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リバース チェンジ ワールド  作者: 白黒招き猫
第2章 獣人大陸内乱編
74/216

限界突破

 荒れ狂う力を押さえつけ、ニクスは曲刀を振るう。

気を抜けば暴れだし、何もかもを破壊してしまいそうだ。

膨らみ続ける破壊衝動を、目の前の敵に集中させ何とか制御する。


「ヌン!」


「はっ!」


キキン


 こちらは二刀流、大半の武器に手数で勝る。

しかし、相手は槍を回転させ刃と石突きを使って対抗してくる。

遠心力が威力を底上げし、逆にこちらの曲刀が弾かれる。


 ニクスにとって、長柄の武器とは槍であり、槍とは集団で敵を突くための武器だ。

よって、棒術を取り入れた変幻自在の近接戦闘を経験するのはこれが初めてであった。

単純なスペックはかなり近づいたが、まだ届かない。

魔法も合わせればこちらの手数の方が負けているくらいだ。


「ふっ!」


ブオン


「!」


 フィオが大きく槍を薙ぎ払いニクスは辛うじてそれを躱す。

フィオはそのまま背を向け、一回転してもう一度薙ぎ払おうとするがニクスも黙っていない。

フィオが背を向けた瞬間駆け出し、曲刀を振るう。

だが


パパン!


