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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
76/216

顕現

 過激派軍の9割以上が衰弱死した。

ニクスの暴走によって、穏健派も過激派も関係無くなった。

我先にと近くの砦に駆け込んでいく。

幸いニクスを中心に大規模な結界が張られ、魔力の搾取は治まっている。

既に手遅れな状態ではあるが。




 少し時間は遡る。 

あらかたの戦闘が終了し、フィオとニクスの一騎打ちが続く中、穏健派にも勝利ムードが漂い始めていた。

いや、正確には終戦ムードだろうか。

敵を倒したのは使い魔達であり、彼らの助力が無ければ確実に敗北していたからだ。


「アジェ、アジェ、金狼族の小父さん降伏したって! 良かったね!」


「平和になれば例の結婚話も復活するかもな」


「それは……ああ、そうだな。生きていてくれて良かったよ」


 ヴァルカンによって正面の敵が薙ぎ倒され、リーフの結界に守られた3人組。

緊張の糸が切れたのか、ハウルに降伏した金狼の長の無事を喜んでいる。

前線には出ていないが彼の娘も金狼の戦士であり、アジェとの婚約話が持ち上がっていたのだ。

実はお互い乗り気だったので、このまま行けば結婚は実現しそうだとロサもグラもはやし立てた。


 一方、そんなのん気な会話を冷たく見つめているのは獣人モードのリーフだ。

この戦場の戦闘はすでに収束している。

離れた場所で戦っていたカリスも勝利し、こちらに向かっている。

後は主人がニクスを倒せば終了である。


〈(神にネットワークか。何としても生かして捕えないとね。絞れるだけ情報を絞らないと……)〉


 フィオはできるだけ弱らせ、クールタイムが終わったら即座に神槍を起動させてギフトを祓うつもりだ。

現状では最善の手だろう。

だが、ニクスもなかなか粘っている。

殺すだけなら早いのだが、ままならないものだ。


「ん~?」


「どうしたロサ?」


「何だかフィオさんに翼が生えてる気がして」


「は?」


「翼?」


 そういえば彼らの前では主人は翼を見せていなかった。

唯の魔人族と思っていたなら確かに意外だろう。

魔人族は雑多だが翼を持つ者は少ない。


「ねえねえ、フィオさんってヴァンパイア族だったの?」


 ギロリ


「あう……」


 リーフに疑問をぶつけるロサ。

しかし、返事は無く、帰ってきたのはゴミを見る様な一睨み。

ロサはがっくりとうなだれてしまう。

繰り返すがロサが悪いわけではない。


「でも彼にはヴァンパイアの特徴が無いぞ」


「え~っと、金髪赤眼で色白なんだっけ?」


「あと、昼間は弱るはずだけど……」


 フィオは昼間でも鬼神のごとき強さだった。

よって、彼はヴァンパイア族ではないと結論付ける3人。


「じゃ、ハーフ?」


「ダムピールって奴か? でも一部は特徴を受け継ぐって聞いたけど……」


 再びあれこれ話し始める3人。

正直言ってウザいので放っておくことにする。

主人とニクスの戦闘は主人が有利、当然だろう。

ニクスはあれだけの戦闘力を長時間維持できるはずがない。

間も無く時間切れで終了。

そのはずだった。


-------------------


「急いで! 生存者には治療を!」


「外傷は無し。症状は激しい衰弱。どうなってるんだ……」


「考えるのは後だ! 早く運び込まないと!」


 原因のニクスを隔離したので、これ以上は被害は出ないだろう。

数少ない生存者を穏健派の兵が必死に救助する。

ダメージの大きかった者、ギフトの影響が大きかった者などに特に被害が大きい。

シザーによって壊滅させられた部隊や、ネクロスの相手にした騎竜隊はほぼ全滅である。

さっき話題に出ていた金狼族など、降伏した者達は比較的無事だ。

降伏するという判断ができたという事は、ギフトの影響が薄かったという事なのだろう。


 結界内部では異形の竜巨人と化したニクスが暴れまわっている。

驚くべき事にその力は主人と同等かそれ以上。

主人も手加減などできず全力で迎え撃っている。

だが、魔法が効かないなど苦戦を強いられているようだ。


 そして状況が動く。

ニクスの攻撃が途切れた一瞬の隙。

そこを狙ってフィオが背後を取り尻尾と翼を切り落とした。

