザリー姉様?」

ロザリー姉様は、私のすぐ上の姉で、パラディール国の第二王女だ。

「あれを見つけた時の事を覚えているか?」

あれっていうのは、きっと私が見つけた男の人の事だ。

「ガーデンで寝っ転がってて…いつの間にか寝てしまって、気づいたらそばにいたの。倒れていたわ」

「炎神の術が出てしまっていたようだが」

この国の王家の者は魔術が使える。私の場合、作られた花束が咲いている間は幸福が訪れる祝福の花という術だ。

私の祝福の花の事は国民にまで知られている事だけれど、炎神の花の事は伏せられている。

なぜなら、炎神の花は世界の全ての植物を一瞬にして枯らしてしまう。しかも私がコントロールする事はできない。どうやら命の危機を感じると勝手に出てしまうらしい。この術を下手に使えば、一国を滅ぼすのも容易だ。

「その男が私にナイフを突き出して…」

イーストガーデンにいたおかげで、ガーデンの中だけで済んだんだわ。あの瞬間をまざまざと思い出す。

赤い血のようで黒いものが私を支配する。ドクドクと溢れて何もわからなくなる。

「そうか」

父様は試案するように視線を巡らせると、机の引き出しを開けて一通の手紙を出した。

「これを読んでみろ」

大仰な封筒を受け取ると蝋印を見る。

「デュパルク王国…?」

隣国のデュパルク王国の印だ。

どうして? と思うと同時に嫌な予感がする。

「…どういう事?」

私は封筒を開け、手紙を開くと、読み進めていく。

「レイを速やかにこちらに返還せよ。さもなくば…貴国、第三王女ソフィア・パラディールの命はない…」

え…? 私?

「父様…」

「あれはロザリーによるとレイというらしい」

姉様は生きるもの全てと会話をする事ができる。

「どうして私を?」

どうして殺せというの?

「…お前が炎神の術の使い手だと知っているとしか思えない」

「そんな…」

炎神の花を知ってるのは、王族と一部の家臣だけだ。

「知られている以上、お前は命を狙われ続けるだろうな」

父様は渋い顔をして私を見る。

「更に。ロザリーによると、レイとやらは人間ではないという事だ」

「え?」

どういう事なの? 一気に色々な事が起こりすぎて頭がついていかないわ。

「とにかく、ソフィア、お前はこれからガーデンで生活をおくるように」

「ガーデンで?」

ガーデンには花しかない。しかも、その花たちも今は枯れているはずだ。

「あそこが一番安全だろう? それから護衛もつける」

「父様…」

「お前をあそこに閉じ込めたくはないよ。レイという者が何者なのか、それを見極めるまで我慢してくれ」

父様は苦悩で疲れたような顔をして私にそう言った。

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