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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
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狂竜

 見る影も無く変わり果てたニクス。

爛れた様な眼光がフィオを貫く。


「この感じは妖獣か? そうか、歪みまで取り込んでいるのか……」


 歪みを吸収し魔力に変換する浄化能力。

これを持っているため、フィオ自身が妖獣と接触したケースはほとんど無い。

だが、相手が自分の天敵であることも分からぬほど壊れた妖獣を倒したことはある。

これは力の強弱というより、歪みによる浸食の度合いが大きい。


 ともあれ、倒した妖獣は普通の動物が変質したモノだったので強くはなかった。

だが、もし魔獣や幻獣といった強力な種族が妖獣化したとすれば、その強さは恐るべきものとなるだろう。

事実、そういった高位の妖獣は天災扱いされており、国を挙げてようやく討伐されるような存在だ。

竜化したニクスがベースの妖獣、どれほどの脅威となるのだろう。


「これも一種のキメラかね……」


 さすがのフィオも口調に余裕が無い。

かき集めた膨大な魔力と生命力、ギフトの邪気、更に長き戦乱によって南大陸に満ちていた歪み。

これらを纏めれば、その力は恐らく自分と同等だ。

問題はコントロールできるかだが、3つの力は不完全ながらも混じり合い、暴走する様子は見られない。

神槍が使えればと思うがクールタイムはまだ終わらない。


「やるしかな……!」


〈GUGEEEEE!!〉


ジャキィ!   ザンッ!


 油断していたわけではない。

だが、一瞬で目の前に現れたニクスのスピードに驚愕するフィオ。

既にその右腕は振り上げられており、二の腕のあたりには巨大な湾曲した刃が生えていた。

とっさに横に飛び回避すると、振り下ろされた刃は豆腐のように地面を切り裂く。

断面は土とは思えぬほどの滑らかさだった。


 巨体に似合わぬ、自分と同等のスピードに驚愕するがニクスの動きは止まらない。

未だ空中のフィオにフックの様に左腕が迫る。

そこには当然のように刃が生えている。


 技を捨て去った野獣のような動き。

しかし、そのスピードとパワーは異常であった。

重い衝撃にフィオの体は砲弾の様に吹き飛ばされる。

斬撃自体はガードしたが、衝撃までは受け止めきれない。


「ッ痛! ……俺って痛覚あったんだな」


 RWOを始め、VRゲームには痛覚緩和機能が搭載されている。

そして、こちらに来てからもダメージをまともに受けたことが無い。

痛みという感覚はフィオにとって懐かしく新鮮なものであった。


 しかし、ニクスの一撃はフィオに痛みを与えた。

それは、今の彼がフィオを殺しえることを意味する。

もちろん、フィオとて只ではやられない。

攻撃を受けた際にカウンターでニクスの左腕を切りつけていた。

 

〈GUUUUUU……〉


ブチブチ ドチャ


「……そう来たか」


 竜殺しの癒せぬ傷。

しかし、ニクスは傷口を周りの肉ごと毟り取った。

投げ捨てられた肉は溶けて消えたが、傷は瞬時に塞がり消える。

確かに対処法としては正しいが、とっさに人間が取れる手段ではない。


 ならばと距離を取りながら魔法攻撃を連発するフィオ。

しかし、全てを飲み込む重力球も、太陽のごとき光球も、絶対零度の低温も、煮えたぎるマグマの海も、全てがニクスの再生力を上回ることができない。

いや、そもそも与えるダメージが不自然に小さい。


「あれはギフトの邪気? 魔法を軽減……いや、吸収しているのか?」


〈GIAAAAAAA!〉


 ニクスの猛攻を躱しながらフィオは見た。

魔法が直撃する寸前、ニクスの体から邪気が滲み出してくるのを。

そこに当たった魔法は本来の威力を発揮せず、更に放出された魔力が取り込まれていくのを。

これでは魔法は相手に餌を与えているようなものだ。


「魔法は駄目か。なら、地道に切り刻むしかないな」


〈GOAAAAAAA!〉


 フィオが選んだのは密着するほどの近距離戦。

巨体に弾き飛ばされるリスクはあるが、代わりに大きな渾身の一撃を受けにくい。

こちらの攻撃は細かく小さな傷をつけるだけで良い。

気球に針で穴を空ける様に、やがて漏れ出す空気が無視できなくなるように。

 

