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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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再会の奇跡

 崩れ落ちたゴードンに2人が堪らず駆け寄る。

もうゴードンから邪気は感じないから大丈夫だろう。

と言うより、もう数分と持たず彼は死ぬ。


「こいつが無ければ、また違ったのかもな……」


 拾い上げた金属片を解析してみる。

すると半ば予想通り、戦闘中に見えた光景通りの結果が見えた。

『爛れた牙』シリーズ。

ギフトに侵され狂気に呑まれた転生者の遺産。

転生者自身は死んでも、この武器に込められた邪気は消えなかったのか。


「いや、むしろアンテナみたいなものなのか?」


 ゴードンに供給された邪気の強さからすると、武器の邪気は弱すぎる。

武器自体が邪気を放つというより、武器を受信アンテナとして邪神の力を呼び込んでいると見た方が正しそうだ。

つまりは一種の神具というわけだ。

はた迷惑な神具だな、まったく。


 散らばっていた『爛れた牙』の残骸も全て破壊する。

こりゃ、本格的に探して壊した方がよさそうだ。

当てが欲しい所だが、あの2人なら心当たりがあるかもな。

となると対価をやりたいところだが


「うーん、何か手はあるかな……」


 まず前提としてゴードンは助けられない。

シゼムの場合は肉体のダメージは無かったから命は助かった。

だがゴードンは肉体も精神も限界だ。

もはや回復魔法で如何こう出来るレベルじゃない。


 ならば変化球ではどうか?

これも難しい。

ニクスの場合はあの場に膨大な魔力があった。

それを地脈に還元する余波で疑似転生の奇跡を行使したわけだ。

だが、ここにはそんな魔力は無い。

ちなみに俺自身の魔力は、他者には馴染まないから使えない。


「う~ん、転生、転生……ん?」


 ポンと頭にアイディアが。

しかし、少々下世話なアイディアだ。

成功する可能性は高いが、失敗する可能性もある。

そして、失敗するという事は……。

むう、事情を話すか? 

いや、厳しい条件の方が達成した時の成功率が高い。

ここはアイツらの絆を信じよう。


--------------------


 悪夢にうなされていた様な感覚。

ゆっくり浮上する意識。

自分は今まで何をしていたのだろう?

良く思い出せない。


 誰かの声が聞こえる。

聞き覚えのある声だ。

ああ、そうだ。

忘れるはずがない。

自分は彼らのために命を懸けたのだから。

意識がはっきりし、目を開ける。


「無事だったか。スイフ、アミン……」


「ゴードンさん!」


「気が付いたのね!」


 泣きはらした2人の顔。

心配をかけてしまったようだ。

同時に気付く。

自分はもう長く持たない。


「なあ、何があったんだ?」


 これだけは聞いておきたかった。

聞くべきではないというのは、サッと青ざめた2人の顔を見れば理解できる。

だが、自分の罪は受け入れたかった。


「アンタは爛れた牙の呪いを受けて錯乱してたんだよ」


「君は?」


 見慣れない黒髪の青年。

いや、おぼろげに思い出す。

彼こそが先程まで刃を交えていた相手だ。


「この2人の助っ人だ。言葉も通じず、こいつらの事も分からなかったみたいだからな」


「そうか……」


 どうやら自分は守るべき仲間にまで刃を向けてしまったらしい。

心境としては知りたくは無かったが聞いて良かった、と言ったところだ。

それを止めてくれたのなら感謝の言葉しかない。


「スイフ、アミン、すまなかった……」


「そんな!」


「謝る必要なんて!」


「その通りだな」


 青年に目を向けると、彼は真剣な目をしていた。

気休めでも何でもなく本心からそう思っているのだろう。


「アンタが体を張らなければこの2人は死んでいた。そして、他の冒険者は容赦なく殺されたが、この2人は軽傷だった。アンタは狂っていても2人を守ろうとしていた。誇ってもいいと俺は思う」


