壱話:雇われ悪魔
零話の前振りは関係ないと思っててください。
夕方、青っぽいカバンを肩に掛け、両手を学ランのポケットに突っ込んで、ゆっくりとした足取りで歩く男がいた。
彼の名は真咲騎士夜。中学2年、14歳、その他詳しい事は不明。
名前以外、特に目立つ所は無く、少し大人っぽいくらいだ。真咲はとにかく冷静。中学生にしては、あまり学校を楽しめて無さそうだが、本人もそう思っているらしい。
今、彼は下校している所だ。家はそれほど学校からは遠くなく、10分程度で着くくらいだ。
その途中、道の端で困った様にきょろきょろとしている女性がいた。
「どうかしたのですか?」
と真咲は問いかけた。真咲はいつも親切であるが、本人に自覚は無いそうだ。
「すいません、あの、病院の場所が分からなくて・・・」
と言いながら女性は真咲を見た。その女性の瞳はエメラルドグリーンに輝いていた。
「病院なら向こうのコンビニの所の交差点を真っ直ぐ行くとすぐ着きます。」
真咲は親切に答えた。この様な女性への紳士な態度で、学校ではよくモテるらしい。
「向こうの方ね、助かったわ。ありがとうね。」
と言いながら女性は手を真咲の前にすっと出した。こういう握手はモテる真咲ならよくする様なことで、普通に軽く握手をした。
「じゃあ、お気をつけて。」
と親切に言った後、また真咲はポケットに手を入れ、家に帰っていった。
家に着くと真咲はポケットから鍵を出し、早い動作でドアを開けた。
「ただいまー」
大きくも小さくもない声で言うと、
「おかえりー」
と返事が返ってきた。真咲が学校から帰ってくる時には、家には母だけが居る。父は仕事があり、夜遅くに帰ってくるのだ。
カバンを肩に掛けたままトントントンと音を立て、階段を上り、二階へ行く。真咲の家は二階建てで、真咲は自分の部屋を持っている。
カバンを机の横に置いた後、部屋の端の方にあるベッドにトスンと座り、溜め息をついた。
部屋の窓から風が少し入ってきた。 それと同時に、窓から小さなコウモリの様な大きさの、緑の目をしていて、羽根のはえた、まさに小さな悪魔がひゅうっと入ってきた。
「真咲・騎士夜だな?」
一言だけ言って、その小さな悪魔は真咲をジロっと見た。真咲は驚く事も無く普通に答えた。
「ああ、その通りだ。とりあえずこちらも君の名前を聞いておこう。」
「ジロ。おれはジロだ。悪魔界から下界に来た。誰か雇う人間を探していたんだが、お前に決めた。もう契約もしちまったからな。」
「契約?そんなものした覚えは無いけどね。」
真咲の言う通りだった。もしそんな契約があった所でOKする訳も無い。
「さっき、握手をしたよな。アレで契約は成立していた訳だ。」
「へぇ。ということは、俺はジロに雇われることになったってことか。」
「その通り。思った通り、飲み込みの早い奴だ。詳しい話はこれからする。とりあえずヨロシクだ。」
「ああ。よろしく。」 続く
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