北大陸の火種
要らん手間が増えそうな話だったな。
まあ、本人が死んでるのなら、増産されない分まだマシか。
どっかで大量に保管されてたりすれば一網打尽にできるんだがな。
「そいつについては、考えても仕方ないな。他は?」
「え~っと……」
「その?」
何だか歯切れが悪いな。
話せない様な事なのか?
それとも知り合いか?
「北大陸に2人いるらしいんだけど……」
「ディノさんの方が詳しいかな~って」
ああ、成程。
魔人族は北大陸に住んでるからな。
すまん、俺は行った事すらないわ。
「いや、構わないから教えてくれ」
「はあ、でも有名ではあるんですけど情報自体は少ないんですよ」
「悪い意味での有名人だしね」
ん? んん~?
悪い意味で有名な2人だと?
なんか聞き覚えがあるぞ……。
「まず、1人は夜の国の貴族様なのよ」
「で、そいつ転生者ネットでも人を見下したような態度で話す、スゲエいけ好かない奴だったんですよ」
「そうそう、自分は高貴な貴族なんだぞ~って。何様のつもりなのよ」
「貴族様なんだろ? 品性の欠片も感じなかったけどさ」
……思い出した。
例の三角関係野郎じゃないか。
うわっ、面倒くさそう。
夜の国って事は種族は吸血鬼だな。
その貴族って事はヴァンパイア・ノーブルか。
確かに種族としては強力だな。
魔人族というのは非常に雑多な種族だ。
正確に言えば人間、獣人、妖精以外の種族で、人型に近く知性を持っている者は全て魔人と呼ばれる。
ちなみに獣人と獣型魔人との違いは獣率の高さだ。
人間に獣のパーツが付いているのが獣人、直立する獣なら魔人だ。
正直それ程はっきり種として違うとは思えないけどな。
2本足で歩く猫のケットシーや、犬のコボルトが妖精種ってらへんが曖昧さに拍車をかける。
そんな雑多な魔人族だが個体数の多い種族は単独で国を作っている。
吸血鬼は『夜の国』、鬼族は『鬼王国』、獣系魔人は『獣魔国』、後は多種多様な魔人の住まう『魔人連合国』、この辺がいわゆる大国だ。
世界樹の聖域には巨人が住んでいるらしいが、国と呼べるほどの規模では無い様だ。
しかし、イコール弱いという訳ではない。
巨人族は単体の能力が竜に匹敵するほど高い。
これまでも世界樹を狙って攻め寄せた国はあったらしい。
しかし、巨人達は撃退するどころか逆に攻め滅ぼしてしまったのだとか。
現在は巨人に手を出す国は無いそうだが、個人としてはそんなバカも現れるらしい。
そういったバカは所属する国がサクッと始末してしまう。
国の意志と思われて巨人が攻めて来たら大変だからな。
話が逸れたな。
え~と、アホが大国の貴族として生まれたとか言う話だったっけ。
ん? という事はこいつがお姫様に振られた方って事か。
まあ、聞いた限りじゃ個人としての魅力は無さそうだもんな。
王族に家柄自慢してもしょうがないし。
「そいつは振られたんだっけ?」
「ええ、バッサリと」
「貴方なんて嫌いです。私には他に好きな人がいますってハッキリ言われたらしいわ」
「おおう……」
普通なら諦めるな。
でも、揉めてるって事は諦めなかったのか。
あれか、政略結婚に愛は要らないって奴かな。
「諦めが悪いんだな。そんなに王様の椅子が欲しいかね」
「お姫様自身も欲しいみたいよ。欲望の対象としてね」
「さすがにあのカミングアウトは引いたなぁ」
「おいおい、喋ったのかよ……」
ああ、成程。
それで恋敵にバレたのか。
何といえば良いのやら。
「オッケー、了解だ。北大陸に行ったらお仕置きしてやろう」
「そうした方が良いと思うわ。でも、ああいう奴って碌でもないギフトを発現させてそうよね」
「洗脳とか魅了とか? うわぁ、ピッタリだ」
フラグを立てるなゲーマー共。
俺だってそんな気がしてるんだよ。
急いだ方が良いかもしれないな。
ニクスの時もそうだったが、あの手の能力は時間が経つほど手に負えなくなる。
自重するとも思えんしな。
「まあ、そいつの事はもういい。もう一人は?」
「ん~、そっちはあんまり個人情報を流さなかったのよね。それが普通なんだけどね」
「印象としては真面目で誠実って感じだったな。種族は解らないけど、魔人連合国所属らしいから少数種族の生まれじゃないかな」
ん? 吸血鬼の王族は吸血鬼以外とも結婚できるのか?
