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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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異世界の空

ジャンクボックス投稿しました。

活動報告参照。

 こちらを監視するような視線が消え、空爆が収まる。

どうやらアミンはクールタイムに入ったようだ。

射程外、魔力切れ、時間制限、ギフトも万能じゃないからな。

あんなに考え無しに使いまくれば息切れもするか。


「さて、もうそろそろ良いかな?」


 少し離れた場所を疾走するスイフをチラリと見る。

非常に精巧な隠蔽だが、いかんせん相性が悪い。

俺の魔眼は魔力を見るからな。

半透明の球状フィールドと、その中のスイフがはっきりと見えるのだ。


 奴のギフトは鑑定済みだ。

あのフィールドはギフトによる物のようだが、構成は神力じゃない。

つまり奴のギフトは『ステルスフィールドそのもの』ではなく『魔力を使ってステルスフィールドを作り出す』ものなのだ。

まあ、前者だとしても今の俺ならあの気色悪い邪気を見逃すワケが無いんで同じ事だが。


 と、いきなり視界が開けた。

そこにはかなり大きな泉が水を湛えている。

俺は速度を落とし、泉の中央に歩き出す。


 水上移動の能力はゲーム時代もお世話になった優良スキルだ。

アメンボ様様だったな……。


「ふむ……」


 見上げる夜空。

天に輝くのは赤と青、二つの月と銀の星。

地球ではありえない光景だ。


 この世界の宇宙ってどうなってるんだろうな。

もしかして天動説だったりして。

いや、それ以前に異次元や異世界って何なんだろう。

もしかして、隣の宇宙だったりするんだろうか。

じゃあ、宇宙同士が接触して繋がり、その亀裂が地球のゲームサーバーに発生したのか?

何、そのおかしい確率。


 あれこれ考えているとスイフが追いついてきた。

かなり逃げ腰だが、逃げなかったのは大したものだ。

背中を見せたら即座に使い魔をけしかけようと思っていたからな。


 ゆっくり振り向き、装備を戻す。

もう人目も関係ないだろう。

おお、慌ててる慌ててる。

悪いけど君、丸見えだよ?

さ、お一人様ごあんなーい。


------------------------


「スイフ!」


「へえ、結構早かったじゃないか。さすがエルフ、森はホームグラウンドってわけか」


 男にようやく追いついたアミン。

しかし、そこに相棒の姿は無かった。

最悪の事態が脳裏をよぎる。


「スイフはどこ?」


「ああ、あっちならもう処置を済ませた。次はあんただよ。なぁに、痛みも無いし一瞬で終わるよ」


「なっ!」


 飄々と答える男。

その内容にアミンの目の前が絶望に真っ暗になる。

続いて湧き上がる怒りに真っ赤になる。


(スイフが殺された……)


 ただし、これは誤解であった。

フィオは無力化したスイフからギフトを取り除いただけで殺していない。

彼は予想よりギフトの浸食が弱く、痛みも無ければ後遺症も無かった。

つまり完全無欠に無事なのだ。


 しかし、アミンは今気が立っていて冷静ではない。

フィオの説明が解りにくかったことも悪かった。

彼女は処置=殺害と認識してしまったのだ。

不幸なすれ違いである。


「ああああああああああっ!!」


「おわっ!?」


 アミンの中で理性の糸がプツンと切れた。

見据えるのは憎き仇のみ。

それ以外は見えない。

考えられない。


「殺す」


 フルパワーのマジックアローをつがえる。

相手はギルドでチラリと見た時と装備が変わっている。


「それが……」


 つがえられた矢は膨張し、矢というより杭だ。

もはや隠す気も無いのだろう、男は圧倒的な魔力を身に纏っている。


「それが……」


 後先など考えない、魔力枯渇も恐れず魔力を注ぐ。

しかし、これで男を倒せるとは思えない。

火山に放水車で挑む方がまだマシだろう。

だけど


「それが、どうしたってのよ!!」


 放つ。

放たれた10本の矢は紫電の龍と化す。

更にそれぞれが10本に分裂する。

100を数える紫電の龍が男に襲い掛かる。


 アレ? おかしいな、という顔をした男は動こうともしない。

もう回避は不能な距離。

防御しても無傷という事はあり得ない。

たとえ敵わずとも一撃を。

アミンは魔力の消耗で遠のく意識を必死につなぎとめる。

しかし


パシュン!


ボッ!


