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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
80/216

新しい獣人大陸

 竜巨人と悪魔が消え、光の波が駆け抜ける。

眩しさに閉じていた眼を開くと、周囲の光景は一変していた。

見渡す限りの草原。

兎の一匹でもいればここが戦場、荒野であったことなど信じられないだろう。


 最早、敵も味方も無い獣人達は揃って呆然としている。

先程まで世界の終焉のような戦いが繰り広げられていた事と、目の前の光景のギャップ。

脳の理解が追いつかない。

理性を保つのが精一杯。

それでも、全てが終わったことを徐々に認識し始める。


 喜びの歓声は無い。

あるのは泥沼の戦乱がようやく終わるという安堵だ。

そして気付く、辺り一面に溢れていた遺体が無くなっていることに。

駆け抜けた光、消えた遺体、そして目の前の草原。


『死者たちは大地に還ったのだ』


 獣人達はそう理解した。

実際それは間違ってはいない。

彼らから搾取された魔力は大地に還元されたのだから。


----------------------


「あれ? あの子は?」


 我に返ったロサが不思議そうに呟く。

あれ程の存在感を放っていたリーフ達が消えていたのだ。

キョロキョロと周囲を見渡し、残念そうな顔をする。

あれだけ睨まれてもめげないのは立派であった。


「降伏した者達と話し合いたいそうだ。俺たちも行こう」 


「あ、うん」


「どうなるんだろうな……」


 敵味方関係無く助け合う光景。

これが当たり前の光景になればいい。

3人は近い将来自分達が指導者となり、それを実現する事になる。

そのために血反吐を吐くほど苦労する事になるのだが、今はまだそれを知らなかった。


 この後行われた会談では、終始建設的な話し合いが行われていった。

思想的にも文字通りの過激派だった者達は全滅した。

残った者達は、旧態依然とした獣人社会に危機感を持っていたのでニクスに協力したという者達だった

さらに言えば獣人の人口をこれ以上減らす訳にはいかなかった。

今更対立を続けた所で得る者は無い事を皆が理解していたのだ。


 そして穏健派の意識にも変化があった。

頭の固い原理主義者とでもいうべき者達も、自分達がこの戦争の勝者とは言えない事を理解していた。

それ以前に中央大陸から帰還した解放奴隷たちと接した結果、時代の変化を目の当たりにしていたのだ。

驚くべきことに奴隷という道具扱いされていた彼らが、獣人の基準ではまるで学者の様に博識だったのだ。


 必要だったから覚えさせられた知識ではあったが、逆に言えば必要な知識は持っているという事になる。

既に彼らは指導員や教師として必要不可欠な存在となっていた。

とっくに穏健派はニクスの改革思想を受け入れていたのだ。


 そうなると、もはや対立する必要性が無くなってしまう。

王として立とうとしたニクスが死んだ以上、過激派としても専制君主制にこだわる意味は無い。

現実として行えるのは代表による合議制になるのだが、ここでまた元奴隷たちが活躍することになる。

彼らが働いていたのは中央大陸の共和国、つまりは議会制民主主義の国である。

彼らが知っていた断片的な共和国の制度でも十分参考になったのだ。


 草原の陣地での会議は延々と続く。

両軍の代表者の大半が集まっているのだから、決められることは決めてしまうべきだった。

後方で非戦闘員と共にいた幹部も呼び出され、会議に参加した。

一般人たちも故郷に帰ったり、家族の元へ帰る者が増えた。

足の速い獣人は伝令として忙しく情報のやり取りを行った。


 この後、徐々に陣地は整備され、さらに後には正式な町が建設される。

部落、集落が点在するだけだった獣人大陸にできた最初の街にして後の首都である。

せっかく見本があるのだから、と廃棄された北の港を参考に家が建てられた。

中央大陸式の技術を学ぶために共和国を訪れる者も増えた。

その際には元奴隷たちが使った大型船が使われた。

内乱の炎に焼かれた南大陸は灰の中から蘇っていくことになる。

 

