表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
79/216

今できる最善

 ニクスから聞いた内容に顔をしかめるフィオ。

例えばケース①の場合、普通なら解決手段に死者蘇生の霊薬、死霊術、神の奇跡といろいろ考え付くだろう。

それが実現可能かは別だが。


 しかし、転生者達はギフトという爆弾を抱えている。

どんな能力が発現し、どんな被害をもたらすか想像もつかない。

ある意味、神の奇跡なのかもしれないが、そんな真っ当なものではない。

行動前に止められれば問題無いが、時期を聞く限り手遅れだろう。

どこかで何かしら問題を起こしているはずだ。


 基本的に魂に関する魔法はヒトに扱えるものではない。

死霊術にしても死体を動かしているだけだったり、魂という核の抜けた怨念や残留思念を利用している。

死者蘇生は基本的に不可能なのだ。

使い魔の様に魂を別の場所(使い魔達の場合は俺の中)に移しておけば擬似的な不死だが、俺が死ぬと全滅というリスクもある。


 ケース②にしても碌でもない事しか想像できんな。

厄介なのは、生物を生贄として莫大な力を取り出す技術が既に存在することだ。

異世界召喚でも使用されていた技術だし、使うかどうかはともかく珍しい技術ではないのだろう。

異世界人ファンの様に人を人とも思わないゲスなら平然と使いそうだ。


 ラノベでよくある鍛冶チートだが、現実には技量を高めるためには長い修業が必要なはずだ。

ぶち当たった壁というのも知識や魔力ではなく、単純な鍛冶技術の問題だったのではないだろうか。

そういった技術は目に見えて成長する段階を超えると、成長速度は落ちる。


 それは壁ではなく技術の熟成期間のような物だ。

だから習熟期間の長い年配の方が優秀なのだろうな。

ニクスの印象だと典型的な『俺スゲェー!』タイプだったらしいし、忍耐力や根気がある人間ではないのだろう。

飽きっぽい奴には地味で時間のかかるこの段階は耐えられないのかもしれない。

で、焦って暴走と。


 最後のケース③に関しては、ねぇ……。

これって俺が解決しないと駄目なのか?

そのうち勝手に潰し合うんじゃ……って、それはまずいか。


 こいつも典型的な『従え、愚民共よ!』タイプみたいだし。

犠牲も被害も考えず無茶する可能性は大いにある。

クーデターを起こして王女を無理やり自分のモノにするくらいやりそうだ。

流石にそんな転生者が王になるのは止めるべきか。


 結論、俺に拒否権なし。


---------------------------


「……」


「考えはまとまったかな?」


「ああ、まずは中央大陸に戻って情報を集める。次に西大陸、最後に北大陸に向かう」


「それが無難だろうね。東の群島は丸ごと未開の地だというし」


 ニクスに流れ込む魔力は徐々に減少し始めている。

そろそろかな。


「さて、そろそろ時間だ」


「そうか……」


「率直に聞くが、あんた自分のこれまでをどう思う?」


「そうだね……。目的は間違えていなかったけど、手段を間違えた、かな?」


「償う気はあるか?」


「勿論だよ。生贄になれというなら喜んで応じよう」


「いや、実はもう生贄になってもらった」


 神槍は結界内の魔力をニクスに注ぎ、魂を修復して肉体を維持している。

そして、溢れ出した魔力はその後ニクスの肉体を媒介にして大地に注ぎ込まれているのだ。

後は結界を解除すれば魔力は南大陸全体に広がり、予測では10年ほど豊穣をもたらしてくれる。

何も善意だけでニクスの治療を行っていたわけではないのだ。


「そうか、罪滅ぼしはできたんだろうか……」


「まあ、待ってくれ。アンタさえよければ実験に付き合ってもらいたい」


「実験?」


「そう。擬似転生実験」


 魂に関わる技術はヒトには扱えない。

扱えたとしてもファンが使ったような捨て身の禁術だ。

しかし、黒き神の従属神であるフィオには資格がある。

後は自身が使いこなせるかどうか。


 原理は単純だ。

まず膨大な魔力の流れを作り出し、擬似的な転生の輪として魂を修復、初期化する。

次に肉体を一度分解し、魂に合わせて再構成する。

言葉にすればそれだけだ。


「それは、可能なのかい?」


「正直解らん。何しろ初の試みだ。さらにあんたは肉体も魂も損傷しているしな」


「記憶は?」


「そこがポイントだ」


 通常、魂は完全に初期化されるまでゆっくり転生の輪を流れ続ける。

しかし、この擬似転生は激しい魔力の流れで短時間で初期化する。

魂の損傷は消えるはずだが、記憶はどうなのだろう?