「……そう、か」


 深く安堵した。

俺の2度目の人生は、またも短いものだった。

でも、前世よりはるかに濃密で生の実感を得る事が出来た。

そして、意味のある死を迎える事が出来る。

それはとても素晴らしい事のように思えた。


 ゆっくりと目を閉じる。

もう時間の様だ。

自分が消えていく瞬間、胸に何かが突き立ったような気がした。


---------------


「フィオさん!?」


「何を!?」


 死に逝くゴードンの胸に神槍を突き刺す。

2人は突然の行動に困惑の声を上げる。

さて、うまく誤魔化さないとな。


「ゴードンの魂は弱りすぎている。助けたかったらこの槍を握って魔力を注げ」


「え?」


「どういうことですか?」


「ゴードンの魂はギフトに浸食されて脆くなっている。このままだと転生できずに魂が消滅するかもしれない」


「嘘!」


「そんな!」


 すまん、嘘だ。

時間はかかるし、人に転生できるかは解らんが消える事は無い。


「だから、お前たちの魔力を注いで魂を補強してやるんだ。生前に絆の深かったお前たちにしかできない」


「そ、そういう事なら……」


「解りました! やります!」


 ゴードンのために必死に魔力を注ぐ2人。

さて、やる事はやらないとな。

神槍を通じゴードンの魂に注がれる2人の魔力。

それはゴードンの魂を包み込む。

ここまでは説明通り。


 秘密なのはここからだ。

2人の魔力とゴードンの魂が連結した。

ここでゴードンの魂を、いくつものパーツに分けるイメージで分解する。

そしてそのパーツを変質しない様に保護する。


「ぐっ!?」


「?」


「どうしました?」


「いや、何でもない。集中していてくれ」


 くそ、とんでもない負荷だ。

割れるような頭痛なんて、こっちの世界に来てから初めてだよ。

本職かみさまなら片手間なんだろうが、さすがに自分でやるのは早かったかな……。

かと言って途中で止めるワケにはいかん。


 分割したパーツを、魔力の流れに逆流させる形で2人の魂に送り込む。

そして『ある領域』で休眠させる。

良し完了だ。


「もういいぞ。良くやったな」


「終わり、ですか……」


「これでゴードンさんは……」


「ああ、無事転生できるだろう。何時になるかはお前たち次第だけどな」


「? どういうことです?」


「私たち次第?」


「あ~、気にするな。それより戻るぞ。ゴードンの遺体は俺が運ぼう」


 ギルドでの説明は事前に打ち合わせしてある。

3人は『爛れた牙』を揃えた盗賊団に襲撃された。

盗賊団は倒したがゴードンは呪いを受け錯乱してしまった。

2人は何とか助けようとしたが無理だった。

苦渋の判断で凄腕の魔人の協力を得てゴードンを倒した。

こんなところだ。

少なくとも嘘ではない。


「これなら『爛れた牙』の調査をしても不自然じゃないしな」


 モノがモノだけに表立って探すと警戒されてしまうのだ。

集めて悪用するつもりじゃないか? と。

まあ、本格的な調査は町に戻ってからだな。

2人も何か知ってるかもしれないし。








 ↓ネタバレ







 さて、俺が2人に仕込んだ奇跡の欠片。

予想できた方は多いだろう。

そう、俺はゴードンをあの2人の子供として転生させたのだ。

上手くいけばだが、人格も一部引き継がれる可能性もある。


 もちろん、あの2人が結婚しない可能性もある。

その場合は因子は半分しか受け継がれない。

代わりに2人生まれるわけだが。

そして、子供が生まれない可能性もある。

その場合、2人の魂に吸収されるようにしてある。


 2人に教えても良かったのだが、強制するのも野暮だろう。

俺は愛の女神の眷属ではないからな。

生命の誕生はともかく、そこに至る過程についてはノータッチだ。


 まあ、あの2人なら大丈夫だろう。

妖精種は寿命が長いからか、淡白で出生率も低い傾向がある。

これは肉体的な要因ではなく、本能的精神的な要因が大きい。

その点、あの2人は転生者。

中身は性に貪欲な人間様だ。

押せばくっつく様な間柄のようだし、心配はいらんだろう。


 ……無責任とか言うなよ?

ちょっと苦手なんだよ……。

愛のキューピッドとかガラじゃないしな。


こういう結末になりました。


メジャーじゃなくても、わりとあるパターンのはず。

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