悲しき小鬼(another story / 桃太郎)
「ボクの父ちゃんが、母ちゃんが、お前に何をした! みんなを返せ!」
小鬼は泣き叫ぶ。
しかし、男は何も答えない。
今にも襲い掛かりそうな執念を燃やした目で男を睨み付ける。
男は冷徹な目で小鬼を一瞥し、刃に付着した赤い液体を拭って刀を鞘に納める。
横たわる巨体の脇を行く。
赤色の水溜まりを踏んだ音が反響する。
それに反応し、コウモリが騒ぎ出す。
平和だったこの島を、この家族をたった一人の男と獣3匹に奪われた。
──誕生日おめでとう。
そう、今日はこの小鬼の誕生日だった。
嬉しそうに笑う小鬼とその家族。
一家団らんで和気あいあいとしていたのに...。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……」
あの無邪気に笑っていた小鬼はもういない。
怨念の塊が具現化したようだった。
目も闇のようなドス黒さである。
膝に手を着き、立ち上がる。
眼球が飛び出しそうな目で男を見据える。
震える足を無理矢理踏み込む。
立っているのがやっとのはずだが、もう、関係ない。
小鬼の闇だけが原動力となっている。
だが、振り上げた拳も簡単に避けられ、そのまま地面に崩れ落ちる。
男は洞窟の奥へと進む。
「──ッ‼」
小鬼は言葉にならない悔しさと憎しみを噛み締めるだけであった。
洞窟の奥では家族での誕生日パーティーの残骸と幾らかの食糧と金品がある。
そして、その全てを奪った。
何もかも、全部。
男たちは暗い海の彼方へと消えていった。
──哀しみと憎しみを残して。