「ナニッ!?」


 フィオの背中の翼が曲刀の側面を叩いて軌道を逸らす。

さらに後ろ向きの状態で回転を止め、背後に向かって槍を突き出した。

ニクスはフィオが背を見せたのが誘いであったことに気付くがもう遅い。

胸のど真ん中に石突きがめり込み吹っ飛ばされる。


 再生した翼でどうにか姿勢を戻し、足から着地。

魔法による傷だったので翼の傷は再生した。

しかし、全身の傷は遅々として治らず、今受けた一撃も治らない。

竜殺し。

最悪な能力であった。


 焦燥感が心を染める。

フラッシュバックする前世の記憶。

焼かれる故郷、蹂躙される民。

衣食住を失い獣と化した人間が、武器を与えられ延々と殺し合う地獄。


「サセナイ……」


 何かをやりたかった。

何かができるはずだった。

しかし、できなかった。


 自分は嵐の海の小魚に過ぎなかった。

蠱毒の壺の虫1匹だった。

嵐を起こし、虫を争わせる超大国に対し何もできなかった。

それをなせるだけの力が無かった。


「繰リ返サセナイ……」


 理由は違えど泥沼の地獄と化したこの大陸。

自分の新たな故郷。

救いたかった。

助けたかった。

守りたかった。

そして自分には力があった。


「今度コソ……」


 自分が正義ではない事など承知している。

だが、もはや犠牲無くこの戦乱を収めることは不可能だった。

前世の記憶で知っている。

この手の問題は一時的に和解しても意味は無いのだ。


 火種が残ればやがて新たな戦乱の炎となる。

だからこそ妥協の末の和解、有耶無耶な決着では駄目なのだ。

獣人大陸の在りかたを根底から作り直さなければ意味がない。

この戦争で散った命が無駄になってしまう。


 志を同じくする同志は多く、竜までも力を貸してくれた。

黒竜カダラは自分に新しい時代を見たと言った。

仲間たちは新たな時代が来ることを夢見た。


「コンドコソ……」


 だから動いた。

守るべき同胞に刃を向けた。

血の繋がった親族さえも手にかけた。


しかし


今、負ければ


その全てが




ピシリ



 ニクスの中で決定的な何かが起きた。

絶望が最後の枷を引き千切った。

そして、ソレは始まった。


--------------------


〈オゴァァァァァァァァァァ!!〉


「!?」


 竜化したニクスは確かにパワーアップしていた。

再生力も上昇しており、魔法は有効とは言えなくなった。

もちろん全力で最上級魔法を撃ち込めば倒せるだろうが、殺してしまっては意味は無い。


 個人的に殺すのが惜しいという事もある。

だが、重要なのは彼がギフトや転生者に関する情報を持っているという点だ。

何としても聞き出す必要がある。

プルートの死霊術という手もあるが、あれだと正確性と情報量に限界がある。


 そこで魔法で牽制し、徐々に弱らせ、神槍の再起動を待つ。

ロンギヌスが起動したら暴走するギフトを一気に切り払う。

そのつもりだったのだが


「間に合わなかったか……」


〈アギャ、グゲゴォォォ……〉


 最早、言葉も意味をなさない雄叫びとなっている。

というか、流れ込む魔力が尋常ではない。

こんな魔力どうやって引き出しているのだろう?


〈……よろしいですか? 少々問題が〉


「カリスか? どうした?」


〈無力化した竜達から魔力と生命力が全て吸い出されました。彼らはミイラのようになって死にました〉


「!?」


 カリスからの念話に驚愕する。

盟友である竜達を喰いつくした? 

じゃあ、過激派軍の方は?


「リーフ、敵兵に異常はないか?」


〈様子が変かなーと。傷を負っていた訳でもないのに次々倒れて……、え?、これは、死んでるの?〉


「見せろ」


〈はい〉


 リーフと知覚が同調し、リーフの見ている光景が脳裏に浮かぶ。

負傷の有無に関係なく、次々と倒れていく獣人達。

まるで早送り映像のように、急速にやつれ枯れていく。

それは使い魔に無力化されたドラゴン達も同様だった。


 数十年、竜達に至っては数百年、数千年かけて消費される生命力。

それが強制的に搾り取られていく。

莫大な魔力はその全てがニクスに収束する。


「リーフ、俺とこいつを中心に隔離しろ」


〈はーい。御武運を〉


 全身から禍々しいギフトの邪気を撒き散らし、魔力を啜り上げるニクス。

仲間を、同胞を、盟友を、大切なものを喰らう痛ましい姿。

いや、もはや彼に意識など無いのだろう。

そして、ボコボコと全身が泡立つように変質していく。


 敵の変身をぼさっと見ているほど俺はお人好ではない。

だが、止めようにも放出されるエネルギーは今の俺を上回っている。

暴風の壁の様に渦巻く魔力。

これでは近づけない。


 確かに膨大な魔力だが、使い切りで一時的な物だろう。

だが、1分や2分で枯渇というわけではないだろう。

大人しく準備ができるまで見てろって事か? 

ふざけやがって。


 やがてドロドロの人型の肉塊が膨れ上がる。

その身長は10mはあるだろうか。

だが、大きさ以上に発する魔力が凄まじい。


 突然、流れ込む魔力が減少する。

リーフの結界が空間を断絶したのだ。

しかし、すでにギフトの影響下にあった者達の大半が餌にされてしまった。

生き残りの方が少ないだろう。


 決闘場と化したリーフの結界内。

こちらの増援は望めないが周囲に被害は出ないし、これ以上の吸収もできないはず。

後は俺がこいつを倒せばいいわけだが。


 肉塊は翼と尻尾が増え、徐々に表面が整っていく。

その姿は竜だ。

暴走しても竜化という能力であることは変わらないのだろう。

だが、2本の足で立つその姿は人間味もある。

差し当たり竜巨人といったところか。


「なんか覚えがあるな……」


 濁った眼でこちらを見下ろす竜巨人。

その禍々しく、悪魔より邪悪そうな雰囲気は覚えがある。

RWOで戦った邪竜、狂った状態のカリスだ。


 直感を信じるなら、今のこいつは古竜と同格。

長老竜以上の力を持つ存在。

つまりは神種だ。


「こりゃ、殺したくないとか言ってられないな……」


 そもそも、正気に戻ったとして彼は生きることを望むだろうか?

大切な、守りたいと願ったものを彼はその手で壊してしまったのだ。


 そして、南大陸最後の戦いが始まる。


遂に突き抜けてしまったニクス。


そして、初の自分と同等以上の相手に挑むフィオ。


そして歴史は繰り返す(完全にネタバレのお約束)。

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