呪われた鍛冶師
「ガボッ!? ガボガボ!!」
「オブッ!? ゲボボ……」
「落ち着けって。足が着く深さだろ……」
「え? あ……」
「俺は何して……?」
お目覚めか。
頭も冷えてると好都合なんだけどな。
「生きてる?」
「何で……あんた死んだんじゃ」
「誤解だっての!」
そんなこと一言も言ってないだろ。
アレ? でも、それっぽい事は言ったっけ?
もしかしてアミンが切れたのはそのせいか?
「あ、あんたは!?」
「ちょ、アミン、よせって!!」
あ~、もう、うっとおしい。
女のヒステリーは始末が悪い。
言葉が通じないって最悪だ。
ブオン!
「「!!」」
2人の頭の間を閃光が駆け抜ける。
その正体は俺のブン投げた神槍杖だ。
ズズン!!
着弾したのは遥か彼方の岩山だった。
爆音と崩落音がここにまで聞こえてくる。
あ、さっきのギルドの連中が戻ってこないだろうな?
シミラに結界を張ってもらうか。
「少し黙れ。最初から殺す気はない」
声をかけるとフリーズしていた2人が再起動する。
だが、恐る恐る振り向き、粉塵の上がる山を見て再び硬直する。
また気絶したんじゃないだろうな。
と、思ったら神妙な顔で振り向いた。
ようやく話を聞く気になったか。
「ど、どうして殺さないの?」
「あ? ギフトが無い!」
「ええっ!?」
目を覚ましたとたん五月蝿い奴らだな。
今、説明するっての。
取り敢えず俺はギフトの正体と、その副作用(こっちがメインか?)を説明する。
更にこれまで会ったギフト持ちの最後も教えてやる。
まあ、生きてる奴もいるけど。
「そういう訳でお前らはマシな方だ。いや、むしろ幸運だな」
「え~、幸運? そうかなぁ?」
「ギフト無しじゃ二つ名は返上しないとだしね……」
「それが、そうでもないんだな」
俺は解析モノクルを取り出して装着する。
さっき確認しておいたが、やはりそうだ。
2人のスキルが増えている。
アミンは『連射』『誘導』『遠視』、スイフは『隠れ身』『潜伏』『分身』か。
どれもギフトのデッドコピーだ。
「ホントだ。これなら……」
「訓練次第では行けそうだな! でも、何でだろ?」
その辺は俺にも良く解らない。
仮説だが、2人はギフトの浸食が浅かったので魂の損傷が軽微だった。
軽い損傷なら自然に修復されるので、その時失ったギフト能力も修復されたのだろう。
しかし、神力によって発現するギフトを完全に再現できるはずがない。
結果、魂によって発現するスキルに置き換わり、性能も劣化した。
そんなところだろう。
「まあ、深く考える必要はないだろ。ラッキーだったと思っておけよ」
「はあ、そうっすね」
「リスク無しならこっちの方が良いかもね」
ようやく納得か。
まあ、こいつらに関しては後はほっといてもいいだろう。
さて、本題に入るか。
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「他のギフト持ちかぁ……」
「ああ。早いうちなら助かる可能性がある。俺だって好きで壊したわけじゃないんだ」
シゼムもニクスも,もう1年早ければ助けられただろう。
教主に関しては微妙だな。
恋人の病気はずいぶん前からだったみたいだし。
俺は医者じゃないからな。
癌なんて治せるか解らん。
「う~ん、3人?」
「あ、でも、あいつを含めれば4人じゃない?」
「どういう意味だ?」
「えっと、実はですね……」
「1人、だいぶ前に処刑された人がいるのよ」
2人の聞いた話によると、そいつは西大陸北部のドワーフの集落にいたらしい。
生まれた時から上位種のハイ・ドワーフで鍛冶の天才ともてはやされていたとか。
まあ、ここまではよくある転生モノだ。
ゲームと現実は違うという事だろう。
そいつはある程度までは一気に腕を上げたが、行き詰ってしまったのだ。
実際には何年も修練を重ね、少しずつ腕を上げる段階に来ただけなのだが。