もしかしたら洗い残しが出るかもしれない。

いや、術者が意図的に残そうとしたらどうだろう?


「成程、検証が必要というわけだね」


「ああ。このままじゃ助からないんだ。やってみる価値はあると思うぞ。記憶に関してはどうだ、残したいか?それとも、すべてを忘れた方が良いか?」


「そうだね……」


 ニクスは目を閉じる。

思い浮かぶのは前世と今世の記憶。

全てを忘れることは自分の罪も忘れるという事。

それは罪人である自分にとっては救いだ。

生まれ変わった自分は良心も傷まず、罪の意識も持たず平穏に過ごせるだろう。

だが


「……記憶は残してほしい。転生して志を忘れてしまえば意味は無い。今度こそ、この大陸を平和にして見せる」


「……了解だ」


 フィオはニクスに近づき神槍を両手で握る。

そして行使される神域の秘術。

ニクスの魂は術の行使に耐えられる程度には修復した。

損傷したままでは、壊れるか本物の転生の輪に引き込まれてしまっただろう。


 ニクスに流れ込む魔力が勢いを増す。

結界内に残る魔力のすべてを一気に注ぎ込む。

ニクスの肉体が崩れ去り、魂がむき出しになる。

ギフトに喰われ、応急処置で損傷を埋めただけだった魂の傷が消えていく。


「(やはり完璧には戻せないか)」


 維持には限界がある。

本来のニクスの魂を10とすれば術後は8程。

減少した2は記憶と力だ。

果たしてこれはどういう結果に繋がるのか?

フィオにも予想はできない。


 と、その時、ニクスの魂から何かが欠け落ちた。

その欠片が砕け散った時、フィオは不思議な光景を目にした。

黒髪に褐色の肌の女性が自分を見つめている。

その眼は慈愛に満ちていた。


「(母親? でも、竜人じゃないという事は、前世の記憶か?)」


〈生まれてくれてありがとう、愛しい私の息子。あなたの名前は……〉


 優しい声と共にその幻影は消え去る。

そして大地に突き立った神槍の傍らには、1人の赤ん坊が横たわっていた。

小さな角と翼、短い尻尾、竜人の特徴だ。

そう、ニクスは赤ん坊の姿に転生していた。


「成功……か?」


「あう~?」


 ニクスを抱き上げ魂の状態を確認する。

損傷は無し、ただし記憶は虫食い状態でしかもバラバラであった。

時間とともに再構成されるか、それとも断片のまま失われるかはフィオにも解らない。

だが、成長すればギフトは無くとも再び一騎当千の戦士に成長するだろう。


「ふむ……、後はどこに預けるかだな」


 流石に自分が連れていくわけにはいかない。

穏健派の彼の弟(今は兄になるのか?)にでも預ければ上手くやってくれるだろう。

だが、この子を『ニクス』と呼ぶわけにはいかないはずだ。

過激派のリーダーは呪いによって暴走し、味方を巻き込んで死んだ。

そう納めるのが一番のはず。

実は生きてました~とか、余計な火種にしかならない。


「それなら新しい名前が必要だな……」


 ふと、先程の光景を思い出す。

この子は自分の始まりとも言える記憶を失ってしまったのだ。

そして自分が自分であったことを思い出せるかも未知数だ。

俺が名付ける必要があるわけではないが、失ったモノを返してやるのも一興か。


「よし、お前の名前は……」


〈あなたの名前は……〉


「アディルだ」


〈アディルよ〉


「あう~?」


 フィオが神槍を引き抜くと同時に結界が解除される。

光の波のように魔力が大地を走り、戦場となった荒野を駆け抜ける。

そして







「おお……」


「だぶ~?」


 光が駆け抜けた後、荒野は一面の草原に姿を変えていた。


さて、色々案はありましたが、ニクスは救済するという形に落ち着きました。


もっと完璧に助けるべきだったという意見もあれば、地獄に落とすべきだったという意見もあると思います。


今回ニクスはこういう形で救いましたが、転生者エモノはまだいるので、その数だけ裁きと救いがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