勝負は決したかに見えた。

だが


〈あっ!?〉


 思わずリーフが声を漏らす。

切り落とされた翼と尻尾がフィオを拘束したのだ。

続いて放たれるニクスの渾身のブレス。

悪魔化した腕でも防げていない。


 結界を解除して割って入るという選択が浮かぶ。

しかし、それすらも置き去りにさらに状況が動く。

ブレスにフィオが呑み込まれた瞬間、フィオの体から膨大な閃光が放たれたのだ。


 閃光はブレスを押しのけニクスを吹き飛ばす。

凄まじい光だと認識できるのに目を焼かれないのは、その光が物理的なものではないからだろう。

光球と化したフィオからは断続的に閃光が放たれ、周囲は雷光のようなパルスが渦巻いている。


〈エクステンド!〉


 本能に従いリーフが結界内部の距離を操作。

1mmを数千kmにまで引き伸ばす。

もちろん外部から見える光景は変わらない。


〈ラビリンス!〉


 続いて使い魔最高の空間使いであるフェイが結界に干渉する。

妖精郷の応用で結界内部の位相と方向を滅茶苦茶に乱す。


〈受け取れ〉


 帰還したカリスが結界に魔力を注ぎ込む。

リーフとフェイの魔力だけでは維持が難しい強度の結界。

それが膨大なカリスの魔力を供給され安定し始める。


〈……リンク開始〉


 魂や精神に干渉する能力に秀でたプルートがリーフ、フェイ、カリスの精神を連結する。

このサポートによってスムーズに作業は行われ、ようやく結界は完全に安定する。

彼らは理解していた。

この結界が消えればこの辺一帯は消えて無くなるであろう事を。


 光球は人型に変形し、不安定に瞬いている。

放出される閃光は、今のところ渾身の結界に阻まれて外部には漏れていない。

しかし、同じ結界に閉じ込められた竜巨人はたまったものではない。


 狙っているわけではないようだが、放出される閃光が竜巨人を次々と貫く。

すると肉体には傷が無いのに、凄まじい悲鳴を上げてのたうち回るのだ。

それもそのはず、漏れ出す閃光は制御しきれなかった神気。

妖獣でもある竜巨人は、神気に浄化されることで内側から抉られるような苦痛を味わっているのだ。



 一方、当のフィオはというと。


「(ぐぬうううう! せ、制御できない!)」


 暴走を必死に抑え込んでいた。

これしか方法が無かったとはいえ、他に手が無かったかと考えてしまう。

例えるなら地上に顕現した超新星、完全に制御を失えば世界を吹き飛ばす大爆発だ。

これが神が地上に顕現しようとしない理由だった。

あまりにもリスクが大きすぎるのだ。


「(いかん、これファラクに文句言われるな。てか、暴発したら間違いなく消される……)」


 幸いリーフたちが結界を強化してくれたおかげで、今のところ周囲に被害は出ていない。

ナイスフォローである。

後は自分次第なのだが正直キツイ。

余波でニクスがぶっ飛んでいるようだが、それを気にする余裕も無い。 


 こちらに来てすぐに魔神化を試した時は、徐々にアクセルを踏んでいく感じで試した。

だからマズイと思った瞬間止めたので、特に被害は出なかった(と、フィオは思っている)。

しかし、今回は生存本能のせいか単に慌てていただけかは不明だが、あの時の比ではない。

トップギアでアクセルを踏み抜いた急速発進のようなものだ。

エンストして止まれよ! とかアホなことを考えてしまう。


 それでも徐々に減速するイメージで暴走を抑え込んでいく。

やがて人型の光は様々な魔物を組み合わせた様な怪物の姿に変わっていく。

ギアチェンジに成功し、魔王化状態になったのだ。

もちろん、この状態でも暴走は治まり切っていない。


「もう少し……大悪魔形態アークデーモン・モードにまで抑え込めれば……」


 やがて放出される閃光が落ち着いた時、そこには異形の怪物が立っていた。

山羊の頭に立ち上がった獅子の下半身、背には竜と鳥の翼が一対ずつ。

全身にはまばらに黄金の装甲が張り付き、胸には巨大な宝玉。


「ふう、半魔王形態ハーフ・デーモンロード・モードってとこか。治まってよかった……」


 魔王と大悪魔の中間の半端な姿。

魔神を10、魔王を5、大悪魔を3、魔人を1とした場合の4。

ここでようやくフィオは制御を回復した。



やっちまったフィオ。


どうにか治まったが、振れない刀は抜くもんじゃない。

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