今までサクサクとスキルアップしてきたそいつには、地道に鍛練を繰り返す根気が欠けていたのだ。
そいつは小手先の技術をあれこれ身に着けだし、基礎鍛練を放り投げてしまった。
身に着けた技術を体になじませる習熟を怠ったそいつの腕は、当然停滞してしまった。
ドワーフという種族は妖精族の一種であり寿命が長い。
だから根気があるし、長い鍛練も苦にならない。
人間の記憶を持って生まれてしまったが故のエラーだったのだろう。
そうこうしている内に同期のドワーフ達も実力を付け、追いついてきた。
まだまだ自分の方が上なのだが、追われるプレッシャーに耐えかねたのか、そいつは焦りだす。
魔法武器、精霊武器、そういった達人の技術に手を出しては失敗する。
アリ地獄でもがくアリ状態に陥ってしまう。
そこで初心に帰ればそいつも大成できたのだろう。
だが、そいつはさらに道を踏み外してしまう。
ネットワークで『スピア・オブ・ビースト』の話題を耳にしたことで。
彼は生き物を生贄に捧げ、その能力を付加するという技術を編み出した。
まず間違いなくギフトによる物だろう。
動物や植物、魔物を利用している内はまだ良かった。
それらを素材に装備品を作る事は、ごく普通の事だからだ。
だが、ある日そいつは一線を越えてしまう。
素材集めに向かった山で、死んだ冒険者を見つけたのだ。
そして、その死体を元に武器を作った。
完成した武器は、禍々しい魔力を纏いながらも素晴らしい性能だった。
彼の倫理観は壊れた。
ギフトの能力に邪神の意思が反映されていたのかは解らない。
だが、死体よりも生者、それも優秀な能力を持つ者ほど作成される武器は強力な物だったのだ。
彼は密かに人を攫って材料とし、呪われた強力な武器を作り続けた。
まっとうな市場に流せないその武器は、裏社会で飛ぶように売れた。
ギフトの浸食によるものか、それともただの慣れか、その頃になるともう罪悪感も何も無くなっていた様だ。
表では魔物素材から作った武器を、真っ当な市場に流していたので発覚は遅れた。
だが、顧客の側からバレるのは必然だったのだろう。
犯罪組織が使用する強力な武器は、基本的に出所を探られる。
武器を作ってもらうために、生贄を自分で用意して値引きしてもらう者もいたのだ。
当然、誘拐犯の捜査が行われる。
致命的だったのは武器の発する魔力の波長は、生贄にされた者の波長と同一だった事だ。
魔法による捜査において、これ以上ない証拠である。
質が悪い事に、彼はあらゆる種族を生贄としていた。
捜査には西大陸の全種族、さらに冒険者ギルドも協力し、遂に犯人を特定した。
かつては天才と呼ばれ、今は外法鍛冶師として集落を追放されたハイ・ドワーフ。
彼はついに捕まった。
「犠牲者は解っただけでも1000人を超えるとか」
「それは、また……。快楽殺人犯も真っ青だな」
「捕まった時はもう正気を失っていたそうよ。もう、人を生贄に武器を作ること自体が目的になっていたとかって」
生贄を苦しめ、怨念が強くなるほど強い武器ができる。
そう言った彼の工房は、まるで拷問部屋のような内装だったという。
そこに残されていた残骸は、騎士団や冒険者でさえ息をのむほどの凄惨さだったとか。
当然、そいつは処刑された。
そいつの技術は再現不能だったので、二度と同じ事件は起こらないとされている。
だが、そいつの作った武器は回収し切れていないらしい。
今でも時折それを使用する犯罪者がいるそうだ。
「それと、これは噂なんですけど……」
確認したわけではないらしいが、そいつが作った武器は正真正銘呪いの武器なんだとか。
武器には生贄にされた者達の怨念が込められており、使用者の精神を蝕んでいくらしい。
つまり犯罪者がその武器を使っていたのではなく、その武器が使用者を犯罪に駆り立てているのではないか? という事か。
「本人は死んでも火種が残る、か。面倒な話だな……」
と、いうワケで一人はすでに死んでました。
悪いことすれば捕まるのですよ。




