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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第3章 妖精大陸探索編
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山狩り

 夜の闇に沈む山岳地帯。

周囲からは死角になっている場所に小さな集落跡があった。

そこはかつて少人数の獣人達が暮らしていた場所であり、彼らがリンクスによって天狼の森に送られた後は無人となっていたのだ。


 しかし、今そこには数百人の住人が存在した。

野盗に身を落とした帝国の反乱貴族の残党たちである。

だが、彼らを人間と呼んでよいのだろうか。




 襲撃事件から2日、連れ去られた者達21人は簡素な檻に入れられていた。

閉じ込められた者達の男女比は15:6と男性が多い。

大半が商人で数人の男が降伏した護衛だった。

フィオが襲撃現場で見た死体が男の物ばかりだったのは彼らが護衛であり、最後まで戦い殺されたからだ。

護衛部隊を失った商隊の男女は全員連れ去られ、閉じ込められたのだ。

そして地獄のような光景を見せられる事になった。


 集落に連れ込まれた商人たちは、その凄惨な場に唖然とした。

集落には数千を数えるであろう死体が無造作に放置されていたのだ。

それらの身に付けている装備から、死体が盗賊たちの仲間のものであると予想するのは簡単だった。

彼らは仲間同士で殺し合い、その死体を放置しているのだ。


 商人達は凄まじい腐臭に嘔吐するが、盗賊たちは平然としていた。

それどころか我が家に帰ってきた、とばかりにリラックスしていた。

そして最悪の時間が始まる。


 女たちは最初に自分達が慰み者として凌辱されることを覚悟していた。

だが、彼らは檻の入り口にいた数人を適当に連れ出した。

全員男である。

意外に思う彼らの前で始まったのは拷問だった。


 拷問の経験者でもいたのか、彼らは男たちを殺すことなく攻め続ける。

時には回復魔法まで使用していた。

拷問とは本来情報を引き出す手段だが、彼らは拷問そのものが目的だった。

その証拠に彼らの顔は歓喜と愉悦、満足感に溢れていた。


 商人達は理解した。

自分達は人質でも捕虜でもない。

ただ壊して遊ぶための玩具として連れてこられたのだと。

自分達はこれから男女関係なく死ぬまで拷問されるのだと。


 慣れとは恐ろしいものだった。

目を閉じても浮かぶ拷問の光景。

耳を塞いでも聞こえてくる悲鳴。

鼻をつまんでも感じる腐臭。

全てが気にならなくなってくる。


 絶望も行き過ぎると人を冷静にしてしまうのだろう。

2日目には商人達は盗賊達を観察することができる様になっていた。

もうじき殺されるであろう仲間の姿も気にならない。

明日は我が身なのだから。


 醜悪な姿。

それが彼らの共通の感想だった。

元は貴族やそれに近い身分だったのだろう。

顔立ちは整っている者が多いし、身に付けている装備も上等だ。

習慣なのだろう、川で洗っているのか身体も衣服も割と清潔だ。


 だが、その姿は生理的嫌悪を掻き立てる醜悪さであった。

何がどうとははっきり言えないが、人として違和感だらけなのだ。

もちろん理由を上げろと言われればいくらでも思いつく。


 彼らはほとんど食事を摂らない。

代わりに人間を苦しめるほどに生気を増すのだ。

まるでそれが自分達の糧だとでも言うように。


 彼らは眠らない。

闇に沈んだ夜でさえも昼間の様に過ごしている。

少しでも逃げようとすれば即座に気付く。

見えているのだろう。 


 『彼らは本当に人間なのだろうか?』『人の姿をした怪物なのではないだろうか?』、そんな考えが商人達の脳裏を占めるのは当然の事だろう。

実際に野盗たちは人間という枠を踏み外しているのだから。


「お? お終いか?」


「長く持った方だろう」


「次、持ってこいよ」


 不吉な会話に商人たちがハッとなる。

拷問を受けていた3人の男がついに死んだのだ。

そして次の生贄が選ばれるのだ。


 普通なら自分が助かるために醜い争いが起きるところだろう。

だが、商人たちは騒がなかった。

諦めていたのだ。

命乞いなどしたところで連中が気を変えるはずがない。

金でも何でもなく自分達の命こそが彼らの目的なのだ。


 襲撃を受けてからまだ2日。

助けが来るにはまだ早すぎる。

そして来た時にはもう自分達は生きてはいないだろう。

ならば遅いか早いかの違いでしかない。


 檻の外からこちらを見つめる野盗たち。

まるで獣になった気分だ。

いや


「(ああ、そうか……)」


「(こいつらは獣なんだ……)」


 ギラギラとした彼らの目を見て商人たちは唐突に理解した。

彼らは人間ではなく獣なのだと。

比喩ではなく本質的な意味で。

そして次の生贄が引きずり出される直前に


ズズン!


