生の実感
来週は事情により更新は休ませていただきます。
外、雪がスゲエ。
明日の朝が怖い……。
生きる事と生かされる事はどう違うのか?
今は『戦鬼のゴードン』と名乗る男は、かつてそんな疑問を抱いていた。
いくら考えても答えは出ない。
ならばと彼は行動に出た。
そして、その果てに『生の実感』を得る事が出来たのは『命を奪った時』だった。
なぜか?という疑問に意味は無かった。
重要なのは彼が『生の実感』をもっと感じたいと思ってしまった事だ。
その結果、彼には自らの死という相応しい結末が待っていた。
だが、彼の人生はそこで終わらなかった。
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「ここがそのダンジョンか」
「はい。深さは30階、フロアーの規模は中程度、難易度で言えば下の上か中の下ですね」
「ここの28階に隠し部屋があって、そこにゴードンさんがいるんですよ」
とあるダンジョンの前に3人の冒険者がいた。
一人は弓を持ったエルフ『曲射のアミン』。
もう一人は軽装のグラスワーカー『軽業のスイフ』。
共にBランクの腕利き冒険者である。
ギルドの施設で暴れた2人は、本来なら重いペナルティを課せられるはずであった。
しかし、罰金を払い、関係者に謝罪し、また被害者からもとりなしがあった事で執行猶予がついたのだ。
これまでの素行に問題が無く、メンバーの行方不明による精神的ショックが原因の突発的な暴発とされ、再犯の可能性も少ないと判断された。
そしてギルドでは被害者である新人の実力が知れ渡る事になった。
混乱状態だったとはいえ、Bランク2人を単独で撃退したのだ。
その後の吊るして燻すというお仕置きから、彼はドSという噂も立ったのは余談である。
そして、加害者2人は被害者の実力を知り、メンバー捜索への協力を依頼した。
と、いう事になっている。
「ふ~む、ダンジョンは初体験だな」
3人のうち最後の1人はもちろん黒髪紫眼の魔人ディノ、ことフィオである。
人の目があるので装備は『ディノ』の物に戻してある。
内容はワイバーン皮のコートにアースリザード皮のブーツ、ミスリルと亜竜の骨と角製の槍、亜竜の牙の短剣。
普通一般の冒険者なら目を疑うような装備だった。
「まあ、ダンジョンは西大陸以外じゃ珍しいって話だし。この武器に笑われない程度には活躍しますよ!」
ダンジョン探索におけるキーマンとなるのは盗賊職だ。
スイフにとっては腕の見せ所である。
彼が手にしているのは一対の短剣だった。
緑色に輝く刀身は明らかに魔力を帯びている。
これはフィオが譲り渡した物だ。
RWOにおけるモンスタードロップで、材質はミスリルと鳥系モンスターの素材。
武器としての性能は中の上といったところだろう。
フィオの持つ短剣『魔剣サマエル』とは比較にならない弱さだが、この世界では一級品と呼べる性能を持っている。
「武器まで用意してもらって、ホントすいません……」
一度キレたおかげか、別人のように大人しくなってしまったアミン。
彼女の手にも新しい弓が握られていた。
こちらは魔法を補助する能力のあるモンスタードロップの弓だった。
RWOの中ボス未満の強ザコがドロップする武器だが、比較的手に入りやすいのにそこそこ高性能なのでフェアリーやエルフなどに人気の武器であった。
「まあ、死なせるのも寝覚めが悪いしな。だが、お仲間は状態次第だぞ?」
「……解ってます」
「手遅れの時は、せめて見届けます」
「覚悟が出来てるならいいさ。それじゃ、行こうか」
3人は武器を手にダンジョンへと消えていった。
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彼に与えられた2度目の生。
それは彼にとっては素晴らしい世界だった。
殺しても罰せられないどころか感謝される生物が存在したのだから。
そう、モンスターという生贄が。
鬼人族は戦闘種族であり戦う事が生きがいだ。
そんな種族に生まれた彼はゴードンと名付けられた。
鬼人族である以上、強くあることは義務だった。
ゴードンも強くなるために努力する事に文句は無かった。
ただ、彼と他の鬼人たちとは決定的に異なる点があった。
鬼人族は戦う事が生きがい。
だが、ゴードンは殺す事が生きがいだったのだ。
それは似て非なるモノ。
戦士と殺人鬼はイコールではないのだ。
しかし、問題があるかと言えば特になかった。
別にゴードンは毎日殺しをするほど飢えていなかったし、魔物に飽きたから人をなど考えもしなかった。
ただ、死にたくは無かった。
鬼人にとって戦いの果てに敗れて死ぬのは誉であり運命だ。
しかし、ゴードンにとって戦いとは勝利して殺すための手段である。
負けて死んだらそれで終わり、冗談ではない。
