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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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狂鬼

「これは、無理っぽいな……」


 禍々しい邪気、狂気に染まった眼、暴走状態のニクスと同レベルだ。

ここまで浸食が進むと、もう俺の力では手に負えない。

ギフトと魂の融合が進み過ぎていて、分離した時に魂に大きなダメージが入ってしまうのだ。

ただでさえ消耗している魂はそのダメージに耐えきれない。

結果、ニクスの様に肉体が崩壊するか、シゼムの様に精神が崩壊してしまう。


「そう、ですか……」


「うう……」


 悲しそうにされてもな……。

悪いが無理なものは無理だ。

ここで止めて、これ以上罪を重ねないようにしてやるのが俺にできる最善だ。

ダミー装備を本来の装備に戻す。

ここから先は冒険者ディノではなく悪魔フィオの仕事だ。


「アンタもそんな醜態晒し続けたくないだろ? ここで終わらせてやるよ」


「ゴアアアアア!!」


 俺の戦意に応える様にゴードンも咆哮を上げる。

地を蹴ったのは同時。

振り下ろされる斧と突き出される槍が交錯する。


ボッ!


「グブッ!?」


 浄化の神力に輝く神槍がゴードンの心臓を貫いた。

血を吐いてよろめくゴードン。

これまでの経験上だが肉体に関わるギフトは心臓に、精神に関わるギフトは頭部に宿っている。

話を聞く限りゴードンのギフトは3つとも肉体系。

これで勝負はついたはず。

だが


「何?」


「グウゥゥ……」


 胸部に開いた穴が見る見る塞がっていく。

どうなってんだ? 

心臓をぶち抜かれても生きてるって時点で大概だが、ギフトの核は心臓じゃないのか?

それともまたギフトの邪気が勝手に動いてるのか?


 その後も何発か核と思わしき場所を貫いてみるが、ゴードンは止まらない。

損傷はまるでスライムの様に肉が動き修復してしまうのだ。

頭をふっ飛ばしても同様だ。

以前アミンも言ってたしな。


 脳細胞ネットワークとかも元に戻ってるんだろうか。

昔見た番組でクローン医療の特集をやっていた。

現状では、他の部位はともかく脳だけは治療できないらしい。

何故なら脳細胞を修復しても、ネットワークが治らなければ記憶も感情も戻らないからだ。

そして脳の構造は極めて複雑だ。

劣化コピーのバイオコンピューターでさえ仮想世界を構築できるんだからな。


「っと、そんな事はどうでも良いんだ」


「オオオオオオォ!」


 さすがに妙だな。

核を外しているとしても効かなすぎる。

効かないはずは無いんだが、邪気が一向に減らない。

まるで、どこかから供給されているように……


「ん? 供給?」


 邪気の発生源は、転生者の霊体に仕込まれた邪神の神力結晶ギフトだ。

ギフトが魂を消費して異能を発現し、消費した分は邪神の神力で補充される。

この浸食が進むと転生者は自我を失い暴走し、最終的には邪神の人形と化す。

では、邪気を外部から供給するにはどうすればいい?


「外部バッテリー、受信アンテナ、コンセントコード、そんなところか」


 ふと、地面に目をやる。

飛び散った肉片と血の中に何か別の物が混じっている。

一旦距離を取り、ついでにその何かを拾い上げる。

見た目はただの金属片だ。

何故ゴードンの体内からこんなものが?


 しかもこの金属片、まるで歪みの塊だ。

これ、武器の欠片か?

え~、どういう事?

ゴードンはこの武器で刺されて、折れた刀身が体内に残ったってことか?


 欠片に宿る怨念に少しだけ干渉してみる。

すると


血臭と腐臭に満ちた工房


様々な工具と拷問器具


泣き叫ぶ犠牲者達と哄笑を上げる男


溶鉱炉に突き落とされる者


油代わりに使う血を絞られる者


焼けた刀身で串刺しにされる者


怒り


憎しみ


悲哀


絶望






「成程、そういう事か……」


 噂をすればなんとやら。

これが話に聞いた、狂った転生者の作った呪いの武器か。

こんなに早くお目にかかるとは……。


 この武器は予想より危険な代物だ。

何故なら籠められているのは怨念や呪いだけではない。

製作者のギフトの欠片、つまり邪神の神力が籠められているのだ。

こんな物使えば正気を失って当たり前だ。

面倒な物をばら撒きやがって……。


 と、すでに死んだ奴に文句言ってもしょうがない。

問題はゴードンだ。

アイツの体内には、ギフトの欠片と言える武器が食い込んでいる。

これらがゴードン自身のギフトと互いを補い合っている。

こういうことか。


「グ、ゥ……」


「お?」


 向かってこないと思ったらゴードンは俺を見ていない。

一定距離より離れるとターゲットから外れるのか?

