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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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誤魔化し

 夜の森の中をいくつもの影が駆け抜けていた。

彼等は皆、冒険者だった。

それも全員がCランク以上の高位冒険者だ。


 冒険者ギルドのランクは冒険者もモンスターも共通である。

Dランクで一人前、Cランクで一流、Bランクは人外の領域とされている。

そんな人類の枠から踏み出しかけた強者達が10人以上。

聖獣、幻獣と呼ばれるレベルの怪物でも相手にできる戦力だ。


「まったく、どういうつもりなんだか……」


「そうねぇ。あのクールなアミンちゃんらしくなかったわね」


「スイフの坊主はいつも通り……でもなかったか」


「ああ。『戦鬼』の奴が行方不明になってからな」


 同じ上位冒険者としてアミンとスイフは顔なじみだ。

ゆえにアミンの暴挙も、スイフが止めずに協力した事も驚きであった。

高位冒険者になるには実力だけでは足りない。

素行、人格、様々な条件を満たしてようやく昇進できるのだ。


 あの2人も若いとはいえ、その資格ありと認められた人材だ。

何が彼らを暴走させたのか疑問は尽きない。

一番に思い当たるのはパーティメンバーの失踪だ。

『戦鬼のゴードン』ランクBの鬼人、パーティの前衛。

生粋の戦闘狂だが、殺しても死なないようなしぶとさを持っていた。


「攻撃された相手は?」


「ディノとかいう駆け出しだ。確か魔人族だったな」


「登録したのが最近ってだけだろ。隠しちゃいたが、ありゃとんでもない手練れだぜ」


「解ってるわよ。あの至近距離でアミンちゃんの攻撃をかわしたんだもの」


「さらにはスイフが捉えきれない敏捷性だ。実力的には最低でもBだな」


 彼らは相手の実力を見誤ったりしない。

実戦ではそれは命取りになるからだ。

実力者ほど正確に相手の力量を見抜く。

だからこそ生き残れる。


「結局、何でアイツらはそのディノに襲い掛かったんだ?」


「解らん。目撃者の話だとディノがアミンに一声かけただけらしい」


「は? それだけ? 何言われたんだか」


「何を言われたにせよ、ギルド内で攻撃を仕掛けるなど常軌を逸している。いくらあいつらが不安定であったとしても限度ってものがあるだろう」


「……直接見ていたんだが、あいつら怯えていたな」


「へ?」


「アミンとスイフが?」


 短時間の簡単な調査で、ディノは中央大陸から来たばかりだという事が解っている。

おそらく北大陸から中央大陸に渡り、そこで冒険者登録をしたのだろう。

ゴードンと同じパターンだ。

そしてアミンとスイフは西大陸から出たことが無い。

接点があるとは思えないのだ。


「やっぱ、ゴードン関連か?」


「ディノはあの3人の情報を集めていた。彼らに会うために西大陸に来た可能性が高い」


「でもゴードンが失踪したのはだいぶ前だぜ? ディノが直接あいつの失踪に関わってる線は薄いと思うぞ」


 全ては憶測にしかならない。

情報が少なすぎるのだ。

アミンとスイフの捕縛ついでに、ディノからも事情聴取する必要があるだろう。


------------------


「うん? 霧か?」


「いや、それだけじゃない。煙もだな。酷い臭いだ」


「! いたぞ。反応が3つ、全員生きてるな」


「戦闘音はしないか。どっちが勝ったんだ?」


「行けば判る」


 冒険者たちが良くキャンプに使用する大きな泉。

そこに目的の3人はいた。

しかし、その光景は追跡者たちの想像したものではなかった。


「ゲホッ、ゲホッ、ちょ、もう止めなさいよ!」 


「おげぇ、頭に血が上る~、臭い~……」


「うーむ、反省の色が見えないな。追加っと」


 逆さ吊りにされて苦しむアミンとスイフ。