どれ、ちょっと検索を……。
「ふむ、成程」
「どうしたのよ?」
「ん? ああ、ヴァンパイア・ロードの結婚はずいぶん特殊なんだよ」
「特殊? 吸血鬼以外でも結婚できるって事なんですか?」
まず、吸血鬼は先天性と後天性に分かれる。
血を吸われたからと言って吸血鬼になるワケではないが、吸血鬼の体の一部を埋め込む事で他種族を吸血鬼化させる儀式を行う事が出来るのだ。
この儀式によって変化した後天性の吸血鬼はレッサー・ヴァンパイア、あるいはヴァンパイア・スレイブと呼ばれ下位種と見なされる。
これは主に異種族婚で吸血鬼の伴侶として生まれることになる。
この世界の吸血鬼は確かに光属性に弱い。
しかし、太陽の光を浴びても弱りはするが灰になったりはしない。
よって、太陽光に耐性を持つハーフ、ダムピールを劣化コピーと見下す吸血鬼もいるのだ。
そうなると結婚する時には儀式によって伴侶を吸血鬼とし、子供も吸血鬼が生まれる様にすることが一般的な考え方となるのだ。
夜の国では始まりの吸血鬼を『始祖』と呼び、彼によって吸血鬼に変じた者達を『真祖』と呼ぶ。
王族とは始祖の子孫であり、貴族とは真祖の子孫なのだ。
そして貴族たちの選民思想は相当なものらしい。
何故なら、血族の系譜が始祖から離れるほど力が弱くなっていくからだ。
例えば真祖の子供は真祖だ。
しかし、真祖が儀式で伴侶を吸血鬼化しても相手は真祖にはならない。
儀式で生み出される吸血鬼は、身も蓋も無い言い方をすればデッドコピーなのだ。
故に真祖達は血筋にこだわる。
ところが王族だけがその例外なのだ。
ヴァンパイア・ロードは生涯に1人にしか儀式を行えない。
しかし、相手をその儀式によって自身と同じヴァンパイア・ロードに変える事が出来るのだ。
逆に言えば、王族以外がヴァンパイア・ロードになるには王族の伴侶に選ばれるしかないという事でもある。
だが、王族のお相手は吸血鬼である必要も無いのだ。
「ふーん、それはあのゲス野郎は我慢できないでしょうね」
「見下してた平民が自分よりも偉くなり、しかも自分より上位の種族になる、ですか」
「ついでに言えば、そいつは自力でロードになることはできない。逆転は不可能だ」
現在どんな状況なのかは不明だ。
事が発覚してから2人は一切ネットワークに顔を出していないらしいのだ。
吸血鬼のアホ貴族にしてみれば、恋敵さえいなければ人生思いのままだったのだろう。
恋敵からしてみれば、姫を「力ずくにでも自分のモノにする」などとほざいた相手は敵以外何者でもないだろう。
問題はこれがただの三角関係(と呼んでいいのかは疑問だが)ではないという事だ。
何しろ1人は大国の王族、もう一人はその国の大貴族なのだ。
さらにもう1人は他国の人間である。
下手をすれば2国間の火種となりかねない。
戦争? 勘弁してくれよ。
「じゃあ、最後の1人は……」
「俺たちのパーティーメンバーだったゴードンさんです」
うぐっ、そういやそれがメインデッシュだったな。
もうオードブルとスープで腹一杯なんですけどねぇ。
しかし、この深刻そうな顔。
声かけただけでパニックになるくらいだしな。
大体予想はついてるさ。
「ゴードンさんは今、あるダンジョンの深部にいます」
「おそらく説明にあったギフトの副作用だと思うんですけど、完全に狂っちゃっているんです」
「近づく者は人も魔物も関係無く、襲い掛かって惨殺して……」
あ~、そういえばそんな話聞いたな。
低難易度のとあるダンジョンで、最近急に未帰還者が増えたとかって。
成程、こいつら絡みか。
「俺達、何とかゴードンさんに正気に戻ってもらいたかったんです」
「でも、駄目で……。もう、このままにしておけないと思って……」
救えないなら自分達の手でか。
ゲーム気分が一気に覚めただろうな。
いや、その決断ができたんだ。
褒めてやるべきだろう。
だが
「で、『戦鬼』は死んだのか?」
「……」
「……です」
「ん?」
「死ななかったんです。ゴードンさん!」
「スイフが心臓貫いても、私が頭ふっとばしても死ななかったんです!!」
「不死身って事か?」
「はい……」
「肉がウネウネ動いて、傷が消えて……」
むう、ニクスの自動治癒みたいなものか?
でも、あれは傷の治りが早くなるだけだ。
致命傷を受ければ死ぬ。
一体どんなギフトを持ってたんだ?
これで転生者ネットワークのフラグ回収はしたかな?
フィオが到着するまでに火種はどれほど燃え上がるのか?
恋敵は姫を貴族から守れるのか?
……なんか違う作品の後書きみたいだ。