いや、違う。

ゴードンが見ているのは


「「……」」


 辛そうな目で戦いを見守る2人だ。

あっちを狙う気か?

いや


「ウ、ぐ、マモ、る……」


 これはどういう事だ?

完全に正気を失ってるわけじゃないのか?

暴走した時の状況は確か……。


「ああ、そういう事か」


「オれが、マモる……」


「お前はまだ、2人のために盗賊と戦い続けているんだな」


 助ける事は出来ないだろう。

だが、完全に狂っていないなら少しは救う事が出来るかもしれない。

自己満足かもしれないがな。


 体内の欠片全てを破壊し、同時にゴードン自身のギフトも浄化する。

強力な魔法を使って跡形も無く吹き飛ばすって手もあるが、現状では魔法で浄化はできない。

ギフトが残された時どうなるか解らない以上、迂闊な事は出来ない。

それ以前にダンジョンが崩壊する危険もあるしな。


「ゴードン!」


「グぅ!?」


 今度こそ終わりにしてやろう。


-----------------------


 強い、恐ろしい程に強い。

こちらの攻撃は全く当たらず、敵の攻撃はこちらの肉体を削り取る。

だが、引けない。

自分が引けば2人は……。


 2人? 誰の事だ?

いや、そんな事はどうでも良い。

この程度で自分は死なない。

粘り続ければ、いずれ相手が力尽きる。

自分がどれだけ切り刻まれようとも。


 体内に埋め込まれた異物は何故か体に馴染み、力を与えてくれる。

この力があれば負けない。

盗賊などに不覚は取らない。

そう、盗賊などに……。


 入口の近くに佇む2人の盗賊。

盗賊? どこかで見覚えが……。

そう、何度も何度もやって来て自分に挑んできた2人。

挑んできた? その前に何かを話していたような。

いや、そもそも向こうから攻撃を仕掛けてきただろうか?

解らない、ワカラナイ。


「ゴードン!」


 突然の声。

一瞬で目の前に立つ黒衣の男。

突き出される槍。


 輝く槍に貫かれるたびにゴッソリと力が失われていく。

先程までは体内の異物から即座に供給されていた力。

しかし、流星のように繰り出される槍は体内の異物を次々と打ち砕いていく。

全身を凄まじい脱力感が襲う。

だが、反比例するように茫洋としていた意識がハッキリしていく。


「俺は……」


 自分が何者なのか思い出した。

自分が何をしていたのか理解した。

ゴードンの眼に理性の光が宿った瞬間、輝く槍が彼の心臓を貫いた。


--------------------------


 世界の狭間、どことも知れぬ虚空。

そこに泡のように浮かんだ一つの世界。

神が自身のために作り出す小さな世界、即ち神域。


 それは神域というにはあまりに小さく、存在感が無かった。

当然だろう。

それは正しく隠れ家なのだから。

裁きの神の眼さえ欺く隠蔽の神域。

そこで傷ついた邪神は息を潜めていた。


 先日のフィオとニクスの一戦。

堪えきれずに直接干渉をしてしまった結果、黒き神にその存在を察知されてしまったのだ。

即座に移動したのだが、黒き神の力を甘く見ていたらしい。

黒き神は残された神力の残滓を辿り、超遠距離攻撃を仕掛けてきたのだ。


 もちろん直撃はしなかったが、余波だけで危うく消滅させられるところだった。

所詮自分は創造神という上位者によって創られた量産品。

世界と共に誕生した真正の神とは存在の格が違う。


 悠久の時を生き、数多の世界で力を蓄え、中級神に迫ろうかという自分。

対して相手は自分の100分の1も生きていない。

だが、奴にとって自分は目障りな害虫程度の存在で『敵』とすら思っていないだろう。

それでいい。


 油断させ、甘く見させて、その隙に策を用いるのが自分のやり方。

別にあの蛇とやり合う必要などないのだ。

そう、今回は自分のミスだ。

欲望に抗えず軽率な行動に出てしまった。


 3分の1ほども力を失う大ダメージを受けてしまった。

だが、自分は生きている。

高い授業料だったと思えばいい。

もう同じ失敗はしない。


 黒蛇の牙を辛うじてかわした邪神。

だが、今後も自分は欲望を抑えきれるのか?

それは邪神自身にも解らなかった。



久々に邪神登場。

ボロボロでしたけど。


ゴードンは予定では……。

助けて欲しいって声もあるんですけどね……。

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