----------------------


「ふう、久しぶりに帰ってきたな……」


 女子供ばかりになってしまった竜人族の集落。

そこに族長となったニクスの弟アロザが帰郷していた。

穏健派であったアロザだが、兄の心境も理解していた。

だからこそ辛かった。


 兄が獣人社会を変えるため、禁断の力に手を染めたという事実。

そして起こしてしまった暴走。

それは兄の功績を塗り潰すには十分な物だった。

全ての責任を、兄と側近に被せてしまえば丸く収めやすい。

死人に口無しなのだから。


 事前に情報を送ってあった事も有り、集落の皆は比較的冷静にアロザの言葉を受け入れた。

明日にでも皆の意見を纏め、3日後には会議に戻るため出発する必要があるだろう。

この辺は大陸の辺境という集落の位置が恨めしい。


 幸い竜人族に対する風当たりは強くない。

父を始め多くの者が穏健派に属し、戦死したからだ。

アロザに求められているのは贖罪ではなく協力。

彼の知るニクスの知識や技術の提供だ。


 今回集落に戻ったのも、兄の技術の情報を纏めるためだ。

自分の技術が広まり、南大陸を富ませる事。

それは兄の願いでもあったのだ。


 思えば兄は血塗られた救世主だった。

確かに獣人全体に計り知れない損害を与えたのは事実だが、その犠牲によって獣人は1つにまとまった。

合議制は王政に比べ意思決定に時間がかかるという欠点がある。

しかし、今は皆が私利私欲を無視して全力を尽くし、凄まじい勢いで会議が進んでいる。

兄の考えの良い所は積極的に参考にして大陸を立て直そうとしている。


 兄は全ての罪を背負って死んだ。

だが、彼の力が必要なのはこれからなのではないかと思う。

実際復興が成った後に問題になりそうな火種は存在している。


 まずは中央大陸との付き合い方だ。

奴隷狩りをする者を過激派が殲滅して以降は途絶状態だ。

元奴隷たちの話で奴隷狩りを行っていた組織は壊滅したと聞いたが、油断は禁物だろう。

武力も知力も等しく力だ。

今の獣人達では中央大陸の人間に良い様に利用される恐れがある。


 もう1つは内乱に参加しなかった獣人達との関係だ。

海を住みかとする水生系の獣人達にとっては、陸の食糧問題など他人事だった。

彼らは内乱を傍観し、海に食料を求めた獣人達は追い返されるか殺された。

復興が進めば、彼等との関係を見直そうという話が間違いなく出る。


 陸の獣人達は内乱を通じて一歩前進することができた。

しかし、水の獣人達は旧態依然とした思想のままだろう。

いずれぶつかり合う事は目に見えている。


 王のような絶対者は必要ないのかもしれない。

だが、知勇を備え皆を引っ張れるリーダーは必ず必要になる。

兄はそんなリーダーになれる人物だった。

焦りさえしなければ、急ぎ過ぎさえしなければ。


 なぜ、兄があそこまで焦燥感に駆られていたのかアロザには解らない。

前世の記憶という理由があることなど解りようがない。

ただ、惜しむ。

獣人の未来を担ったであろう人物がいなくなった事を。


「アジェさんくらいかな?」


 次代を担う若者の中で、リーダーたり得る器があるのは銀狼のアジェだろう。

だが、彼一人で何もかもを引っ張れるはずがない。

間違いなく心が潰されてしまう。

彼の友人たちも好人物だが頭脳派ではなく肉体派だ。

となると、元奴隷たちに学んでいる子供たちに期待するしかないのだろうか。


 様々な考えがグルグルと頭の中をめぐる。

皮肉な事に、彼は自分がアジェに劣らぬ頭脳を持っていることに気付いていなかった。

武力至上主義の竜人族では頭脳派のアロザの評価は低かった。

だから、彼の自己評価が低いのは仕方がないのだが。


「おや? もう、お休みか」


「!!?」


 突然かけられた声に寝床から飛び起きるアロザ。

ひ弱でも竜人である自分が全く気配を掴めなかったのだ。

そこに立っていたのは1人の魔人だった。


「あなたは、フィオさん……でしたか?」


「そうだ。しばらくぶりだな」


 戦いの後、彼は忽然と姿を消していた。

行方を探す者もいたが元々は無関係の人物であったし、あの姿を見た後では積極的に関わろうという者は皆無だったのだ。

その彼がなぜここに?


「警戒しないでくれ。別にどうこうする気は無い」


「……信じます。どの道、抵抗など無意味ですしね」


「助かる。まずは竜達だ。竜族と話はつけてきたから報復とかは無い」


「! 感謝します」


 兄に従っていた竜達は全員死んだ。

兄が殺したようなものだったので、考えても仕方がないと思いつつも心配はしていたのだ。


「後はこの子を任せたい」


「こ、この子、は?」


「アディルという。君の弟だ」


「弟……」


 紫色の鱗。

これを持つ竜人はここ数百年で1人しかいない。

アロザは即座に理解する。

方法などどうでも良い。

彼は救ってくれたのだ。


「全身全霊をかけて、守ります」


「そうしてくれ。いずれ獣人社会を背負って立てるだけの器だ」




 己すらも犠牲に、ただ故郷のために戦った戦士。

数奇な運命を経て彼は愛する故郷の家族の元で、しばしその翼を休める事となった。

そして、十数年後彼は再び羽ばたき、今度こそ真っ直ぐ飛翔することになる。



事後処理回でした。


ニクス(アディル)は彼の弟に預けることになりました。


彼の未来に幸あれ、ってとこですね。

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