容赦なく悪臭のする草を追加するディノ。

どっちが被害者だったのか一瞬忘れる光景だった。


「これは、どういう状況だ?」


「あ、先輩方! お願いします、助けて!」


「罰金ならそこの鞄から持って行っていいから! ランクダウンでも何でも受け入れるんで!」


 必死に懇願するアミンとスイフ。

確かにこれはキツイだろう。

2人に折檻を加えるディノに目をやると


「ああ、なんか勘違いだったみたいですよ。ゴードンさんの失踪の関係者だと思ったらしいです。精神的に余裕が無かったのは解るけど、いきなり酷いですよね」


「だから悪かったってば!」


「ちょ、アミン! 口調、口調!」


「ハイ、追加」


「「嫌~!」」


 気の抜けるやり取りに脱力してしまう冒険者たち。

一気にやる気が削がれ、追及する気が無くなってしまう。

見たところ3人にこれと言った負傷も無い様だ。


「はあ、解った。今日の所は罰金だけ徴収して行くぞ」


「後日、ちゃーんとマスターの所に説明に来なさいよ?」


「取り敢えず手持ちの金は担保として預かっていくぞ。建物の修理代とか算出しておくから、後でしっかり払えよ」


「他にもペナルティはあるだろうな。反省しろよ」


 3人のやり取りを見て、大きな問題は無いと判断した冒険者たち。

心配したような血なまぐさい展開になっていなくて内心ではホッとしている。

自業自得、良い薬だとばかりに2人を助ける事無く引き返していく。


 中には値踏みするような目でディノを見ている者もいた。

頭に血が上っていたとはいえBランク2人を1人で制圧したのだ。

興味を持つなという方が難しいだろう。

とはいえ、この場で追及するつもりは無いらしく彼らも去って行く。

そして騒ぐ2人とディノだけがそこに残った。


-----------------


「もういいぞ、シミラ」


 ディノことフィオの言葉と共に変化が起きた。

ギャアギャア騒いでいたアミンとスイフがピタリと黙ったのだ。

それだけではない。

濃く辺りを覆っていた霧も薄くなっていく。


 やがてフィオの眼前に、銀色の霧の塊のようなものが現れる。

幻魔シミラ、フィオの使い魔の中でも最高の幻術使いである。

吊るされている2人は目を閉じピクリとも動かない。

当然だ。

まだ、気を失ったままなのだから。


 彼らを起こしても、大人しく口裏を合わせてくれる可能性は低い。

なら下手な事をするよりもシミラの幻術で誤魔化した方が確実。

相手は手練れだろうが、実際に2人は吊るされている。

撹乱作用のある毒草の煙で感覚を鈍らせ、声や顔の動きを違和感なく再現させればどうとでも騙せた。


 まあ、連中にシミラの幻術を破れるとは思えないが念のためだ。

いざとなれば、煙に紛れて潜んでいたシミラが連中を夢幻の世界にご招待すればいいのだから。

今回は穏便に済んで良かったという事にしておこう。


「自分には効果が無いとはいえ、臭い物は臭いな……」


 焚火の火を消し、土を被せる。

これで、ようやく毒草の臭いが無くなった。

吊るされてる2人は気絶しているおかげで、逆に影響を受けずに済んでいるはずだ。

起こした後、様子が変だったら薬をやればいいだろう。


 ……そういや、この毒草用の薬ってなんだったっけ?

万能薬で治せたっけな……?

ちょっと記憶があやふやだ。

ま、いいか。


「さーて、ここからが尋問タイムの本番だ」


 吊るされていた二人を降ろし、縄を解く。

ペシぺシ叩いてみるが起きない。

そんなに強く殴ったっけ?


「どうするかな。気付け薬でも使うか? ……うん?」


 ふと後ろを見ると、そこには泉が。


「よし」


ポイッ  ドッボーン!


ポイッ  ザッパーン!


 これで良し。

さあ、起きてもらおうか。


気絶してる間に有り金を失った2人。


そして優しさの欠片も無いフィオ。


彼らの受難は続く。

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