 天から黄金の光が舞い降りた。


---------------------


 時は少し遡る。

襲撃現場を離れたフィオは大陸東端の港を訪れていた。

生存者がいた場合の事を考え、救助隊を出してもらおうとしたのだ。


「妖獣除けの結界か。ここが襲われないのはこれが原因かな」


 妖獣除けの結界は、ある程度の規模の町や妖獣被害の大きい地域では高確率で設置されている。

野盗達を人間として見た場合は不自然な点も、妖獣として見れば理にかなっていた。

彼らは結界の設置されていない小規模な村や町のみを襲い、結界の外に出た商隊を襲っていたのだ。


 フィオが大暴れした結果、中央大陸全体の歪みはかつてなく低下している。

それによって生物の妖獣化は起こりにくくなり、妖獣被害も減少しているのだ。

もっとも、新たに生まれにくくなっているというだけで妖獣の数が減ったわけではない。

ただ長い時を生き延びてきた強力な妖獣は、それなりの知恵を持つようになるので慎重なのだ。

よって考え無しに暴れて被害を出し、あっさり討伐されるのは若い妖獣である。

そして、盗賊たちの行動は若い妖獣そのままであった。


「よし、行くとするか」


 町の守備隊に情報を流したフィオは山に向かう。

大陸中央部や共和国で暴れまわっている盗賊集団。

その根城がこの山岳地帯にあるらしいという情報を得た守備隊は、さっそく調査隊を編成していた。

彼らが来るまでに事を済ませておけば問題ないだろう。



 そして現在。

山の中腹にある集落には2か所の門がある。

その内、山頂側の門が黒い狼によって破られた。

さらに麓側の門を白い獅子がブチ破っていた。

止めに集落の中央の広場に黄金の巨大昆虫が舞い降りていた。


 その瞬間、捕食者と被捕食者、強者と弱者は入れ替わった。


-------------------


「あんた達、生きてたのか」


 俺の失礼な言葉に檻に閉じ込められていた商人達が注目する。

いや、だってなぁ……。

あんな人型のケダモノに捕まって無事でいられるとは思わんだろう?


「君は?」


「ディノ。冒険者だ」


 偽名を名乗り、冒険者証を見せる。

最低ランクなのでガッカリされるかと思ったが、そんなことはなかった。

彼らにしてみれば来るとは思っていなかった助けだ。

まさに地獄に仏だろう。


 ミスリルの槍で檻を破壊してやるが出てこない。

その視線の先には……。

ああ、なるほど。


「心配しなくて良い。アレは俺の仲間、味方だ」


「アレが……ですか?」


 アレとは広場で大暴れしている黄金のムシキング、シザーである。

2本の脚で直立し、4本の攻撃肢を振り回し群がる盗賊を雑草の様に刈っている。

盗賊共も逃げればいいのに、わざわざシザーに突っ込んで刈られているし。

まあ、ハウルとリンクスが挟み撃ちにしているから逃げられないけど。


「え? 死体が……」


「崩れて消えていく?」


「まさかアンデッド? いや、でも斬られた奴は血が……」


 シザーに刈られた盗賊の死体は黒い塵になって消えていく。

妖獣の最後だ。

魔獣と違い素材にもならない。

まさしく害にしかならない害獣なのだ。


 彼らに人間の妖獣化について教えてやるが、やはり初耳だったようだ。

素直には信じられないだろうが、目の前の光景を見れば否定はできないはずだ。

人間だって動物の一種なのだよ諸君。


 俺も時々襲ってくる盗賊を切り捨てながら索敵を続ける。

数百はいたのにあっと言う間に駆除されてしまった。

単なる作業だったな。

まあ、思ったより生き残りがいたのは行幸だった。




 朝日が昇り集落を照らす。

野盗は壊滅し、散乱していた死体は全て焼き払った。

商人達は放置されていた彼らの荷物を回収し、無事だった馬車に積み込んでいる。

運良く馬は妖獣化していなかったので無事だった。

港町に向かう事は出来るだろう。


「うーん、依頼受けたわけじゃないからタダ働きだな」


 伏し拝まんばかりに感謝し、去って行く商人達を見送りポツリと漏らす。

別に金に困ってるわけじゃないけど、なんとなくね。


〈〈……〉〉


 ハウルとリンクスに呆れたような目で見られてしまった。

だったら初めから関わるなよ、って目だ。

ああ、その通りだね。

解ってるよ。


〈……〉


 うぐ、無表情なシザーの眼まで呆れているように見えるのは気のせいか?

うん、気のせいだ。

そういう事にしておこう。

リーフのフォローが入らないけど、そんな日もあるさ。


ちょっと簡潔すぎたかな?


でも、あんまり引っ張ってもしょうがないんで。


次回ようやく出航です。

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