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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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幕間④ 獣人大陸の新たな問題

「終わったか?」


「粗方は。以前より数が増えてますねぇ」


「そうか。監視を増員するか別の解決法を考えないとだな」


「ええ。捕虜は3人です。『首都』に送りますね」


「ああ。どうせ知らぬ存ぜぬだろうがな……」


 そこは南大陸北部の海岸だった。

話し合う2人の獣人。

1人はジンガ、獅子族の長で猫獣人のまとめ役。

1人はメネ、兎獣人の族長で偵察や調査の名手である。


 彼らの率いる警備隊に撃退されたのも、モンスターではなく獣人だった。

ただし、魚の特徴を持つ魚人族を中心とした水生系獣人達である。

内乱が収束した南大陸だったが、全ての火種が消えうせたわけではない。

今、そのうちの一つが彼らを悩ませていた。


「ともかく我々に出来る事は、こうやって撃退する事だけだ。手を出すにはリスクが大きいと思わせるためにもな」


「そうですね、アルゲンさんやアロザ君も頭が痛いでしょうねぇ……」


 彼らの見つめる先にあるモノ。

それは獣人達が初めて試みる魚の養殖場。

オスから精子をメスから卵を採取し、それを混ぜ合わせて孵化させた稚魚の生簀だった。

だが、それは賊の狙いではない。

奴らの狙いは


「とにかく警備を厳重にしよう」


「ええ、この貝を盗まれるわけにはいきません」


 見事なサイズの真珠貝だった。


----------------------


「……と、いう訳で、魚人族は捕虜と一切のかかわりは無い。彼らはただの盗賊だ、自分達は無関係だ、と……」


「ああ、もういいよ。いつも通りの反応ってわけだな」


「まあ、そういう事です」


 銀狼族の長アルゲンと竜人族の若き族長アロザは揃ってため息をつく。

警備隊が捕えた3人の賊。

彼らが調査と食料強奪のために送り込まれた兵である事は明らかだ。

だが、彼らを送り込んできた魚人族はそれを認めない。


 それどころか、こちらが食料を独占しているから飢えた民が盗賊になるのだ、と言い放つ。

内乱当時は海岸を占拠し、海の食料を独占していた魚人族。

どの口でほざくか、と怒鳴りつけてやりたいところだ。



 ここは獣人族の『首都』。

内乱決戦の地の傍に建造されている大居住地である。

内乱によって人口が激減した獣人。

もはや単一で生活を維持できる種族は少なく、その解決策を模索した結果であった。


 幸いと言うべきか魔人の浄化の余波で、荒れ果てた大地は再生していた。

労働人口さえ確保できれば、大規模な都市へと発展させることも不可能ではない。

時間はかかるかもしれない、だが必ず。

種族の危機を迎え、獣人達は今一つになった。


 砦や陣の後をベースに居住地を建設。

避難していた獣人達も呼び寄せられた。

もちろん感情的な対立も起きたが、それが大きくなることも無く沈静化していく。


 いかに肥沃な大地と言えども、すぐに食料が採れる訳ではない。

食糧問題は骨と皮だけになって死んだ竜達のその骨と皮を売り、代わりに食料を買ってくることで何とか切り抜けた。

魔人の用意した船はここでも大いに役立った。


 ある程度情勢が落ち着くと、今度は中央大陸へ修行希望者を送ることになった。

彼らは中央大陸から文化や技術を持ち帰り、復興に役立てていくことになる。

そんな時、魚の養殖を学んでいた者達が、中央大陸の商人に持ち掛けられたのが真珠の養殖だった。


 中央大陸東部で行われている真珠生産だが、実は順調とはいえないらしい。

原因は海水温の低さだと言われているが、貝の発育があまり良くないのだ。

かと言って、東部沿岸以外は地理的な条件から養殖は難しい。

ならば気温の高い南大陸ならばどうだろう? と商人は考えたのだ。


 両者は合意し、商人の協力を経て一部のメンバーは真珠養殖を学ぶことになる。

魚の養殖と並行して真珠の生産を行えば、新たな収入源となる。

南大陸北部沿岸で試験的に養殖が行われ、魚や貝の発育に問題が無い事が確認される。

関係者が『さあ、これからだ!』と意気込んだところでそれが起きた。

魚と貝の窃盗事件である。


 犯人は水生系獣人達だった。

先の内乱では海を独占し、戦いそのものには関わらずにいた彼ら。

しかし、今度は彼らが食糧難に苦しんでいたのだ。


 原因は人口の増加だった。

内乱で人口が減った陸上獣人達は、結果的に食い扶持が減ったために食糧難が収まった。