成長したゴードンは北大陸を出る事にした。
変化の少ない村での生活に飽きたのだ。
ネットワークでは転生者達が自分の境遇を話し合っていた。
興味を引いたのは西大陸での冒険譚。
ゴードンは冒険者となり、冒険者の本場である西大陸に向かった。
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〈プゲェェ……〉
〈ピギャアアアアアア!〉
青白い冷気がダンジョンの通路を駆け抜ける。
残されたのは氷像と化したモンスター達。
その氷像もカシャリと音を立てて崩れ落ちる。
「次はどっちだ?」
「え~っと、右です……」
「私達、出番無い……」
装備の質に関係無く、このダンジョンのモンスターなどフィオの敵ではない。
他の冒険者もいるので使い魔こそ呼んではいないが、それだけだ。
この魔法見られてもやばいんじゃないか? と思うところだが、見られる暇も無く戦闘が終わっている。
トラップにしても初めはスイフが解除していた。
しかし、このダンジョンのトラップでは自分を止められないと判断したフィオは、まったく気にせず進みだした。
「漢解除とか初めて見たな……」
「当たった矢が折れるって何の冗談よ……」
もはやアミンとスイフはついて行くだけである。
ちゃっかりと素材は回収しているが、それについてフィオは何も言わない。
何しろ2人は、手持ちの金を全て罰金として支払ってしまったのだ。
少しでも稼いでおかないと色々支障をきたす。
「そういえば、ゴードンはどんな戦闘スタイルだったんだ?」
「え? ゴードンさんですか? 攻撃と防御特化の前衛ビルドでしたね」
「どっちかというと防御よりかしらね。私達と相性の良いスタイルだったわ」
「まあ、妥当な線だろうな。鬼人族の特性を活かしたスタイルだし」
3人は着実に進んでいく。
そのスピードは異常なものだった。
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西大陸でゴードンは同胞に出会った。
鬼人族という意味ではない。
同じ境遇という意味だ。
そう初めて出会った転生者である。
3人は戦闘スタイルの相性も良く、意気投合しパーティとなった。
これまでギフトという力に無関心だったゴードン。
しかし、ギフトを使いこなす2人に影響され、自分も能力を発現させようと思った。
2人は性能とリスクの関係など、彼らなりの考察を教えてくれた。
ゴードンとて成人男性だ。
ゲームの知識もそれなりに有った。
ゲームでよくあるスキルを参考にする事にした。
ゴードンの選んだ能力は、ひたすらに自己の生存を優先したモノだった。
当然だろう。
戦うのは殺すため、殺すのは生の実感を得るためだ。
自分が死んでしまえば生の実感も何もない。
自分が生き残る事こそが最優先だった。
鬼人族は耐久力と回復力に優れた種族だ。
新たに回復系ギフトを得るよりも、元々の能力を強化する事にする。
【スキル効果上昇】のギフトによって強化された鬼人族の腕力、耐久力、再生力は彼を容易に2つ名持ちへと引き上げた。
さらに、相手に与えたダメージ分の生命力を回復させる【吸収攻撃】を発現させた。
これによって、ゴードンは不死身と言われるほどの驚異的なタフネスを発揮する。
ギルドランクはBまで上がり一流の仲間入りを果たした。
この頃になるとゴードンは自分の心の変化に気が付いた。
殺さなくても毎日が充実しているのだ。
彼は生の実感について考える事すらしなくなっていたのだ。
彼の元々の世界は人命を尊重するあまり、過保護になり過ぎていた。
また成熟しすぎた社会は、人と人が直接顔を合わせなくても支障が無いシステムになっていた。
大半の事が自動化され、望むなら何もしなくても生きていけた。
それは理想郷でもあり、地獄でもあった。
生きる意志を失い自殺する者は増えた。
人は満たされすぎても生きていけないのだと人類はようやく気付いた。
皮肉な事に文明レベルが低く、命の軽い世界でようやくゴードンは心に巣食った虚無を克服できたのだ。
しかし、それでハッピーエンドにはならなかった。
ゴードンが保険として発現させていた最後のギフト。
ゲームではよくあるが、現実ではありえない能力。
それは【自動復活】だった。
ゲームを参考にするという発想は有効なものだった。
おかげで3人は低リスクで有能な能力を得る事が出来た。
しかし、ゲームはゲーム、現実は現実なのだ。
そして、その日
一度も使われる事無く、しかし確かに存在していた能力は
発動した
今回はゴードンサイドの回想とフィオたちを交互にしてみました。
いつもならゴードンはゴードン、フィオ達はフィオ達でまとめてるところなんですけど。
段々両者が近づいてる感じを出したかったんですが、どっちのほうが見やすいでですかね。