 何かが射出されるような音が響き、紫電の龍が消し飛んだ。

一体残らず。


「え?」


 何が起きたか理解できないアミンに男が歩み寄る。

もう抵抗どころか立っているのがやっとの状態だ。

しかし、最後の意地で男を睨みつける。


「君のアレ、オリジナルを破壊するとコピーも消えるんだろ?」


「!?」


「そう、100本全てを撃ち落としたわけじゃない。10本のオリジナルを狙ったんだよ」


パァン


「こいつでね」


 男が放った光弾は太い木の幹を抉って貫通していた。

アミンが矢なら男のこれは銃弾だ。


「なんで……」


「ん? 何でオリジナルが判るのかって? 俺の眼も魔眼なんだよ。世界に満ちる魔力を視認し、その構成を読み解ける魔術の魔眼だ」


 そんな魔眼は聞いた事が無い。

魔法の構成を読み解けるだけでも十分脅威だが、本質はそれ以上だ。

世界は魔力で満ちており、魔力は世界を構成している。

それを視認できるという事は、世界の本質を、法則を、真理を読み解けるという事だ。


 アミンの背筋が冷える。

そんなもの一生命体が許容できる情報量ではない。

限界以上の情報は脳細胞を破壊してしまう。

こいつは一体……。


「それに君も気を付けていただろ?」


「え?」


 男の声に思考が現実に復帰するアミン。

現実逃避もさせてくれないらしい。

しかし、気を付けていた? 自分が?


「バカスカ連射していたけど、全部コピーの矢を前面に押し出していて、オリジナルの矢は最後尾だった。これじゃあ、オリジナルが先に消えると都合が悪いですって白状してるようなものだよ。見せ過ぎだ」


「……」


 アミン自身も自覚していなかった。

確かにオリジナルが先に着弾すると、コピーが全て無駄になってしまう。

無意識のうちにオリジナルを最後尾にしていたのだろう。

しかし、あの短い時間でそこまで見切れるものなのか。


「(桁が違う……)」


 魔力枯渇ではなく諦観で身体から力が抜ける。

頬を伝う感触、気付けば涙が流れていた。

ここまで来れば理解できる。

あの書き込みは本当だったのだ。

自分達は許されざる存在なのだ。


「(でも、だからって……)」


 自分達はそんなこと知らなかった。

理不尽な死からの救い程度にしか考えていなかった。

確かに悪事を働いた転生者の話は聞いた事がある。

でも、自分達はそんなことはしていない。


「(こんなの、酷すぎるよ……)」


 気が付けば黒衣の死神が目の前に立っていた。

その顔は穏やかで、優しげですらあった。

死神の鎌の様に槍が振り上げられる。


 目を閉じたアミンの身体を衝撃が貫く。

痛みは無い。

ただ、自分の内側で何かが壊れたような感触がした。


-------------------


「よし、完了。いやー、上手くいったな」


 気を失ったアミンを担いで泉の方に向かう。

何でか泣いてるけど、負けて悔しかったのかな?

まあ、いいか。

こっちも後遺症は無さそうだし。


 泉の傍に転がしておいたスイフの隣にアミンを降ろす。

さて、どうするか。

もう一人のゴードンの行方を聞き出したいが、目を覚ましたらまた騒ぎそうだ。

もうじきギルドの皆さまも到着するし、そうなると面倒だ。


「当然、引き渡せって言われるよな……」


 ギルドの建物で、騒ぎどころか建物をふっ飛ばしたのだ。

これを見逃したりしたらギルドの面子は丸潰れだろう。

かと言って差し出したら事情が聞けない。

さて、どうするか。


「何とか誤魔化せないかな……」


 そう、例えば追手がドン引きするようなお仕置きを執行するとか。

実際にしなくても、やってるように見えればいいんだし。


「よし、とりあえず縛るか」


 ロープを取り出し2人をグルグル巻きにする。

続いて近くの木に逆さで吊り上げる。

さらに逆さミノムシの下で火を焚く。

ついでに火に強烈な刺激臭のする草を放り込む。


 ……よし、完璧だ。

まさに拷問。

自分なら絶対やられたくない。

むしろ同情するだろう。


「準備オッケー。さあ、何時でも来い。……うげ、臭ッ!」



ああ、悲しきはすれ違い。


別にフィオは人をいたぶる趣味があるわけじゃありません。

ノリでミノムシにして燻すのもどうかと思いますが……。

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