しかし、水生獣人たちは人口が増え続け、東西南の海を占拠しているにもかかわらず食料難に陥ってしまったのだ。

より遠方に海に狩りに行こうとする者もいた。

しかし、大陸から離れるほどモンスターは増え、逆に餌にされてしまう事になる。


 そんな時、彼らは陸上獣人達が北部沿岸で食糧生産をしていることを知った。

彼らにしてみれば海は自分達の領域。

ならば生産された食料は自分達の物。

そんな身勝手な論理で彼らは養殖場を襲撃した。

あるいは道理を通すだけの余裕を失っていたのかもしれない。


 内乱当時、陸上獣人達に手を差し伸べていれば、また違ったのかもしれない。

しかし、自分達が拒絶したのだから相手も、という論理で彼らはいきなり実力行使に出た。

結果、かなりの量の食料を得る事が出来た。

調子に乗った水生獣人達は、更なる大人数で養殖場を襲った。

そして反撃を受け壊滅した。


 陸上獣人達は怒り狂っていた。

かつての仕打ちに今回の暴挙、慈悲も手加減も与えるつもりは無かった。

内乱で名をはせた強者たちが、揃って水生獣人達の襲撃を待ち構えていたのだ。

水中での戦いで水生獣人が負けるはずがない、普通に戦えばそうだろう。

だが、戦いは戦いではなく狩の様だった。


 水中に柵や網を設置して動きを封じる。

痺れ薬を仕込んだ銛で突く。

魚や水生モンスターを狩る様に水生獣人達は狩られていった。

海は真っ赤に染まり水生獣人達は無残な死体を晒す事になった。


 互いが互いを非難した。

妥協などできるはずも無い。

陸上獣人達にしてみれば、かつての仕打ち、海を独占しようとする態度、全てが許し難い。

水生獣人にしてみれば形振りなど構っていられない。

歩み寄りの余地はなかった。


 もし、水生獣人達が海産資源を使って商取引を行うなどすれば、また違ったのだろう。

だが、内乱を通じて意識改革が行われた陸上獣人と違い、彼らの思考は昔のままだ。

獲物は狩るもので縄張りは奪うもの。

彼らには話し合って決めるという発想すら欠けていた。


 結局話し合いにすらならず両者は決裂した。

それでも養殖場は中央大陸の人間との共同経営で、襲えば人間も敵に回すと知らせる事が出来たのは大きかった。

その後は大規模な襲撃は減り、しかし少人数の窃盗は頻繁に起きる事になる。



「そう言えば、そろそろ交代か」


「はい。実戦経験の無い新人15人です」


「やれやれ、はた迷惑な魚人共だが、若者の実戦訓練にはなるんだから複雑だな」


 技術者の増加と共に獣人達の間には職業という概念が出来た。

そうなると戦士と技術者を分離し、それぞれに専念させるべきと言う事になる。

そして水生獣人達の襲撃は、戦士候補たちの訓練として利用されているのだ。

これは人間で言うと騎士や冒険者の盗賊狩りにあたる。

強力なモンスターと戦う前に、できるだけ経験を積ませておこうという政策である。


「……和解は無理でしょうか?」


「難しいだろうな。こっちはともかく、あっちはそれを望んでいない」


「強いものが正しく、弱い者は悪、ですか。野生の理ですね」


 譲歩し、頭を下げる事は弱さ。

そして弱さとは罪、その報いは死。

未だにそんな風に考えているのだろう。


「昔はそれで良かったんだろう。だが、もう時代に合わん。それを証明したのがあの内乱だ。もう俺達は獣じゃいられないのさ」


「兄は命を懸けて獣人が人であることを知らせてくれました……」


「だが、内乱に参加していない奴らにはそれが解らない。アイツらは獣のままなのさ。話し合いの余地なんてない」


「この先もそうなんでしょうか……」


「それはアイツら次第だろうな。だが、このまま時代から置き去りにされれば……」


「されれば?」


「アイツら魚人は将来、モンスターとして狩られる存在になるだろうさ」


 それはアルゲンのただの予測なのか。

それとも、やがて来る未来の暗示なのか。 

アロザには判断できなかった。

ただ、彼は思う。

兄ならばどうするのだろう、と。



時期的にはフィオが去ってから数年後ってとこです。


一難去っても新たな火種が。


話の通じない、思想の違いすぎる隣人。


どうすればいいんでしょうね……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 所々某民度の低いアレ等をディスっていて良い作品です。 それは良いとして、前作から読ませていただいてますが面白いと思います。 前作のベータテストは成長要素とかありで、今作は強くてニューゲーム…
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