 細かい無数の傷なら、毟り取るという手段は使いにくい。

後は隙を見つけて四肢なり尾なりを切り落とす。

あの無茶な出力から見ても、元より長期戦は不可能なはず。


「ここだ!」


〈GIUッ!?〉


 お互いに小さなダメージが積み重なっていくだけだった状況が動く。

ニクスの嵐のような連撃を、どうにか潜り抜けたフィオの右腕が巨大化する。

初めから見せていれば警戒されたであろう限定悪魔化。

しかし、互いにすれ違った直後では背を向けたニクスは反応はできない。


 狙いは最も魔力の強い胸部。

竜巨人の体は魔力、ギフト、歪みによって構成された高等霊的生物のもの。

しかし、核としてニクスの本来の肉体が存在することをフィオの魔眼は見抜いていた。


 ニクスは振り向こうとするが間に合わない。

防ごうとする尻尾と翼を腕に合わせて巨大化した槍が切り落とす。

槍が竜巨人の胸を貫く。

しかし


ギュルン バサァ


「何ッ!」


 切り落とされた尻尾がフィオに巻き付き、翼がフィオを包み込む。

槍は僅かに刺さった所で止まり、ニクスの本体には届かなかった。

そしてフィオは見た。

竜巨人の身体から邪気で出来た触手のようなモノが伸び、切り落とされた尻尾と翼に繋がっているのを。


 フィオは失念していたのだ。

ギフトがニクスの意思によらず自立行動を取れるという事を。

瞬時に状況を理解し脱出を図る。

しかし、尻尾と翼はドロリと溶け、スライムの様に纏わり付き絡みつく。


「チッ! うっとおし……!」


 全身から魔力を放出し、吹き飛ばそうとするフィオ。

だが、ニクスはすでにこちらを振り向き口腔に膨大な力を漲らせていた。

魔力、ギフト、歪みを混合させた災厄カラミティ・吐息ブレス

切り札を温存していたのはフィオだけではなかった。

使うべきは今、確実に当てられる状況。


 フィオの本能が警鐘を鳴らす。

あれを食らうわけにはいかない、と。

とっさに悪魔化した右腕を盾とする。

そしてニクスのブレスが放たれる。


 濁った光がフィオの体に絡みつく粘体を消し飛ばす。

左腕も悪魔化させ、右手に添える。

右腕はボロボロと崩れていき、槍は地上に落下する。

ニクスもこれで決めるつもりなのだろう。

ブレスは途切れる様子が無い。


「(悪魔化……は無理か。防ぎきれない)」


 悪魔化した右腕が耐えられない以上、全身を悪魔化しても同じ事。

むしろ的が大きくなる分、向こうにとって有利になるだろう。

そう考えると、いきなり悪魔化しなくて良かったのだ。

さらに悪魔化は消耗が激しく、パワーは上がるが小回りが利かなくなるので、使いどころが難しいというデメリットもある。


「(せめて一瞬でも凌げれば射線から逃げられるんだが……。ギフトの自立行動、何で頭から抜けてたかな……)」


 右腕は完全に消し飛び、左腕も肘まで崩れ去った。

右腕の修復を急ぐが間に合わない。

まさに絶体絶命。

そんな状況だからこそ本能は解決策を導き出す。


「【魔王化】、いや【魔神化】か……」


 暴走の危険などと言ってはいられない。

切れる札は切らないと、死ぬ。

そう、死だ。

数多振りまいてきた世界の真理。

それが自分に降りかかる。

それは恐ろしい事だ。


 それを避ける為なら何でもする。

それは生物の本能だ。

フィオは少し驚く。

自分に生物の本能などというモノが存在することに。

元はオリジナルのコピーデータであり、今は悪魔などという生き物かどうかも怪しい存在。

その自分にそんなモノがあるとは。


 覚悟は決まった。

幸い周囲は結界で隔離されている。

南大陸が吹き飛ぶことは無い、と思いたい。


 暴走というならニクスも同じ。

彼にできて自分にできないはずがない。

ほんの短時間でもいいから、制御できれば。

いや、やってみせる。



 そして、次の瞬間フィオの左腕が消し飛び、その体がブレスに飲み込まれた。




実際は2体1だった訳ですが、ニクスが1人で粘ったのでフィオに『相手はニクス』という先入観ができちゃったんですね。


邪神も下手に動かず隙を窺っていたのです。

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